ジリリリリーン。
目覚し時計の音が、おせじにもキレイといえない部屋に響いた。
そこらにCDやらポスター等が転がってるあたり、部屋の主はあまり整理整頓が得意なタイプではないのだろう
 しかし、ピンク系の色が多く使われた部屋の内装は妙に女の子らしい。
ジリーン、ジリーン、・・・ジリリリリーン!!
 更に大きな音量で目覚し時計がわめきだした。
「うぅ・・・・。」
 ベットの上で、乱れたパジャマ姿の少女がけだるそうにうめいた。
彼女は寝返りを打つと、腕を音のする方に伸ばし・・・。振り下ろす。
・・・がしゃ!!
・・・鈍い音とともに目覚し時計は潰れ、部屋には静寂が戻った。

 やがて、彼女は目をこすりながら起き上がり。
「ふぁ〜〜〜〜〜!」と、
先刻、時計を破壊した手を今度は口元にあてて、東十条つぐみは大あくびをひとつした。

 『毎朝・夜 腹式呼吸100回×2セット』
パジャマの上を脱ぎ捨てて、向いがわの壁に貼られたその張り紙を認めると、彼女はすぅ―――と、息を深く、長く吸い込む。
「・・・テン、テテテテン♪テテテテン!」
 つぐみはそうリズムをとりながら、ベッドの淵から立ち上がった。
「グゥグゥ!」
 つぐみの足元に黄色い、ボールのような物体が近づいて来る。
「来い、テツ!」
つぐみは、テツと呼ばれたその黄色い物体の名を呼ぶ。テツはそれに応じ彼女の腕に勢いよく飛び込んだ。
「グウ〜!!」
 つぐみの腕に飛び込んだ、その黄色い物体・・・数年前社会現象になるほどのブームを起こした電脳育成ペットロボパタPi・・・の背中にマイクがセットされた。
「YOU GET Flashback!!」
 そのマイクをつぐみが、テツから分離させると同時にそのパタPi、テツに内臓されたスピーカーからノリのよいアップテンポな音楽が流れ出した。

「〜キヲクの破片が、PraPra落ちて♪ よっと」
唄に振り付けを付けながら、つぐみはショートパンツを腰までずり上げた。
「・・・・っは・・、状況が常識にかわってる〜♪・・・。」
薄でのシャツから頭を出すと、彼女は再びマイクに向かって唄う。
「・・・GET A WAY! RUN NAWAY!」
 つぐみは、声に気合いを込める。この次のフレーズははいよいよこの曲のサビである。
つぐみの耳にもう何度も聞き、唄ったメロディが流れてきた。彼女のマイクを持つ手に力がこもる。
―そして、おなじみのタイミングで・・・・。
―テテ、テテン、テテン、テン
「こいしましょ〜ねばぁりま・・・あれ・・?」
「グゥ、グゥ!」
 彼女は足元で音を流して騒ぐ、テツを持ち上げて怪訝そうにつぶやいた。
「テツ、途中で勝手に曲変えんなよな〜・・・・。」
グゥ?とテツが困ったようにないた。
「『恋しましょ、ねばりましょ』は、はとピョンの曲だろ?でも・・・。」
 つぐみは後ろにある、等身大の立て看板を一瞥する。
「この曲はさぁ・・。」
「グゥ!!」
突然、テツが大きな鳴き声(?)をあげて、机の上の置き時計を指差した。
「あ!」
つぐみの顔が少し崩れた。
「やっべぇ!すっかり時間が経っちまってる!!」
 彼女は慌ててテツをひっつかむと、バン!と大きな音を立てて彼女はドアをあけ、部屋を飛び出した。ドドドというけたたましい足音が部屋から遠ざかっていく・・・・・と思いきや、その足音が部屋にまた近づいてきた。ドン!と、ドアが再び盛大に開いた。
「ふぅ・・・これ、忘れるとこだったぜ。」
 再び部屋に戻ったつぐみは、机の上の緑色のプレゼント用の包装をされた正方形のものを手に取ると、再びドアに向かう・・・その途中でぐみの足が少し止った。
(絶対負けないからな、はとピョン)
つぐみはそう言うと満足したように微笑むと、またドタバタと階下に降りていった。
その音をつぐみの部屋の『オリコン初登場1位だ!打倒!!はとピョン!!』と油性マジックで走り書かかれた紙を張りつけられた等身大のアイドルの立て看板が、聞いていた。

