D-3 : コンシューマー インサイト への移行と課題 |
◆ 買い手が意識していない購買心理や行動を探る ◆
2000年代に入って、外資系のメーカーなどで、調査部門の名称を 「マーケティング リーサーチ部」 から 「コンシューマー インサイト部」 に変更する会社が目立ちました。
同時に、調査手法や分析手法も 「マーケティング リサーチ」 から 「コンシューマー インサイト」 へ移行し、かなり手の込んだ方法を取り入れるようになりました。
これは近年の「商品の飽和状態」、「消費の多様化」、「消費者意識の変化」 などから、従来のようなデモグラフィックス(人口統計)による表層的な分析では消費者を見極めることが出来なくなったからです。
そこで登場してきたのが、消費者自身が意識していない購買心理や行動、あるいは、ホンネなどを見極めようとするコンシューマーインサイトという考え方です。
つまり、人間が言語化できないニーズや無意識下にある心理・行動を探りながら、消費者がどのような生活を望んでいるか、あるいは、どのようなブランドや製品を欲しているかを洞察しようというアプローチです。
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◆ コンシューマーインサイトに向かない商品カテゴリーがあるのでは!? ◆
コンシューマーインサイトを目的とした調査手法も出ていますが、手法によっては疑問に感じるものがあります。
針の穴を通すような厳しい調査対象者条件!
コンシューマーインサイトが導入されて起きた変化は、調査対象者条件が時には針の穴を通すように狭くなったことです。
その理由は、定量調査や定性調査での調査対象者条件に、性・年令や購入銘柄だけでなく、お気に入り銘柄に関する購入理由・頻度・個数、子供の有無・年令、生活・健康意識 といった項目が入るようになったからです。
定量調査では、対象者条件が多少厳しくてもインターネット調査という方法があるため、対象者条件に適合する人たちを探すのはそれほど困難ではなく、また、出現率が低いある特定セグメントの人たちで分析することも難しくはありません。
ところが、定性調査(主に、One-on-one インタビュー)用に、出現率があまり高くないある特定セグメントの人ばかりを、例えば18名(性 X
年令 - 20~40代で各3名)リクルートするのはかなり厳しい作業になります。
そして、このようにして得た定性調査での僅か十数名の結果を基に、ある特定セグメントユーザーの特長やプロフィールなどを性・年代別(例:20代男性とか40代女性)で描いています。 さらに、その結果を定量調査での同じセグメントユーザーの結果と一緒に分析することもありますが、整合性に欠けることが多々あります。
ちょっと疑問符のつく厳しい調査対象者条件と言えます。
「低額商品」にインサイトは不向きな分析!?
このような調査手法は外資系企業の海外本社が導入を決定し、各国の支社にその手法で調査を実施させています。
ところが、【 D-2 調査会社のグローバル化の光と影 】 で既述したように、本社がその調査手法の導入を検討した際、決定権者(経営幹部)へ説明・提案を行うために選定作業を行った実務者レベルのメンバーに、「調査」に精通した人が存在していなかったために見落したと思われる、この調査手法の欠点のようなものが見え隠れしています。
それは低額商品は、銘柄独自の強力な購入理由があまり存在しないため、深層心理の分析法でインサイト(洞察)を行っても、銘柄間で明確な差別化要因が出てこないことです。
自動車、電気製品、海外ブランドのファッション・時計・バック・靴といった高額商品は、価値観、満足感、優越感、憧憬といった心理的要素が潜在と顕在の両方の意識で存在するため、銘柄の決定や購入の決断の際に強いドライバーとなります。
しかし、食品(飲料・菓子・加工食品など)や日用品といった低価格のために試し買いや銘柄変更が簡単にできる低額商品は、心理的要素の関わりが浅くて少ないものです。 そのため、おいしい、食べやすい、パッケージが扱いやすい といった物質的・身体的要素で購入銘柄が決められ勝ちです。
特に、飲料や菓子といった口に入れて ’おいしさ ’を楽しむ商品は、味覚の記憶や好みが無意識に働き、店頭でいつの間にか手にしているケースがあるようです。
このように高額商品はメンタル(心的)な要素が強く働くため、深層心理の分析法でインサイト(洞察)が可能です。 ところが、低額商品は、フィジカル(身体的)な要素に偏るため、インサイトが難しくなります。
このように、ちょっと強引とも思える調査手法によって得た定量・定性調査の結果が、大切なブランドのコミュニケーションやターゲット戦略の立案などに利用されることに疑問を感じます。
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☞ コンシューマーインサイトには、「メンタルな要素」が必須!?
高額商品はメンタル(心的)な要素が強く働くため、深層心理の分析法でインサイト (洞察)が可能です。
ところが、低額商品は、いくら対象者条件を絞り込んで消費者の洞察を行っても、購入理由がフィジカル(身体的)な要素に偏り、また、ブランドイメージも深み・振幅がないため、銘柄別のユーザー分析や銘柄間の差別化ポイントの発見は、かなり厳しいと言えます。
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