内容証明について


 内容証明は,内容証明郵便のことを省略して表現されているようです。さて,この内容証明郵便は一般の郵便と同じく,意思の内容や事実等についての伝達手段として存在しています。

 ただ,一般の郵便と違っているのは,誰から誰あてに,どのような内容の文書が差し出されたかが謄本によって証明されることですが,もう一つの効力として,確定日付があるものとされる(民法施行法第5条第1項第5号)ことです。


内容証明であっても,意思や事実内容を相手方に伝えるという機能は一般の郵便と何らかわりません。

それでは,どのような場合に内容証明郵便を利用したら良いのでしょうか。

@ まず,「後日相手方にどのような意思表示をしたかが法律問題となりそうなとき。」です。

たとえば,一方的な意思表示で法律関係の変動をさせる法律行為である「解除」「相殺」「取消」「追認」「遺留分減殺請求」「賃料増額請求権」等の意思表示です。一定期間時効の完成が猶予される(時効停止)「催告」もここに含まれるでしょうか。

A 次に,「既に当事者間で成立した権利関係の事実を他人に対して主張するための法律要件となる場合」です。

 たとえば,「指名債権譲渡の通知」です。これは,指名債権譲渡の事実について,譲渡人(譲渡前の債権者)から債務者への「通知」や確定日付が,「対抗要件」となるものです。

 上記以外の事では,内容証明郵便を利用する方が良いのかを,相手方との関係等によって考えてみる必要があるでしょう。

 特に,こちら側と相手側とに考え方の違いが有る場合には,内容証明郵便を利用することによって,かえって溝が深まってしまう事もあるでしょう。

 かなり柔らかな内容にしても,同様な傾向にあります。これは,内容証明郵便は,戦う郵便であるというような認識が一般にあるからではないでしょうか。

 このようなことから,何でも初めから内容証明郵便を使って相手方に意思等を伝達するのは考えものです。話し合い程度で済むことが,大変な紛争状態に発展してしまうこともあります。

 特に,法律実務家は,この辺を良く考えて内容証明郵便を利用してもらいたいと考えています。

 法律実務家へ相談に来る方は,自分の権利をどうしても通したいという方も居るでしょうが,今までの私の経験では,法律実務家の専門知識を借りて,法律と一般常識の範囲内で,相手方と何とか円満に解決したいと思っている方やそう思うようになる方が圧倒的に多いように感じます。

 最初に相談に来る時には,自分の正当性や権利のみを主張し,その実現のために専門知識を利用したいとの考えを持っている方が少なくないのですが,権利というものはいろいろなバランスの上に成り立っていることや,相手方にも事情や言い分があるかもしれないし,その事情や言い分について相談者が受け入れられないものであっても,一般社会では考慮されるものかもしれないこと等をお話すると,「相手方と何とか円満に解決したいと思うようになる方」が多いのです。

 法律実務家は,これからの事後救済社会へ移行して行く中で,紛争を収めるという姿勢で業務に臨んでもらいたいと考えています。よく相談で,「あなたには,このような権利がありますから,相手側に請求しなさい。」との助言を耳にしますが,一方当事者の話だけを聞いて確定的な助言をしてしまうことが,新たな火種を提供していることになりかねないのです。