今月のTIPS (No.7) 〜初心者が陥るワナ〜

 山を始めて間もない方からの質問です。

 Q1.ビレー器は、どれを買えばいいですか?
 Q2.ロープの長さは何メートルがいいですか?
 Q3.私でも谷川岳の岩壁を登れるようになれますか?

 Q1やQ2に対する回答は、無数にあります。ビレー器でいえば、ある人はルベルソがいいと言い、別のある人はピウが一番だよと言います。さらに別の人はどんな場面でもATCを使い、山塾のようにエイト環にこだわる人(団体)もいます。そして、ロープの長さについても、ある人は45mにしなさいと言い、ある人は50mしかありえないと断言します。
 Q3についても、ある人は、日和田で2回ほど岩登りの練習をすれば行けるといい、山塾のように2年間の修行を積んでから行くべきという考え方の人(団体)もあります。

 どれもが正しく、どの考え方もそれぞれの根拠に基づいているわけですが、初心者にとっては、聞く相手によって回答が全然違ってくるので、何が真実なのかサッパリ分からないということになってしまいます。

 登山の世界はことほどさように一筋縄ではいきません。明確な回答、これが絶対確実というものはひとつもない、と思っておいたほうが良いでしょう。数学のような唯一無二の正解を求めようとしても、余計に混乱し、疲れるだけです。聞く相手によって回答が違うのは当たり前と心得ておくべきです。

 どちらも一長一短であり、どちらも方法論としてはありえる・・・、そういう複数の選択枝の中から、自分なりの考えや経験則に基づき、その時点で最良の道を進んでいく。あるときは、間違った選択をするかもしれないが、それもひとつの経験となっていく・・・という、わりと気の長い積み重ねが次へのステップに結びつく・・・、それが山の世界であり、山と関わっていく人の成長のあり方なのではないか、と最近常々思うのです。

無名山塾・本科会報「月刊 岩小舎」に連載