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B】 調査会社とクライアントの実情


B-2 : 調査結果と売上結果が乖離する原因


売上結果が悪いと「調査の責任」にする傾向!?


調査での良い結果だけは ’独り歩き’する!

メーカーが新製品を導入するか否かを判断する際、販売量予測テストやコンセプト付製品テスト (C&P Test) を行うことが多々あります。

その調査結果で、売上の販売量や金額の予測値、あるいは、試用意向や購入意向の数値が事前に設定したアクションスタンダードを超えれば、予期せぬ事態が起きない限り、経営幹部から 「Go!(導入)」 の指示がでます。
そして、その時点から ’今回の新製品は事前調査で、良い評価を得た’ という評判が独り歩きします。
 それが、ギリギリの線でパスしたとしても ・・・。


売上結果が芳しくないと、まず、調査結果に疑問を抱く!

ところが、その新製品が市場に導入されて6ヶ月~1年が経過した時点で売上げが販売予測を下回ると、経営幹部・マーケティング・営業の人から調査結果に対する疑問の声が出てきます。

それは 「調査結果は良かったのに、どうして売れないのか?」、「調査のやり方に問題はなかったのか?」 という短絡的思考の発言です。
そして、心ない人からは 「だから調査は信用できない!」 というセリフも出てきます。



調査に疑問を抱かれる要因は何か?


このような非難を受けた時に、経験豊富なリサーチャーの方たちは、どのようなことをお考えになりますか?
仮に、私がクライアントの調査担当者で、自分が担当して最善を尽くしたと思う調査で、上述のような発言を聞いたら、次のような観点でその要因を考えるでしょう。



   調査会社サイドで考えられる要因 

「調査会社は、最善を尽くしてくれただろうか?」 と自問自答!

まず最初に、<調査会社で、このプロジェクトを担当した各部署の人たちが、正確な調査結果を出すために、最善を尽くしてくれただろうか?> という思いです。

この点については、後記の 【 C-3 : 「調査の信頼性」を左右する人たち 】 でふれているため、ここでは詳細な説明は割愛します。
ただ、そこでのポイントを一点だけ言いますと、<ひとつの調査において、調査会社の各担当者がどれだけ真剣な態度で、その仕事に取り組んでくれたかによって、その調査の「品質」や「精度」が決まる> ということです。

しかし、調査会社が行う作業の全プロセスを、自分の目で確認することは不可能です。 ここは、私の 「調査に対する姿勢」 を理解してくれている、と信じて選定した調査会社とその社員を信じるしかありません。


   クライアントサイドで考えられる要因 

調査結果を非難する人たちの思考パターン!

販売量予測テストを行う際に入力するマーケティングデータ、あるいは、コンセプト付製品テスト (C&P Test) を行う際にコンセプト上に記載する情報などの「質」や「量」で、調査結果がかなり左右されます。

ところが、クライアントで調査(結果)を非難する人たちは、

 調査段階で、調査がどのような調査設計や前提条件で実施されたか

 発売段階で、販売促進活動(広告宣伝・営業活動・販売店サポートなど)が、
   どのような条件(質と量)で行われたか

 調査結果が、どのような状態で使用・活用されたか

といったことには無関心で、単に、調査で出た
数値(販売予測金額など)と売上結果の比較でしか判断できない人たちです。
つまり、調査段階(販売予測テスト)で20億円の売上予測値が出たら、発売段階でも当然それに近い売上結果が出るはずだと思っている人たちです。

ところが現実には、
調査段階での「前提条件」や「提示情報」と、発売段階での「販促活動」の質や量の間で、かなりの差が生じることがあります。

典型的なケースを、2点ご紹介しましょう。

① 調査段階での「前提条件」が変われば、予測値も変わる!

