八ッ場ダム問題(2)
群馬県の八ッ場ダムについてはすでに「放言454」で書いたが、民主党は、現場を見ないで、また専門家の意見を聞かないで中止を決めたようだ。
専門家の論文が雑誌「正論」(2009年12月号)に載った。水文学(地球上の様々な水循環を研究する分野)と水資源工学(最近のテーマは流域に於ける総合水マネージメント)の専門家の論文が雑誌に載った。東京大学名誉教授の虫明功臣氏の論文である注(1)。
彼は、ここ十数年、社会資本整備審議会河川分科会などを通して国の河川・水資源計画の検討に深くかかわってきた人である。
彼曰く。ダムは無駄な公共事業の象徴と決め付けて新政権が掲げた「八ッ場ダム中止」は専門の立場から暴論といわざるを得ない。
彼の論文の要約を下に示す。
日本はアジア大陸縁辺部諸国と同様に地震や火山活動を伴う環太平洋変動帯に属し、山地は急峻かつ脆弱であり、平地の大部分は洪水氾濫で形成された沖積平野である。沖積平野とは、河川が洪水時に山地から運んできた土砂が氾濫・堆積して出来た平地であり、現在でも洪水氾濫の危険性をはらんでいる。
日本では国土の10%に当たる洪水危険区域・沖積平野に人口の50%、資産の75%が集中している治水対策が重要な場所である。利根川は日本の中で治水が最も難しい川である。
明治43年や昭和22年のカスリーン台風の大水害のように東京まで氾濫が及ぶ事になる。明治43年、利根川の全域にわたり大規模な氾濫をもたらす大洪水が発生した。東京まで氾濫流が達したのである。
明治43年の洪水後、洪水流量を増大する改定が行われ、改修工事が進められてきたが昭和10年、13年とその計画推量を上回る洪水が発生し、計画対象洪水流量が引き上げられた。しかし戦時体制に突入して改修は殆ど進まなかった。そこに昭和22年のカスリーン台風による未曾有の大雨により本流と支流あわせて24箇所で破堤し東京までその流れが達したのである。
利根川本流域で始めてダムによる洪水調整が導入され、八ッ場ダムはその一つとして位置づけられた。八ッ場ダムは無駄なダムではなく、利根川の治水計画上極めて必要性の高いダムである。
日本の川の流量は洪水と渇水の変動が極めて大きい。日本では10年に1回の渇水に対して需要を満たす取水が可能な様に立案される。
日本の河川は農業用水によって使い尽くされており、新しく生活用水や工業用水の需要が生まれるとダム等によって貯留・調整し、安定して取水できる流量を補給しなければならない。
東京圏への異常なスピードでの人口集中があった。昭和39年夏の渇水は異常事態であった。最近の例では平成6年と8年の渇水では利根川で最大30%の取水制限が行われ断水や工業用水では操業短縮、農業用水では局所的な稲の立ち枯れなど、ところによっては深刻な被害が起こった。このように渇水が頻発するのは需要に対する供給が未だに追いついていないからである。
虫明氏は「なぜここで八ッ場ダムを無駄な公共事業と断じるのか、理解に苦しむ」と言っている。更に「ダム反対派の中に『緑のダム』すなわち森林の保全・整備が河川の渇水流量を豊富にし、水害を起こすような大洪水をも低下させる効果があると主張する人いるがこれは、科学的根拠に反する迷信である」ともいっている。
注(1) 虫明 功臣 : 雑誌「正論」 , (2009年12月号) , 78頁
(2009/11/03)