ACT03:「金太ー地下ー」/part:chaser/Chapter01:「Mr.Kinta Momo」

「駄目です!エドノキバとの交信、途絶!」
「指揮車両、特殊強襲部隊と警官隊により制圧されました、半川副長以下は全員投降。」
 通信車の内部は、オペレーターの怒声交じりの報告が飛び交っていた。
そこいらに設置されたディスプレイには警官に包囲され、両手を挙げる半川らの映像が映し出されていた。
「あとから来たSATには囲まれ、突入した特機班からは応答なしか・・・。」
そんな中でも、大滝は呑気そうな表情を崩さない。
「あ、いて・・・。」
 大滝はあごからひっこぬいた剃り残しの毛をまじまじと見た。
「ふぅーー」
「大滝さん!!」
おっさん臭く、溜め息を吐いていた大滝に女性オペレーターが声を掛けた。
「は・・はい?」
大滝は彼女の方を見る。当たり前だが、その表情にはかなりの焦りがうかがえた。
「やつらの別働隊がこちらに・・・!!」

ーザッ。
「こちらは手順どおり、半川機動大隊副長以下8名の逮捕を完了。乙班による残存兵力の鎮圧を続行中。ヒトハチマルマルまでには完全鎮圧予定。」
「諒解。」
 紺色の防弾装備の男が答える。
「おい・・・どうだ?」
男はあごで眼前の部下に合図を送る。
「すぐ上にA,Gの熱源は捕らえています、しかし・・。」
 廃屋の天井を見上げる、熱源探知用のゴーグルを被った男の部下らしき男が答える。
「部屋の中で5人、静止しています。しかし・・・どうやら倒れてるようなんです。」
「たおれてる・・・?」
隊長格の男は怪訝そうに表情を曇らせた。
「それに・・・廊下の・・・この2つめの熱源は・・・・。」
ゴーグルの中の、サーモグラフで表示された視界には2つの熱源がいた。1つは廊下で倒れているように見える。
 しかし、もう一方の熱源は・・・しっかりと直立してるのが見て取れた。しかもA.Gのそれとは、熱源が若干異なっていた。
「2つめ・・?ばかな・・・奴等の対象が生きているとでも・・・・?」
「あ・・・・!」
 ゴーグルの男が声を上げた。
「なんだ・・・?」
彼の視界の中の、『直立した熱源』が腕を振り上げたのが見えた。
そして・・・。
「どうした?」
隊長格の男が彼に訪ねる。
「熱源の・・・・・・温度が・・・急速に上昇していきます!!」

「仕方ないですね・・・。」
 大滝はやや間を置いてから、近くのデスクの引き出しを開けた。
「?」
 怪訝そうな顔でオペレーターがその様子を見ていた。
やがて大滝は、何かを取り出した。
「それ・・・?」
オペレーターは釈然としない顔で大滝の手に持たれた、スプレー缶のような物体をみる。
「ああ・・・催涙弾ですよ。」
「へっ?」
 彼女には大滝の言ってることが理解できなかった。
その時。
ドン!!
 大きな音が彼らの会話をさえぎった。
音のした方では今まさに、ドアを蹴破り、銃を携えた警官たちが車内へ入り込んできた所だった。
「総員、手を見える位置におき・・・」
・・・からん。
威勢良く、声を上げていた警官は、自分の足元に何かが当たったのに気付いた。
「なっ・・・。」
彼の足元に転がっているものは、一見空缶のようにみえる・・・・。
 が・・。
彼がそれの正体に気付くとほぼ同時に。
バァシュウウン!!!
その缶から、煙が吹き出した。

 薄黄色のガスは数瞬を置かず車内を充満し車外にまで広がった。
突入した警官、車内の通信要員双方の視界とのどを確実に潰しながら・・・。
通信車内、そして通信車の入り口には、ゴホゴホとせき込む声となにやら怒声のような声のみが聞こえる。
「おい!・・・・どうなってる?」
「ゴホンゴホン・・・。」
「クソ、一旦退け!!」
「ゴホン、ゴホン」
 薄黄色い煙が立ち込める中、ハンカチで口を押さえ咳き込みながら、通信車を離れていくそのYシャツ姿の男を・・・彼らは気にも止めなかった。


