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D】 調査環境の変化


D-1 : インターネット調査の台頭と課題


 インターネット調査の急伸と訪問面接調査の衰退


日本マーケティング・リサーチ協会 (JMRA) の資料で、2003年と2008年の調査手法の利用率を比較すると、この5年間で訪問調査が 15.3% から 7.6% に、会場調査(CLT)が 10.1% から 7.5% に下降しているのに対して、インターネット調査が 8.3% から 19.9% へと大幅に上昇しています。

社会環境の変化・悪化などから訪問調査や会場調査の実施が厳しくなっていく中、IT の発展に伴い「速い」、「安い」が特長のインターネット調査は当然の成り行きとして台頭しています。
このデータは直近が2008年ですから、現在ではその割合をさらに伸ばしていることが予想され、今や、インターネット調査は避けては通れない調査手法となっています。


インターネット調査と訪問面接調査の相違点

このインターネット調査は、同じ定量調査において代表的な調査手法だった訪問面接調査と大きな相違点があります。
インターネット調査を利用されている方、あるいは、これから利用を考えられている方は、すでに認識されていると思いますが、その相違点の中で、主要なポイントは次のような点です。

 データの収集手段が、訪問調査は「調査員」という人間が介在しているの
  に対して、インターネット調査で介在するのは「パソコン」で、人間が全く介
  在していない

 訪問調査は母集団を規定できるが、インターネット調査は回答してくれる
  サンプル(対象者)が募集形式で集まった「モニター制」のため、
母集団
  規定できない

 インターネット調査は母集団から無作為にサンプル(調査対象者)を抽出
  できないため、従来の
サンプリング理論が通用しない



 インターネット調査の長所と短所 


インターネット調査には、次のような長所と短所がありますから、その性質を十分に理解・認識された上で、利用してください。

  <長所>

 実査に要する「時間」と「費用」が、他の調査方法に比べて格段に優位で
  ある

 多数の調査対象者に
一斉に配信(コンタクト)できる

 
出現率の低い調査対象者を容易に探すことができる

 訪問調査のように調査員が介在しないので、人間によるミス(聞き間違い、
   記入間違い、勘違いなど)や
バイアスの心配が少ない

 データの回収と集計ソフトが直結するので、集計期間を短縮できる

 対象者は登録モニターなので、調査依頼がきた時に心の準備ができて
   いるため協力率が高い


  <短所>

 サンプリング理論が通用しないため、「代表性」について統計学的な保証
   が得られない

 母集団の名簿として使えそうなものがないため、「精度」に関して疑問を
   持たれる

 モニターは希望者を募集するので、サンプル(調査対象者)としての「
   作為(ランダム)性
」がない

 インターネットの利用者で、かつ、調査モニターの登録者に限定される

 インターネットの利用者数やモニターの登録者数に、性・年令などで偏り
   がある

 回答時の調査対象者の「本人確認」が不可能なため、「なりすまし」(例:
   夫婦の間で、妻が夫の代わりに回答、あるいは、その逆など)の危険性
   がある

 パソコンを相手に回答するため、調査対象者の良心に頼るしかない

 調査対象者に小遣い稼ぎの意識が高まると粗製乱造的な状態が生じ
   て、「調査の品質」の低下を招きかねない

 調査対象者が何回も協力することによって慣れが生じたり、事前準備
  (認知・購入銘柄の学習)をしてしまう


以上がインターネット調査の長所・短所ですが、今のところ、「速い」、「安い」の長所が優先されており、調査の本質を歪めかねない欠点の部分は、ほとんど軽視・無視されているのが実情のようです。



 インターネット調査を実施する際の留意点 


PCの画面段階で、チェックシートに基づいた最終確認作業が必須!

