多重債務・借金整理


 借金苦に悩む債務者が,返済不能に陥るような返済能力を超えた債務を抱えるようになったのには様々な原因があるでしょうが,債務者が返済期限までに約定どおりの返済をしなければならず,期限を守らなければ電話等で支払請求を受けるという精神的な圧迫と重圧から開放され,精神的平穏を取り戻し,経済的再生を目指したいと考えている方たちのために,その目的のための代表的な手続を説明します。


@ 任意整理
A 特定調停
B 過払い返還請求
C 破産
D 個人再生 
※ どの手続を選択すべきか
 これらの手続きのうちどれを選択するべきかについて,一応の考え方だけを述べてみたいと思います。具体的には,実際にその手続きを進めるうえでの諸事情で変わってくることがあります。
 任意整理と特定調停は,手続を開始するにあたって,一定の返済回数を基準として交渉可能か判断します。
 (基準とする一定の返済回数は,債権者との合意に至った事例や,これから債権処理をしたい個々人が,債権者とどのような取引をしてきたかという個別の事情等,さまざまな要因によって変動します。)
 これは,両手続が債権者との合意を前提(調停には17条決定という調停委員会の判断で行えるものもある)としているためで,基準を大きく超える返済回数では債権者との合意に至ることが大変難しくなるからです。
 しかし,交渉次第では基準を大きく超える長期の返済で債権者との合意ができる場合もあるので,債権者との合意が難しいと判断されても,必ず返済するとの誠意等を示して,粘り強く交渉してみることも大事です。
 返済回数は,「債務総額÷毎月の返済可能金額」で算出します。
 そのために,任意整理と特定調停では,総債務額の確定と毎月の返済可能額の算定をしなければなりません。
 そして,総債務額に対して毎月返済できる額の割合を計算し,各債権に割り振る作業をします。この割り振りは,各債権者に対する債務額に応じた割合で公平に行うのが原則ですが,個々の取引内容によって割り振り額を多少調整します。 
 また,任意整理では,債権者が高利の借金を利息制限法に引き直した計算書を交付してくれないときには,債務者側で引き直す作業も必要になります。
 特定調停では,簡易裁判所の調停委員会が利息制限法に引き直した金額で調停案を示してくれます。 
 すでに述べたように,この両手続は,あくまでも債務者と債権者の合意という形での処理ですので,合意ができる上では債権者ごとに違った条件が付されたり,合意に至らない場合もあります。
 返済について合意ができると,将来の利息は原則として付加されないと考えてよいでしょう。 
 もし,「債務総額÷毎月の返済可能金額」の計算で基準を大きく越える返済回数になってしまった時には,破産を考えておいたほうが良いかもしれません。
 ただし,どうしても破産には抵抗がある方や会社の役員等で破産ができない時には,先ず任意整理や特定調停を行ってみるのも良いかもしれません。
 破産に抵抗がある方の中には,破産後の不利益等について誤解をしている方も多いので,専門家等に相談してみることをお勧めします。 
 しかし,所有している不動産を手放したくない場合や「免責不許可事由」(債務の支払いが免除されない事情)があるような場合は,個人再生を検討してみることになります。 
@ 任意整理について             
 任意整理による債務整理は,本人が債権者である貸金業者に返済不能に陥ったことを説明し,債権者が応じれば,これからの返済について和解する方法でも行えますし,専門家を間に入れて,債権者と借金の返済について話し合ってもらい,債務の整理を行うこともできます。
 高利の金融業者との取引が長く,ある程度約定通りに返済を行っている場合には,債権者との話し合いにより,大幅に返済総額を減額できる場合もあります。
 任意整理による借金返済に関する合意ができた後は,ほとんどの場合,返済額に将来の利息を付ける必要がなくなります。
 将来の毎月の返済額についても毎月の収入と支出のバランスを考慮した金額の前後で,整理前の金額よりも減額して毎月支払っていくことができます。
 任意整理による債務整理は,話し合いによる手続ですので,柔軟な解決が図れるメリットがあります。任意整理したい債権のみを選んで,話し合いによって解決することも可能です。 
 この任意整理は,専門家以外にも取り扱っている裁判外紛争処理機関,任意団体等があり,手続を行っている間,債権者からの支払請求が止まる場合もあります。

A 特定調停について              
 T特定調停とは,「特定債務等の調整促進のための特定調停に関する法律」にもとづいて行われる裁判所での手続であって,特定債務者が申し立てる民事調停の一種です。