「あーーー」
 阿鼻叫喚の図を呈する、通信車から数10メートル離れた物陰。
大滝は涙やら鼻水やらで汚れた顔をハンカチで拭いていた。
「ガスマスクも用意していた方が良かったですかねぇ・・・。」
「あーーー」
 かちっ。
金属音とともに大滝は手に握られた、銀色の半回転式拳銃のシリンダーに弾を込めた。
「目いたい・・・」

―ガァァン!!
「なん・・・。」
 天井が突然崩れ落ちた。
「だ・・・?」
 彼ら・・・・廃屋へ突入を仕掛けたSAT本隊を分断するように通路の真ん中に落ちてきたガレキの中に・・・
――――赤く光る目があった。
 やがて、粉塵が薄れていくにつれ、ソレの全容が明らかになる。
攻撃的なフォルムをもった人型の『怪物』。
ガレキの上でひざを折った状態でたたずんでいたソレを表すならそういうのが妥当だろう。
「おいっ・・・!」
 震えを押さえた声で。
隊長格の男が、を向けた。
「両手を見える位置に置いて壁の方を向け・・・・!」
 異様な光景を前に、彼は体中に冷やあせが浮かんでるのが自分でもわかった。
しかし、それでも言葉が自然と出たのは日ごろの責務の賜物であるとしか言いようがない。
すっ・・・。
 その言葉に呼応したかのように・・・。
怪物はその異様な右腕を上げた。
 かかげられた右腕には、逆の腕にはないピストンの様な器官が肘からはみ出し、腕まわりは大人の胴ほどの大きさに肥大し、拳には突起物の様なものが飛び出ていた。
・・・いずれも粟倉達と対峙した時には付いていなかったものである。

 逆の腕と比べ、異様に膨らんだ腕に彼らはいいしれぬ恐怖感を覚えた。
そして。
おもむろに右腕は足元のガレキに叩き付けられた――――――。
「なっ・・・・何を・・・。」
ドクッ・・・ドクッ・・・・。
 ゆっくりと・・・・。
怪物の肘のピストンが、その腕のなかに飲み込まれるように沈んでいく。
ドン!!
カタ、カタ、カタ・・・・。

 SAT隊員達の足元のコンクリート片が小さく揺れた。
「・・・・・・・・。」
 幾つもの恐怖と警戒、双方の念をはらんだ視線が『怪物』に注がれた。
そして・・・・しばしの間ののち・・・。
「何なんだ・・・こい・・・」
隊員のうちの誰かが声を上げようとしたその刹那・・・。
ゴォン!!!!
その声を待たずに、轟音とともに視界をかき消すほどの粉塵とガレキの残骸が舞った―――

  
「な・・なんだぁ?」
 立ち入り禁止のテープの外側で、警官が、おもわず口からふかしていたタバコをおとして眼前の廃ビルを見上げた。
「爆弾・・・?」
彼の横のもう一人の、幾分若い警官が呟いた。
「まさか、そんなわけ・・・。」
 ドドドドドドド・・・。
雷が轟くような音が、ビルの方から聞こえてきた。
 ぱらぱら・・・。
何かの破片が彼らの頭上に降り注いだ。
そして、次の瞬間。
「!?」
ドオン!!!
 轟音とともに大地が跳ね上がるが如く、大きく揺れた。
「なっ・・・。」
つんのめる様に地面に倒れた2人の警官の眼前の廃ビルから、粉塵が煙のようにもくもくと吹き出していた。
「・・・・・!」

 轟音と震動が、革靴の歩みを止めた。
その靴の主・・・・一人の中年と見える男があちらこちらを損壊させ、粉塵を吹き出すその廃ビルを見上げた。
「・・・爆弾ですね・・・まさしく・・・。」
 その男、大滝は誰とも無く口を開いた。
「爆弾並みに厄介な犯罪者だ・・・。」
大滝は、その呑気な口調と表情を改める事もせず、廃ビルの裏口へと消えていった。

 

NEXT!!