インターネット調査は、訪問面接調査や会場調査のように調査対象者の反応・様子を見ながら回答を得ることができません。 従って、対象者が回答の仕方を間違っていたり、調査票の内容・表記・展開などに疑問やストレスを感じながら回答している様子が、調査の実施者側には分かりません。

調査の実施者側の努力で、インターネット調査の精度を高めることが出来る方法は、次のような作業を励行することです。

1) 調査対象者が質問の主旨を正しく理解でき、そして、ストレスを感じない
   質問の内容や展開の
調査票原案を作成する

2) その原案を基に
PCの画面上に調査票を作成した後、チェックシートに
   基づいて、8~10通りくらいの模擬回答で最終確認作業を行う

3) その調査プロジェクトに関係していない社内の5~6名の人に、PCの画
   面上で
パイロットテスト(試験的なテスト)を行ってもらい、次の点について
   フィードバックしてもらう

 質問番号順に正しく進んだか

 回答内容に沿って、正しくスキップ(次の該当質問へ飛ぶ)したか

 写真や提示物が、画面に正しく表示されたか

 写真や提示物は、内容や中身を確認できる大きさだったか

 質問文や選択肢で、分かりにくい内容がなかったか

 途中で、回答するが嫌にならなかったか


上記の 2) や 3) の結果を参考に、PCの画面上の調査票を修正・変更し、より良い調査票にしてください。
インターネット調査でより正確なデータを得るためには、この段階の作業を慎重に、かつ、丁寧に行うことが必須です。


「調査の信頼性」を維持するために、妥当な対象者謝礼の検討!

インターネット調査の登録モニターの人たちの中には、調査に興味があって協力してくれる人と、お小遣い稼ぎが目的で協力する人がいるようです。
この人たちが、どのような気持ちや意識で回答しているかによって、調査の精度が変わります。

インターネット調査の懸念点のひとつとして、現在の調査対象者への謝礼(金額)が妥当かという問題があります。

100万人に近いモニターを所有している調査会社における一例ですが、謝礼はポイント制が多く、例えば、スクリーニング調査の段階で3~10問くらいの質問に回答した謝礼は3~5ポイントくらいです。
そして、500ポイント貯まると現金化できるという会社がありますが、500ポイント=500円ですから、かなりの量のアンケートに回答しないと、ある程度満足感が得られる収入にはなりません。

見返りがこの程度だと、真面目に回答してくれる調査対象者は、所要時間や手間に見合った金額でなくなるために脱落していき、その結果、粗製乱造的な対象者しか残らない危険性が生じてきます。


調査会社が提出する調査見積書で、対象者関連の1票当たりの費用(モニター使用料や謝礼)は結構高い金額を請求しているにもかかわらず、調査対象者に実際に支払われる謝礼が少ないとしたら、「調査の信頼性」を保つという観点から考えると疑問に思います。 現状ですと、’
安い謝礼 = 調査の質の低下 ’ の図式が懸念されます。

 今後、インターネット調査を信頼できる調査方法として確立していくためには、モニターの質の維持が重要な課題です。 それは「人間の心理」として、金銭的な満足感が得られないと対応が雑になっていく傾向があるからです。

勿論、金額が高ければ良いというものではなく、調査対象者と実施者の両方から見た採算分岐点のようなものを、しっかりと把握して決める必要があります。 





  インターネット調査の「信頼性」を高める努力!


インターネット調査のユーザーの方たちは、上述のような実情を十分に理解・認識した上で、利用されることをお勧めします。

そして、調査会社やクライアントの調査担当の方たちは、インターネット調査を実施する際、
PCの画面上で行う調査票の作成作業を慎重に行い、調査の品質の向上に努力してください。


インターネット調査の信頼性を高めるために JMRA の尽力が必須!

マーケティングリサーチ業の団体である
日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)は、インターネット調査が上述のような問題点を抱えたまま定着してしまう前に、短所を少しでも改善するための研究や協議を行い、より信頼されるインターネット調査を確立してもらいたいと思います。

JMRA 主導で 「現状説明書」、「改善計画書」、「実施規範書」などを作成し、各調査会社の
クライアントに告知して、理解と協力を得るという方法があります。

調査会社が独自にそのようなアクションを起こすことは、大変なエネルギーと勇気を要します。 JMRAがそのような役割を果たせば、調査会社個々の精神的負担は軽減し、また、インターネット調査の信頼性の向上にも役立つはずです。


 
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