「くぅ!?」
―――なんでだ・・?
金太は突如現れた、むせるような水蒸気の中で思った。
(なんで・・・。)
――オレは血まみれだったんだろう?
――オレは追われてたんだろう?
――オレは撃たれたんだろう?
白い世界が周りに広まる。
――廃屋で見たあの幻覚はなに?
――あの『怪物』は何だ?
――何故、オレはココにいる?
――何故、そうなった原因を覚えてない?
――そうじゃない。
今、彼にとって一番の疑問は・・・。
ばしゃ・・!
前方で一つ、大きな水音がした。
金太は水蒸気の中、無理矢理痛む目をこじ開けた。
―――なんで・・・何故・・・。
音のした方に、ダッシュをかける。
―――オレはこんなに・・。
水蒸気の裂け目から中年男の姿が見えた。
――冷静なんだ!?
先程までと打って変わって、金太の頭の中は不気味なほど冴え渡っていた。
まるで、そうなるようあらかじめ決められていたかの様に。
金太は一分の狂いもなく、大滝の真横へ躍り出た。
「!?」
バシャァァァ!!
金太が死角から現れた・・・と思った瞬間・・・。
大滝は顔面に金太が蹴り上げた水しぶきを浴びていた。
水蒸気で阻まれた視界のスキマからの攻撃、大滝は、暗闇で不意打ちをうけたも同然だったー。
じゃぼん!!
彼の足元に、手にしていた拳銃とペンライトが落下する音が響いた。
(・・・・あの時と同じだ!)
―――金太は廃屋で粟倉に銃を向けられた瞬間の事を思い出した。
あの時、粟倉が自分にスキを一瞬だけ見せた。
そして、その瞬間・・・それまで自分を支配していた恐怖が消えた・・。
更にその恐怖に入れ替わり・・・、
恐ろしく鋭利な判断力が彼の中で組み込まれ、身体がそれを待っていたかのように動きだす。
結果、金太は粟倉を一時的であるにせよ制した。
「っ。」
そして、今。
目の前には、男がいる。
自分を撃とうとした男が。
(・・・・や、やるしかねぇ!!)
躊躇や戸惑いを感じてる場合じゃない、スイッチが入った様に金太は構える。
両の脚を地に付け、左手で腕で顔を防ぎ、右の拳を構える。
――――そこで、金太に迷いが生じた。
眼前の大滝はまだ身体をおり上げ顔を押さえている。
――――攻めるかっ・・・?
瞬間の戸惑い、そして・・・。
金太は一歩踏み出した!
大滝の小柄な肉体はすでに拳で捉えられ得るトコロにある、、、
――――殴る!!
金太の拳が大滝を下から襲う。
バシャン!!
水の中に何かが倒れ込むような音が響いた。
「っ!?」
まず、腹部が蹴られる感覚があった。
意識がぐらつき、その後・・・。
金太は水の中に自分が倒れ込んでるのに気付いた。
「こう見えても・・・警官なもので」
身体が、動かない。
腕がひねりあげられてるのか?骨に直接訴えるような痛みを腕に覚える。
「逮捕術は、念入りにやっとるんですよ。」
カウンターで膝を入れられ、そのまま押え込まれた金太は大滝の声をはじめて聞いた。
ぶはっ!!
「ちくしょぉぉ・・!なんでこんな事するんだよ!!」
水面から首を持ち上げながら、馬乗りになってる大滝に向かって叫んだ。
大滝は、その声が涙声になってると気付いた。
「オレが・・・くぅ・・何したってんだよ!!?」
大滝の返答はない、代わりに・・・自分を締め付ける力がさらに強くなった。
「ぐふ!」
身体支えていた片手が崩れ、金太の顔は再び水中へ沈んだ。
(そんな・・・・ひどいよ・・・)
大滝の顔が少し、歪んだ・・・様にみえた。
(何も・・・・・・。)
ごうごうという水の流れる音のみが聞こえた。
(わからねぇ・・・。)
息が出来ない、気が遠くなる。
(まま死ぬ・・・・)
―――そんなのって・・・。
そんなのって・・・!!
(金太、おまえはわしの孫だ。)
金太の、ロックされていない腕が水面から伸びた。
(誰にも負けんよ・・・。)
「・・!?」
大滝が気付くと同時に、金太の腕は大滝の脇腹をめがけて、動く。
(『力』に喰われるな、)
拳打ではない、ただ指で突かれただけ。
(『力』を喰えッ、金太!)
「・・・っ!?」
大滝の脇腹に突如激痛が走った。
「ばかな・・・!」
大滝は思わ手で脇腹を押さえた。Yシャツの下から血が広がっている・・・?
(これは・・・確か・・・!?)
大滝がうかつにも金太から気をそらし、記憶を反芻しようとした次の瞬間。
がくん、と体が下がる。
――――い、いないっ?
下を向けば、押さえつけていたはずの金太の身体はなく、大滝は水面に前のめりになっていた。
「え・・・?」
大滝の身体が何か強い力に引っ張られる!
ブゥゥゥン!!!
そして、大滝の身体は宙へ浮いていた。
(いつのまに・・・!?)
金太の背に、仰向けで背負われた大滝は水中へまっさかさまに叩き付けられる!!
バシャーン!!!と一際、大きなみずしぶきが上がった。
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