今月のTIPS (No.5) 〜声が届かないとき〜

 これから本番ルートへ行こうというとき、登る前にパートナーと必ず打合せておかなければならないことがあります。それは、声が届かないとき(聞こえないとき)どうするかという点です。

 では、この問題を考える前に、通常のコールを、念のため、確認しておきましょう。
(1)トップ:「登ります」 (2)セカンド:「どうぞ」
(3)トップ:(終了点で)「ビレイ解除」 (4)セカンド:「解除しました」
(5)トップ:「ザイルアップ」 (6)セカンド:「ザイル一杯」
(7)トップ:「登っていいよ」 (8)セカンド:「登ります」
 このうち、(1)と(2)は、登る前ですので問題ありませんし、(5)と(6)は省略してもさほど不都合はおきません。
 また、意外と思うかもしれませんが、(7)と(8)も省略が可能です。なぜなら、セカンドが一歩登ってロープが張られるのを確認し、もう一歩登って、さらにロープが張られるようであれば、ビレイはできていると考えて99.9%間違いないからです。(逆に言うと、ロープが張られない限り、絶対に進んではいけない)

 そうなると、論点は(3)と(4)に絞られてきました。つまり、今、ここで論じている問題は『ビレイ解除』のコールが聞こえないときどうするか、ということなのです。

 さて、この回答は、たった一つです。

 トップは、終了点について、声が届いてないようだと感じたら、ザイルアップをせず、そのまま確保器をセットして、引上げる。一方のセカンドはロープが一杯になったら登り始める。(もちろん、上で述べた通り、一歩ずつ、ロープが張られるかどうかを確認することが大事)。

 これで、本当に大丈夫なの?と感じたアナタ。なかなかいい勘をしています。もしもトップがまだ登っている場合(通常の長さのロープでは考えにくいことですが)、セカンドも登リ始めるわけですから、コンティニュアス(同時登攀)になります。しかし、ここでトップが落ちたとしても、プロテクション(ランニング・ビレイ)を取っているわけですから、そこで止まります。また、セカンドが落ちた場合、トップも引きずり落とされるかもしれませんが、やはりプロテクションで止まるので大事には至りません。

 ということで、声が届かなくても、この方法で登り続けることが可能になります。声が聞こえないため、ず〜っと待っているという初心者にありがちな失敗をしないようにしましょう。

無名山塾・本科会報「月刊 岩小舎」に連載