喰い千切れ…。
           
          
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
            電車は御茶ノ水を過ぎたところだった。
            車内に設置された小型モニターは日本人初の月面着陸と中国と米国のが関係がいぜん芳しくないという文字ニュースを流していた。
            なんら変哲の無い、ありきたりの光景である。
            「次はアキハバラ〜アキハバラですー。」
             いつもと変わらぬアナウンス。
            「お下りの際、車内にお忘れ物をなさらぬよう、ご注意下さい」
            プシュー。
             電車の固いドアが開き、様々な音・・喧騒、アナウンス、発着のチャイム、そういった音が鳴り響いているプラットホームが眼前に広がる。
             背後の総武線の黄色い車体に振り向きもせず、『彼』は腕の時計を見るためにコートのポケットにいれていた両の手の内、左手を抜き出した。アナログの分針秒針が目に入る。
            カチッ。
             もう一方の手で時計の側面を押すと赤い文字で日付と時刻が数字で表示された。
            2014 8/1 14:32 :12
            どん・・。
             OLだろうか?『彼』に20代くらいの女性が肩をぶつけた・・その時だった。
            「ひっ・・」
             プラットホームに先刻までなかった音が、それは小さな音であったが・・生まれた。
            『彼』はその女性に目もくれず歩き出す。女性は彼の背中をしばらく引きつった顔でみつめていた。
            
          ―永遠、運命、世界・・・。
             
           まだ混雑している時間ではない。だが、彼はアキハバラデパートの中に設置してある改札を通った。
            その『彼』を見て向かい側の改札から来た学生らしき少年が一瞬立ち止まる・・。
            しかし『彼』は振り向きもせず電気街の方へ向かってゆく。 
         
         『彼』の足取りは重い、肩を落とし、だらんと手をさげ、その目にはまるで意識がないようだった。
          どん。雑踏の中、彼にぶつかる肩。そして小さな驚嘆の声・・・。
           彼もようやく気づきだした・・。
          道ゆく人が全て自分を見ては立ち止まる、あるいは振り返り・・皆一様に物の怪でも見たような表情をする事を。
        
          ―全て、誰かの用意したものだっ・・。
        
           その事実に気づいたとき、彼は初め自分の服装のせいだと思った、季節は夏、それも8月中旬である。前世紀から示唆された異常気象のせいか・今日の東京は曇りにしても、異常なほど肌寒い。しかし、『彼』の服装は以上の点を踏まえても季節外れな黒のコートであった。
           しかし・・・それくらいであんな顔をするだろうか・・?
          「ひっ・・」
          そして目の前でまた、若い女性が自分を避けた。
           気づくと人々の視線が自分に集中している。
          そして人々は『彼』と一定の距離をおきつつ、人だかりを作っていた。
          
        ―だから・・・。
          
        ザワ・・・ざわ・・・ザワ・・・ざわ・・・。誰か警察を・・・。ざわ。
          ―朽ち果てるより先に・・。
          (・・・俺の・・顔に何か・・・ついてるのかな・・?)
           依然起き抜けのように・・ぼんやりとした意識の中、『彼』は自分の顎を触る。
          じょり・・。ヒゲの感触があった。
        (おかしいな・・俺ヒゲなんて生やしてたっけ・・?いつも伸びる前にはそってるよな・・)
          「ん?」
         彼はおかしな事に気づいた、自分の手が何か変だ・・。彼はゆっくり・・別に大袈裟な動きを付けず己の手を触っていた顔から放し・・その手を仰ぎ見た。
          
        ―世界を・・・。
          
        「あー・・。」
          (ふりかえるワケだよ・・・。)
           ぼやけた意識のピントが一瞬定まる。『彼』の手は赤・・・渇いた赤に覆われていた・・ いや、よく見れば衣服顔等あちこちになにやら渇いた赤いものが付着している。
           自分から『出た』ものではない、それはソレを返り浴びた事を意味していた。
          「・・・血じゃん・・これ。」
          呆然と・・しかしまだ慄然としない意識で『彼』は呟く・・。
                 ふぁんふぁんふぁんふぁん。
                    
        
         
        (・・・サイレン?パトカーの・・・・?)
         思って気づいた・・。自分の意識が次第にうつつから開放されつつある事を。
        ―全ては・・・・・・・・・っ。だから。
        
           そして・・彼は理解できなかった。何故自分がココに居るかを。
          
        ―喰い、千切れ・・・!!
          
         
         
          Kinta
          Serialnumber 0_R
          R(e)MIXforANIMEMEISON'S
          mikaihoo/PRESENTS......
                      
         ...........engage 
               ACT01:「金太―突入―」/part:Runaway  /Chapter01:「Mr.kinta 
          Momo」 
         
         
         
        