Kinta

Serialnumber 0_R

R(e)MIXforANIMEMEISON'S
mikaihoo/PRESENTS......

 

ACT04:「冷夏の空の下でー前編ー」/part:people/「Mr.Kinta Momo」

 

 ドタドタドタ・・・!
 うえの階から近づいてくる、けたたましい音に、まだ年の若い、よくつぐみに似た目立ちの女性、東十条魅沙子(ミサコ)は朝食を口に運ぶ手を休めた。
やがて、その足音が自分達の居る居間まで入ってきた。
「つぐみ!」
 魅紗子は、自分たちの前を通り抜けようとした足音の主に声をかける。しかし、足音の主・・・つぐみは振り替えろともせずに、バタバタと身支度をしている。
「財布、財布〜・・・どこだぁ〜!?ん?・・・あった!でかしたぞテツ!!そんじゃ行って来ます〜!!」
「チョイまち!!」
パタPiの手を借りるほど慌てる娘を魅沙子は呼び止めた・・が、つぐみはもうすでに部屋を出るところだった。
「えっと、財布もったし、携帯ももったな・・・・あと・・。」
 つぐみは手に持った緑色の包みを一瞥する・・・。と、その時。
「待ってと言ってるのか聞こえないのかい!?」
グイッ!
 突然つぐみは、背後から強い力に引っ張られた。
そして次の瞬間・・・。
「ダァ―――――!!」
 魅沙子の腕が、つぐみの体をおもっきり引っ張り、自分の腕が伸び切る直前に放した。

タタタタッ・・・どすーーーん!
 つぐみが居間に戻る音を聞きながら、魅紗子は満足げに手をパンパンとはたいた。
ピク・・・ピク・・・。
「いてて・・・。」
 つぐみは起きあがろうとして、自分が何か堅くて大きなものに頭からぶつかったのに気がついた。
「・・・はやく、どけ。」
 堅い、岩のような何かがつぐみに向かって低い声を浴びせた。
「・・・あ、父さん・・。」
 つぐみは目の前に立つ大きな岩の様な父親の背中から体を引き離した。

・・・・頭がまだクラクラする・・・。
 そのとき突然、ぼーっとしているつぐみの横にどん。と茶碗一杯、山盛りのご飯がおかれた。
「あ・・・・・・母さん。」
「ホラ、ちゃっちゃっと食っちゃいな!!」
 魅沙子はさらに具だくさんのみそ汁を彼女の横に置く。
その時、つぐみの視界に今の置き時計が目に入った。
 時計の針は自分が家を出なくてはならない時間をとうに回っている・・・。
「・・・あの、母さん。」
 つぐみの声に香の物を出す魅沙子の手が止まる・・と同時に魅紗子の鋭い眼光がつぐみを射抜いた・・・。
「あ・・・あのさ・・、寝坊しちゃって・・・・急がないと、まずいっていうか・・・。」
つぐみはあたふたとしながらも、食事を少しでも早く終わらそうと、テーブルに置かれたビンを手に取った。
「つぐみ・・・。」
 突然、さっきまでとは打って変わり静かにつぶやいた母になにか不吉なものを感じつぐみはゴクンとつばを飲みこんだ。
しばしの気まずさを伴った沈黙・・・・・・。
「あんた、目玉焼きににソースかけてるよ」
「あ・・・。」
 間の抜けた声を上げ、つぐみは黒い液体がなみなみとかかった卵に視線を落とした。