| ――――――――ゆるせねぇ!!       金太は奥歯を激しくかみ合わせた。にも関わらず、がちがちと顎が激しく震えていた。
 まるで、その事を否定しようとするように金太は勢いよく前を向いた。
 ――――!
 先ほどまでと、目の前の景色は少し変わっていた。
 いつのまにか巨大な薔薇が消え、代わりにその場所には黒い四方形の棺が立ててあった。
 そして・・・・。
 よろよろと、いつ倒れてもおかしくない足取りでその前をこちらにむかって進んでくる少女の姿があった。
 彼女・・先ほどまで巨大薔薇に囚われていた少女。
 近づくにつれ、その様子が徐々に克明になってくる。
 多くのすり傷に覆われた肌は、浅黒く。
 その身体を覆おう衣は赤く。
 ふらり・・・。
 その褐色の体が、金太の数歩ほど前で転倒しかかった。
 反射的に。
 金太の手がのび、転倒をとどめた。
 金太は褐色の手を握りよせながら、ウェーブのかかった髪のなかからのぞく顔をみた。
 長いまつげで覆われた目は硬く閉じていた。
 ハー・・ッハー・・・ッ。
 その口元からかすかに漏れる吐息が、空気を通じて金太に伝わった。
 「・・・・」
 少女は腹のあたりに湿った暖かさが伝わるのに気づき、瞳をあけた。
 彼女は、金太の背中におぶられてるのに気づいた。
 「・・・どうして・・・」
 「逃げよう!」
 金太が、口からつばをしながら背中の少女に向かって叫んだ。
 「こんな所いたら殺されちまうよ!!」
 「・・・・テナは・・・?」
 うつろな瞳の少女はささやくような声で、金太に言う。
 金太は周囲を見回す・・・先ほどの剣山、剣の少女の姿が忽然と消えていた。
 「・・・どの道、あれじゃあ・・・助からねぇよ・・・」
 そこまで言った金太の肩に、少女の腕がだらしなくぶらさがった。
 「・・・・・」
 少女を担ぎ直そうと金太は、再び腰をおとした。
 が、その背後に光が現れた。
 その光は、金太達めがけて徐々に大きくなりがら、速度をあげる。
 ――――――――!
 金太が、気づいたとほぼ同時に・・。
 背中から、高速で剣が突き刺ささる。――・・・いっ・・。
 金太の体が、衝撃でひしゃげんばかりに曲がり、宙へと舞った。
 ―――・・・ってぇ・・。
 金太の口が、漆黒の空間の中で大きく開き、その中の漆黒をあらわにする。
 ドサ・・・。
 体が、前のめりに地面へ転がった。
 すぐに金太は這い上がろうとして、表情を歪めた。
 背中が熱い・・・。
 正確には、背中の一点にのみ、とてつもない熱を感じる。
 堪らず、手でその部分を塞ぐ。
 どくどくと、血が流れてくるのが解った。
 鈍い痛みに、額から冷や汗、目から熱い物が出てくる。
 ぎっ・・・。
 金太は両の目を目一杯開き、痛みを自覚する。
 ゴホッ・・!ホッ!!・・。
 全身に広まった痛みで呼吸が、詰まりはじめていた。
 せきが荒々しく喉を通過していく。
 「ゲホッ!ゲホッ!・・・ゴっ・・・!」
 「どうして・・・」
 金太は、目の前に現れた浅黒い素足に気づいた。
 苦痛にしかめられた、表情で金太は上方を向く。
 眼前に立ち尽くす、長いウェーブのかかった髪を、まるで蛇のように身体にまとわりつかせた少女・・・。
 そのうつろな瞳は、はいつくばった金太の姿を写し、潤んでいた。
 「貴方はこんな所にいるのですか・・・・?」
 そういいながら・・・彼女は細い剣・・・彼女の身体を貫く剣をぬこうと刀身を握った。
 「私たちは・・貴方とは違う・・・」
 その褐色の手から、赤い血がこぼれて落ちる。
 「私たちは・・・・」
 乾いた喉に、吐き気が襲ってきた。
 少女が盾になったおかげで、金太の背中に刺さったのはほんの先端、背骨に至らないほどしか刺さらなかったというのに・・・。
 「『世界』・・・・・。」
 金太の目が、そのとき大きく見開いた。
 剣に貫かれたまま立ち尽くす少女の頭上に、城が現れたのである。
 まるで、超巨大なシャンデリアか何かのように。
 光を称えた複数の塔を、地上に向かって伸ばした黒い城。
 中世風の城が逆さまになって宙に吊るされていた。
 フフフ・・・・・。
 (嘲笑・・・?)
 ふいに上空の城の中に、金太は一つの人影を認めることが出来た。
 フフフ・・・。
 重力を無視して、
 逆さまに城の塔の頂に立つ、その人影。
 フフフ・・・。
 その口元が、笑っていた。
 嘲り、笑っていた。
 ―――――ぎっ。奥歯が、潰れるのではないかというくらい・・・金太は、歯を食いしばる。
 ―――――ぎりっ・・・・。
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