ガッシュ!!
 朽ち掛けた木製のドアに、オレンジの火花と供に穴が穿たれる。
身を低くし、ミレイユはそれを避け・・・。
 ドアにもたれ、部屋の中へ倒れ込む。
彼女の背中がくすんだ赤い絨毯に着くとほほ同時に、開かれたドアの向こうに人影が伸びて来た。
「くっ!」
バズ!
 それに向かって、ミレイユは引き金を引く。
オレンジの火花が、壁に掛けられた額縁に爆ぜ散り・・・。
バズ!
バズ!
 3度目の銃声で影は引き込んだ。

カタ・・ッ。
 埃の溜まった床へ、空になった弾倉を落とす。
カチ・・ッ。
 白い手のひらが、弾倉を装填を銃底に装填する。
黒い銃のブローバックが、カチリと音を立てアクションし。
チッ!
 ミレイユは正面に銃を構え・・・表情をより一層険しくする。
ねずみ色に変色した壁・・・。
銃を構えたたまま、左右を見回す。
 人影はない。
「ちっ・・・」
 ミレイユは走る。
陽光が、窓から差し込む石造りの通路がやがて現れる。
カッ。
 その通路を、走りぬける。
彼女の白い横顔となびく金髪に、白黒の模様が出来る。
 銃口が油断無く通路の先に現れた、崩れかかった屋内の正面と、左右。
そして穴の空いた天井に向けられる。
「ハァ・・・」
 ミレイユは息を吐き出す。
汗が額ににじんでいるのが解る。
 それを拭くこともせず、その表情を更に鋭くしミレイユは奥へと向かう。
昼なお暗い通路の先に・・・。
 汚れたカーテンに遮られた場所があった。
横・・そして背後に警戒への緩めず、ミレイユはそこに近づいていく・・・。
ザッ!
 意を決してカーテンを、思い切り開く。
「くっ!」
青、赤、黄・・・。
 カーテンの向こうから現れたステンドグラスが太陽を受けて放つ光に。
ミレイユは思わず顔を庇う。
 極彩色の光の中・・。
天井に空いた穴の中から、顔に傷を持った男が銃口を向ける。
「・・・・・!?」
 ぶら下がりながら男は見た。
上下反対になった通路の向こう・・・金髪の女の、背後の闇の中から何かが向かってくる。
紫の赤毛と碧の外套が、すぐさま男の目に入る。
「・・・ン!」
 男はすぐさま視線を金髪の女に移した。
・・・くらむ視界の中、数瞬の隙を付き彼女は銃口を自らに標準を合わせていた。
(生き延びて・・・)
ドズ・・・ン!

「あ・・・あ゛・・・」
 顔に傷を持った男が、鈍い音とともに地面に落ち・・・絶命する。
「・・・ふう」
私の目の前で・・・ミレイユは息をつき、屈んだ。
・・・次の瞬間。
「っ・・・!」
 しゃがみながら、彼女は背後の私に銃口を向けた。
「・・・クロエ・・・?」
青い瞳が、私に一瞬驚き・・・そしてすぐさま冷静さを取り戻す。
「・・・・・この男は?」
「コルシカで過去の封印を開けようとする者を全て消す。それが彼の任務でした」
 ミレイユが、銃を下げた。
「で・・・あんたは?」
 私は一瞬目を閉じた・・・。
言うべき言葉は決まっている・・・。
 この娘に伝える様、アルテナに言われた事が。
「私は彼の任務を助けはしない。妨げもしない・・・」
 でも・・・それ以外にも。
上手い言葉が見つからない。
私を見る、ミレイユの瞳が怪訝なものなっていった。
 昨日・・・ここであったあの子が羨ましい。
あんな風に・・・他愛の無い事を、素直に言えたら・・・。
「じゃあどうしてここに居るの?・・・ただの観光だなんて言わないでよ」
・・・とにかく、今は伝えよう・・。
アルテナの言うとおり。
苗木に水を。
「コルシカは特別な場所なのです。私にも、あの子にも」
「あの子・・・?」
 ステンドグラスの前で、警戒した面持ちで私を見るミレイユがその言葉を反芻している。
「あの子・・・霧香の事?」
「はい・・・」
 黒髪のあの子・・・。
霧香と、貴女が呼ぶ子・・・・。
「はい、私とあの子は特別・・・」
そう・・・私とあの子は特別・・・。
「私とあの子は真のノワール」
 いつか・・・あの子と一緒になれる・・・・。
そうすれば・・きっと・・・。
「霧香が・・・真のノワール・・・」
 きっと、素晴らしい所へいける・・・。
「ふふ・・・」
 呆然としていた彼女の前で・・・少し笑ってしまう。
ミレイユは・・・警戒を緩めたわけではないけれど、私に合わせるかのように緊張を少し解いた。
・・・・。
「あなたに言っておく事があります」
言わなくちゃ・・・。
「聞くわ」
 きっと・・真実を知れば・・・あの時の事を思い出せば・・貴女は・・・。
「あの子が帰りたいと言い出す時に来たなら、どうか引き止めないで・・・」
あの子を許してくれない。
「あの子と旅をするのは私なのだから」
ミレイユが、私に笑みを見せる。
「私がイヤと言ったら?」
・・・・あの女の人と、そっくりの綺麗な・・・・。
「殺します」
・・・口をついて、その言葉が出た。
「え・・・」
 ミレイユの表情が変わる。
「私は・・・あなたとお友達になりたいと思っています」
 自分で・・・何を言おうとしているのか・・・解らなくなってきていた。
 青い瞳で私を見る・・・。
この人は私のことをどう思っているのだろう・・・。
私はこの人をどうしたいのだろう。
「ト・・モ・・・ダチ・・・?」
 友達・・・。
私はあの子と・・ノワールになる・・。
だけど・・・。
「だって、あなたはあの子のお友達でしょう?」
 声が自分でも、少し強くなっているのが解った。
・・・一緒に・・・お茶を飲んでくれるだけでいい・・・。
 そんな友達が・・・私は・・・。
「・・・ええ、きっとなれる・・・。あなただってソルダの子に違い無いのだから」
 また・・・思わず言葉がついて出た。
私は、取り繕うために笑う・・。
 ミレイユは・・・。
「ソルダの・・・子・・・」
私は・・・彼女から顔をそむけた。
欠けたステンドグラスの前で・・・。
 ミレイユはただ呆然と、薄紅色の口紅に彩られた唇を空けて・・・膝をついた。
・・・・その場から急いで・・・私は立ち去る。

・・・・。
 廃屋の通路は、昼尚暗い・・・。
ホコリが溜まった壊れ掛けの家具。
崩れた天井・・・。
 不意に・・・シートを被った黒いピアノが目に入った。
そのシートの隙間から・・・黒と白の鍵盤が見えた。
 指でそれを触れてみる・・・。
カタ・・ッ・・・カタッ・・・。
 音が鳴らない・・・。
壊れている様だった・・・・。
 私は・・・俯いた。
どんな言葉を掛ければ・・・・。

―――『かしたげる!』

あの人は・・・あの時の様に笑ってくれるのだろう・・・。

 ねずみ色の廃屋の中に、白い日の光が入ってくる。
ピアノの前に立ち尽くす碧の外套の少女の・・・。
「独り・・・・」
 吊りあがった瞳から・・小さな涙が落ちた。

 

ずっと友達

   だが時は経ち・・・・。

 


コルシカに還る〔mikaihooR(e)mix〕

remix and additional production by mikaihoo for PROJECT KINTA