―喰い、千切れ・・・。
        
        
                  リブート
          ACT01:「金太-再起動ー」/part:MAD/Chapter01:「Mr.kinta Momo」   
          
        「くっ・・・。」
           紺色の装備に包まれた男達が顔を上げた。
          しばしの轟音の後。
          眼前の廃ビルの中程から煙が上がっている。
           彼ら・・・警視庁強襲部隊(SAT)の隊員たちは諦念にも似た感情を抱いた。
          『規範無き警察』公安機動隊の射撃には威嚇はない。
          今回は状況が特別なので、標敵の確認位はするだろうが・・・。
          SAT部隊隊長は知っている。
          彼ら(公安機動隊)は厳密には警官ではない。
        ー警察官職務執行法第七条より・・。
           警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。
        但し、。
        刑法第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。 
          
        一 
           死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる十分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し(中略)これを防ぎ、又は逮捕するために他の手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。 
          ・・・・以下略
        
           つまり、本来、警官は犯人たると、十分な証拠の無い人間に武器を使用した実力行使は禁じられている。
          もし武器・・・拳銃を使用するとしても、「停止命令」「威嚇射撃」「抑止のための非急所射撃」という3段階を踏まなければならない。
           しかし。
          公安機動隊には捜査権の無い、実効隊員に限り、それが無い。あくまでも彼らの目的は「遂行」。
          従来の警官の規則から離れた職務を想定された彼らはこの法律を無視できるのである。
          ―――絶対遂行。
          それが彼ら、公安機動隊機動警備大隊・・通称執行部の最大の職務原則である。
        「だが・・。」
           SAT隊長は視線を公安機動隊の装甲車へ移す。
          「やはり、あなた方をこれ以上野放しには・・・できない。」
          轟音は収まったが、煙は依然、もくもくと廃屋から上がっていた。
        
        
        
        (なんだまだ夢でも見ているのか・・?)
           金太は腕の隙間からそれら、黒い装甲群を見た。
          (そくじ・・射殺・・?)
           そっと脳裏で目の前の男がいった事を反芻する。
          もう一度彼らを見る。構えるサブマシンガンは本物だろうか・・?
          何故か金太はぞっとしない、あまりに状況が突飛で、理解ができない。 
          「何スか?」
           一通りの混乱を済ませた後・・・。
          金太はなぜかやたら冷静な自分に驚いた。
          金太はゆっくりと腰を持ち上げた。
          眼前のマスクをはずした男が半歩下がる。
          「どっきり・・・・?」
           チャッ!チャッ!チャ!!
           一瞬のあっけを取り戻すように。
          一斉に4対のレーザーサイトが金太の額を捕らえた。
          「・・・・」
          (まさか、コイツ・・・これから殺られるって事も理解してないのか?)
          「−エドノキバF−01より本部、目標の最終確認、及び任務遂行許可を。」
          粟倉は目標の最終的確認を申請した。
          (・・どうでもいいか。)
           粟倉は標的に銃を持っていない方の掌を向ける、A.Gの指に仕組まれたCCDで彼の姿を撮影、電送するためだ。
          緑の暗視画像ごしの金太の額に、冷や汗が浮かんでいた。
         半川は装甲車の頭頂部から外へ顔を出した。
          人払いが行われた為、周囲から野次馬は失せていた。
           静かだった。
          遠くからは都会の喧騒が平時と変わらず聞こえている。
          しかし、そこと自分の周囲は、隔離されたかのような何故か妙な静けさだった。
           半川は目を細める。
          半川の視点の先、アスファルトの上に黒い中型犬がいた。
          (野良犬か?)
           犬の種類はわからない。ぶぞろいにぼさぼさと伸びた黒い毛。顔は犬より狼に近いかもしれない。
          (いや)
           エサでも探しているのか・・・顔を下に向けクンクンと地面をかぎまわるその犬の首に半川は首輪が在る事に気付いた。
          (飼い犬・・か。) 
           突如、犬がその場を立ち退いた。
          カツカツ・・・。
           犬と装甲車の間を割ってはいる者たちがいた。
          藍色の防弾装備、SAT部隊である。
          見ると隊長のほか、4、5人の隊員しかついていない。
          「・・・なるほどな・・。」
           あわてて装甲車の中から公安機動隊の2名の護衛要員が飛び出す。
          「現行犯逮捕ですか」
           やはり、半川の表情は変わらない。
          「殺人の」
           半川の声が無機質に響いた。
          SAT部隊は歩みを止める。
          飼い犬と狂犬。
          空をはう送電線の下、再び二対の守護者が対峙する・・・。
        「許可を!」
           通信要員の女性の声に大滝は我に帰った。
          「え?私?」
          大滝は動揺(にやけた顔に変化はないのだが)して答える。
          「現場の指揮代行権限はあなたに委託されているはずです、時間がありません。」
           通信要員の女性は高い声で、催促する。
          現場指揮にあたっていた半川はSAT部隊の牽制に当たっている。状況が状況である。彼らも大滝でなく現場の最高責任者である半川で無ければ納得はすまい。
           彼らにとって先刻、大滝に時間稼ぎをされた事だけでも大きな失点である。
          金太が射殺されたのを確認出来次第、彼らは自分達を殺人容疑で現行犯逮捕するだろう。
          (その後どうなるでしょうね・・?)
          「時間がありませんッ!!」
           大滝の臆測は通信要員の声でまたしても中断された。
          「・・・ふー」
           大滝は溜め息を吐く。
          痺れを切らし出した通信要員は大滝を睨んでいる。
          「どう思います?」
           眼前の緑色のディスプレイに目を移し大滝は逆に尋ねた。
          「はっ?」
          「果たして、いいんでしょうかね?コレ。」
           大滝はディスプレイ内で銃を向けられる金太を見た。
          音声が入っていない・・・が。
           通信要員は金太が突入した隊員達になにか怒鳴ってるのに気付いた。
          (何を叫んでるの・・・?)
           彼女は緑色の画面を凝視した。
          (・・・・。)
          「ターゲットを本人と確認、速やかに遂行せよ。」
           大滝が急に口を開いた。
          彼女は大滝の顔慌て、見る。
          ・・・あいかわらずのにやけ顔だ。
          ―しかし。
           先程まで感じたあふれ出るような柔和さが、いつのまにか不気味さに変わっていた。
          「さ、はやく。時間がありませんよ。」
          表情など動かない。ただ何気なく・・・彼は決定を下した。
          「・・本部より、エドノキバ総員へ告ぐ・・・。」
           あわてて我に返り、彼女はヘッドフォンに装着されたマイクに大滝の言葉をそのまま伝える。
          そしてその間も・・・。
           彼女は緑色の画面の中で叫ぶ金太をみていた。
          「繰り返す、総員へ速やかに遂行せよ・・・。」
          2度目の伝令をしたとき,自分でもどうしてそうしたか解らない。
           彼女は思わず画面から目をそらした。
          マイクを支える自分の手が震えているのに気が付く。
          「あなた・・・・・。」
           大滝の声が聞こえた。
          「ココにきて日は浅いんですか?」
          「はい。先月、本庁より転属されました・・・。」
          「こーゆところですよ。ココは・・。」
           大滝の表情に変化はない。
          「早くなれないと、ほんと、こんな事ばかりですから。」
          声は淡々としていた。
         
         
        