販売量予測テストでは、売上の販売量や金額の予測値を算出する際、マーケティングデータとして「認知率」、「配荷率」、「GRP (Gross Rating Point - テレビCMの総視聴率)」などを前提条件として入力します。

その際、例えばGRPを 2,500 / 3,200 / 4,000 の3通りで予測値を出したのに、発売段階では諸事情で広告予算が削減されて 2,000 GRPしか投入出来ないという事態が時として起きます。 そうすると、GRPの減少は「認知率」にも影響し、それが売上げに影響を与えることがあります。

非難する人たちは、そもそも調査段階の ’
前提条件’が頭の中にないため、発売段階で売上結果に影響を与える重要な ’条件変更’を考慮していないのです。
そのため、調査結果の数字(金額の予測値)だけが付きまとい、的外れな非難をしてしまうのです。

調査担当部署としては、そのような変更が生じた時は 2,000 GRPにした場合で再計算をして、関係者に下方修正の告知をすべきです。
しかし、現実的には、 2,000 GRPに減少した事実が調査担当部署に知らされるタイミングがかなり遅いこと、その新製品の売上げがすでに芳しい状態でないため関係者の気持ちがかなり萎えているので、そのような時点で再計算した数字を提示しても、ほとんど意味のない状態になっています。

調査結果と売上結果に乖離をきたす要因としては、このGRPの他に次のようなことが考えられます。

 コンビニやスーパーの本部での評価が低かったため、希望通りの配荷や
  陳列が達成できずトライアルに影響が生じた

 テレビCM の内容に問題 (インパクト不足や訴求ポイントが不明確など) が
  あり、認知やトライアルに影響が生じた

 店頭で新製品としての価値が見出されなかった

●  新製品の発売段階で競合から類似品が出たため、市場の状況が変わった


② 調査段階での「過剰な情報」は、売上結果に乖離を招く!

コンセプト付製品テストC&P Test) に使用するコンセプト(製品説明書)では、新製品の特長や機能を詳しく説明しています。 そして、それらの内容は、発売段階で主にテレビCM やパッケージを通じて伝達されます。 しかし、15秒のテレビCM や(商品にもよりますが)パッケージ上の限られたスペースで伝えられる商品情報には限界があります。

ところが、コンセプト付製品テストの実査が開始される2~3日前にブランド担当者から調査担当部署に届く調査用のコンセプトの中には、15秒のテレビCM では伝えきれないような
盛り沢山の説明(情報)が書かれていたり、イメージを視覚で伝えるために魅力的な写真やイラストが入り込んでいるケースが多々あります。

会場調査では、調査対象者がコンセプトにじっくり目を通すため、そこで得た全ての情報がその新製品の評価に反映します。 そのため、
過剰なプラス情報を与えたコンセプトの調査結果は過大評価になりがちです。
その結果、調査時点より情報量が減ったり、伝達内容が変わったテレビCM の基で市場に導入された新製品は、調査時点のような高評価を得ることは厳しくなります。

調査結果は、調査時点で100%の「認知 (全員がその商品を知っている)」、「配荷 (全ての店舗で取扱われている)」、「理解 (商品の特長・機能などを分かっている)」 という条件下で評価された結果であることを、認識しておくべきです。


 調査に使用するコンセプトを作成する際は、テレビCM で表現・訴求できそうな内容・範囲で考えるべきです。
そして、調査で評価の高かったコンセプトは調査結果を精査し、高い評価を得た要素をテレビCM に巧みに組み込むことです。 それが調査結果と売上結果との乖離を防ぐ、ひとつの重要なポイントになります。
 




  調査段階と発売段階での条件や情報の格差を防ぐ!


調査結果と売上結果が乖離し、そのために調査不信を招く要因の一端はクライアントにもあります。

それは、<
調査段階で調査対象者(消費者)に与えられた情報> と <新製品の発売段階で消費者に与えられた情報> の間で、ギャップが生じることです。

ブランド担当者が留意すべきことは、次のような点です。

▷ 調査段階で
コンセプトを作成する際、その内容が発売段階でも再現できる
  かを
考慮する

▷ 調査段階での前提条件を、発売段階でも可能な限り実現させる

▷ 発売段階では、調査結果で
ポジティブに評価された部分を精査して、テレビ
  CM をはじめとした
コミュニケーションツール巧みに反映する

つまり、調査段階と発売段階で
条件や情報の与え方に有意な差が生じないようにすることが大切です。



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