「どうしたの? 雅夫さん」 里美は、玄関に立つ夫の姿をみながら心配そうに言った。 青々とした髭剃りの跡のめだつその顔は、深刻な雰囲気をどことなく漂わせていた。 「…父さんところに客が来てる」 桃 雅夫は、いつも彼女にかける声より低いトーンでそう告げる。 「あ…。そういうことだったのね」 かってに納得する妻の表情を、怪訝そうに雅夫は覗き込んだ。 「うぅん…なんでもないの。お義父さんったら、お菓子がほしいとか急に言い出すもんだから」 口に手をあて、笑いながら応える。 「……」 「でも、こまるわぁ、今日金太の学校のお友達が来るって言っといたハズなのに…勝手にお客さんなんか呼んで」 雅夫は彼女が明るい声とは裏腹に、表情は少し硬くなってる事に気づいた。 「たしか、ようかんが冷蔵庫にあったわね、あれをお出ししましょう」 そんな彼女の様子をうかがう雅夫を意にかえさない様子で、そういうと里美は踵を返した。 が。 その肩が急に後ろから伸びて来た手に引っ張られた。 その手を受けて、里美は驚いた表情で、振り返った。 「…何?雅夫さん…?」 「あの男…」 雅夫の口が、重たそうに動く。 「警官かも知れない…」 「えっ。」 里美の表情が、驚いたまま曇る。 「なんとなくだが、物腰がそんな感じがした…多分」 鼻におおきなできものがある男だった。 ハァ…ハァ…。 ――――工事中――――――――。 通行止めの小さな柵をまたぐと、タイル張りの歩道に、足が付いた。 「今、あなたのお孫さん。そしてこの日本で進行している状況…。」
|