@「特定債務者」とは,金銭債務を負っているものであって,
・ 支払不能に陥るおそれのある個人又は法人
・ その事業の継続に支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済することが困難である事業者(個 人又は法人)
・ 債務超過に陥るおそれのある法人
  以上のいずれかに当たるものをいいます。
 また,現に破産原因(支払不能又は債務超過)そのものが存する債務者であっても利用することができます。
    
A「特定債務者」のみが申し立てできる手続です。債権者からは申し立てすることができません。  
U申し立ては,債権者の又は債権者の内,いずれか1つの営業所か支店の所在地を管轄する簡易裁判所にします。 
@申立人は,対象としたい債権者全部を一括して申し立てることができ,簡易裁判所の管轄外であっても,簡易裁判所が自庁で事件を処理するために適当であると判断した場合,事件を申立があった簡易裁判所において処理することができる事になっています。 
 
A申し立ての書式は,簡易裁判所に備えてあるので,申立書の書式に従って記入押印し,対象とする債権者1件(正確には,申立書1通ごと)当たり,個人申立ては金500円,事業者申立ては金5,000円の収入印紙を申立書に貼付し,債権者の数に応じた郵便切手を納めます。その他,財産状況を示す明細や特定債務者であることを明 らかにする資料として,債権者からの請求書や機械から打ち出された伝票等,借金をするにあたって債権者と取り交わした契約書,毎月に収入と支出がわかるもの(必ず提出させる裁判所とそうではないところがあるようです。提出する場合でもコピーで可のようです。)等と,債権者の一覧表を提出することになっています。 

V 調停の流れ
@ 申し立てが済むと,早ければ数日又は数週間のうちに呼び出し状が裁判所から届きます。
  この申し立て人に対する呼び出し状が到着するころには,債権者にも申し立て人から特定調停の申し立てがあったことが通知されているはずです。
  債権者に特定調停の申し立ての通知がなされると,債権者は申し立て人に対して正当な事由なく,電話,ファクシミリ,電報,訪問する方法により支払請求をしてはならないことになっていますし,債務者から直接要求しないように求められた時も,更に上記のような方法で請求してはならないことになっています。
この支払請求がなくなることにより,精神的な平穏を取り戻すことができ,経済的再生への希望を持つことができるようになるのではないかと思います。 
A 第1回目の呼び出された期日では,ほとんどの場合,申し立て人である債務者のみが呼び出され,申立書に記 載された申述内容や財産状況等が調査され,特定債務者であるのか等が検討されます。調停委員会での評議の結果,特定調停を進めることになれば次回の調停期日が指定されます。(ほとんどの場合,2回目以降について呼び出し状は来ませんから,申し立て人が自ら期日を管理して出頭することになります。)  

B調査としての調停期日が終わり,調査に基づいて,債権者と債務者である申立人との間の調停を行う調停期日には,債権者に呼び出し状が送付されます。これに応じて,債権者が出頭してくると,当事者の話を良く聞き,調査期日で調査した債務者の実情を踏まえ,特定調停法の趣旨に則った合意形成を目指します。必要であれば,調停委員会が間に入って調停案を示し,合意ができると調停が成立します。
   
  また,債権者から民事調停法第17条に服する旨の上申書が提出されると,調停委員会の判断で17条決定を行い,法定の期間のうちに異議が出なければ確定し,裁判上の和解と同一の効力を有することになります。異議があったときには,この決定は効力を失います。   
  調停期日における債権者の意見の聴取等や話し合いは,事件を担当した調停委員会の調停委員が行いますので,申立人が,直接債権者と交渉等を行うことはありません。債権者が出頭し,調停成立の場合は,両当事者のほか調停委員会の調停主任と調停委員,書記官が同室します。   
  特定調停を担当する調停委員は,財務や会計を専門としていた民間人や,行政書士等の法律や財務会計の専門家の中から選ばれます。

*任意整理や特定調停は,債務者と債権者との合意を目的とした手続です。これらの手続は,債務者と債権者の任意整理や特定調停を担当した専門家又は調停委員会に対する信頼の上に成り立っているとも言えます。任意整理は債務者の代理人として専門家が,特定調停では中立な調停委員会が処理を行います。いずれの手続も,適切な和解案又は調停案の提示が,合意ができるための重要な鍵となります。

 

*[取引履歴の不開示とそれに対する損害賠償]

