アドレナリンドライブ 監督:矢口史靖 1999年 日本


「大阪物語」でのダメージ大きかったのか、午前3時40分過ぎの休憩時間の時点で、3割程度の観客が眠ってしまっている。私は眠気は無かったのだが、すっきりしたいのでウーロン茶を買おうとする。が、札が使えないので「ナビィの恋」と「月とキャベツ」の映画パンフを購入してくずす。映画パンフを買うのは1年ぶりくらいだ。それほど感動した作品であったのだ。では、アドレナリンドライブはどうか。

午前4時、最後の作品が開演された。石田ひかりと安藤政信主演による「アドレナリンドライブ」である。

この作品、昨年はかなりの評価が集まったと聞く。このような作品にはあまり期待をかけられない私は、やや斜めな姿勢で見ようとしていた。大体、石田ひかりをあまり好きでないという、極めて主観的な問題も抱えている。

ストーリーは、安藤政信演ずる弱気なレンタカー営業所員が、ヤクザの車を追突してしまうことから始まる。ヤクザの車はジャガーで、事務所に連れて行かれた安藤は500万円を要求される。引きまくっている安藤は指を折られるが、そこで映画の突発性よろしく、事務所がガス爆発を起こす。組員は一人を除いて全員死亡。安藤は難を逃れるが、余計なことに組の金である約2億円を持ち出してしまうことから、当然のようにトラブルに巻き込まれる。石田ひかりは地味な看護婦で、コンビニに後輩からパシリとして派遣されたところで事件に遭遇。金を持った安藤と供に、ヤクザから逃げ惑いながら、金を手放せずにいる二人を描いている。

4時を過ぎた映画としては良かった。調布キネマのスタッフによるもの魂胆かもしれない。とにかく、小ネタが多い。特に、ヤクザの若い衆を演じている「ジョビジョバ」の連中が、小ネタ合戦とも言うべきものを、各シーンで必ず見せる。ひょっとしたらジョビジョバの小ネタを見に来てしまったという感じでもあった。全編を通じて、キャスト全員が小ネタを絶対に出しているという、本日他の3作とは異なったものであった。

ストーリー展開はそんなこんなであまり特徴がないと言うか、小ネタに挟まれて進んでいく。以前見たメルギブソン主演の「マーヴェリック」に似た感じ。まあ午前4時5時なんで、観客から笑いが聞こえるのは心地よいものでもあった。別に明け方に見なきゃ駄目と言う映画と言う訳ではないが。

別にジョビジョバが小ネタを発しているだけの映画では、勿論無い。主演の石田ひかりは、だからといって好きになったと言うほどでもないが、冴えない看護婦を演じている際には「面白いなあ」とやや思った。ただ、金を掴んでお洒落になったとき、外見はあまり変わりないが、内面の変わり様が、映画としてはちょっとありすぎた。まああんなもんか?その他、ヤクザ役の松重豊が、最初の凶暴さが丸くなっていったのは良かった。凶暴さを前面に押し出すストーリーではない。あれでいいだろう。

今作では、ストーリーはそれほどダイナミックではなく、先述のとおり小刻みに進んでいく関係上、少しだけ俳優の演技が目に付いた映画であったかもしれない。今回目に付いたのは、安藤政信である。北野武監督の「キッズ・リターン」で主演として認知された安藤政信だが、今作でのその抑えた演技は、キャストの中で最も光っていたのではないか。変貌していく石田ひかりと異なり、安藤政信はその状況の激変に付いていけない弱気な男を演じている。キッズリターンで不良を演じた安藤だったが、キッズリターンでも、開放的な金子賢と異なって抑えた演技を続けていた。本作では、内気な男と言う、さらに抑えた演技となっているが、営業所の所長にいびられるシーンにおける優柔不断さなど、かなり自然である。一部ではかなり期待されている人材らしいが、もっと凄くなって欲しい存在である。

期待したよりは良かったものの、評判ほどではないというのは、私の出来るだけの冷静な感想である。特に、ストーリー重視の人にとって、「殆ど中身が無い」という感想を持たれる人もいるかもしれない。メッセージ性は確かに殆ど無く、見た後に誰かのファンになると言うことも、私には無かった。ただ、小気味よい、このような映画もあっていいだろうと思う。諸手を挙げて推薦、という訳ではない。まあ見ておいて良かった。

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