 任意整理と特定調停で,和解案や調停案を検討する上でどうしても必要になるのが,金融業者からの取引履歴の開示です。借りて側である多重債務者が取引の履歴を詳細に把握していることはまれで,金融業者に取引履歴の開示を求める必要が生じます。ただ,金融業者としては,取引履歴を開示すると,利息制限法で利息と残元金を計算し直され,過払いが生じたときには,借りて側から過払いの返還を求められる事もあるため,開示を拒むことが多々ありました。この件につき,最高裁判所は,金融業者の取引履歴の不開示が違法であるのかの判断を,平成17年7月19日,「消費者金融会社等の貸金業者は借り手である債務者から取引履歴の開示を求められた場合,特段の事情のない限り,開示すべき義務があり,開示しなかった場合は損害賠償義務を負う。」という初判断をして,大阪高裁に差し戻しました。理由としては,貸金業者としての帳簿保存義務が課されていること等ですが,取引履歴の不開示によって損害賠償義務が発生するとの判断を受けて,消費者金融会社に対する取引履歴の開示と損害賠償を求める訴訟が起されているようです。

 個人情報保護法が施行され,自らの個人情報の開示を要求できるようになりましたが,この権利を逆手にとって,悪意の第三者から,成りすましの個人情報開示請求による情報漏洩が起きる可能性があります。個人情報を管理する企業等では,個人情報の開示請求が本人からなされたものであるのかを厳重にチェックする等,高度な義務が課されることになるでしょう。

 

*[利息制限法の上限を上回る金利の貸し付け]

 貸金業規制法は,一定の条件のもとに,利息制限法を上回る金利での貸付を例外的に有効としている。この利息制限法を上回るが刑事罰に問われない金利について,平成18年1月13日最高裁第二小法廷(中山了滋裁判長)は,借り手保護を重視した判決で,原判決を破棄し,広島高裁に差し戻した。(内容については後日追記予定)

B 過払金返還請求      

平成19年6月現在、多くの金融業者の貸付金利が、利息制限法程度に下がってきているようです。しかし、現在金融業者からの借入金の返済で困っている債務者の殆どは、グレーゾーン金利と言われる高金利で借り入れた人たちです。この高利で借りた債務者も、利息制限法に引きなおしてみると残債務が減るどころか、残元本も支払済みで、支払いすぎてしまった金銭を金融業者から返してもらえる状況になっている場合があります。

 現在返済で悩んでいる債務者でも、何年も返済を続けてきたようでしたら、金融業者から取引履歴を請求して取り寄せ、利息制限法に引き直してみたらいかがでしょうか。もしかすると、あなたは、債務者ではなく、債権者になっているかもしれません。

 取り寄せた取引履歴の再計算や取引履歴の取り寄せについて不安のある方は、専門家に相談してください。取り寄せた取引履歴の再計算は、良く利用されている業者がおこなった再計算書でも、再計算の考え方が間違っていて、再計算後の金額に疑問があるものも、かなり有ります。単純に計算ソフトで、利息制限法所定の金利に置き換えるだけではないことにも、注意が必要です。

 さて、過払いが生じていた事が分かった後の手続については、過払金の返還を金融業者と専門家の代理人に依頼又は自分で私的に話し合う等の他、過払金返還請求訴訟(簡易裁判所の一般調停で過払金の返還を取り扱う庁もあります)の申し立て等があります。


C 破産手続について              

*破産法が改正され,旧法では破産決定と免責許可決定の時間の差があるとき,その間隙を狙って債権者が債務者の財産に強制執行が出来るのかという解釈上の問題があり,強制執行を是とする判断がされていたため,これを修正するなどの改正が行われました。内容的には,ドラスティックな改正があったわけではないようです。

T 破産とは,債務者が支払不能に陥った時に,選択することができる法律に定める債務整理の方法であり,生活必需品を除いた債務者の財産を,裁判所から選任された破産管財人がお金に換えることができるものをお金に換え,債権者に配当する清算手続,個人の場合には,経済的再生にために債務の支払いを免除する免責制度,債務者にお金に換える財産がなく,債権者に配当する資産がないときには管財人が選任されず,すぐに免責になる同時破産廃止からなっています。

U 破産の申し立ては,債務者だけではなく,債権者からもできます。債権者からの申し立ては,債務者の不公平な弁済や資産隠しなどの場合に,資産の減少防止のための取り戻しや資産内容の開示のために行われることもあるようです。

U 破産手続の流れ

@ 申し立て

A 破産手続開始決定

裁判所は,債務者が借金等を支払う資力がないと判断すると,破産手続を開始する旨の決定をします。

B-1 破産手続

B-2 免責手続

D 個人再生について