C-UPコラム『新人クライマーのひとりごと』 (第10回)

 〜山のトラブル対処法 その壱〜

 私はムシが嫌いだ。でも、ムシは私のことが好きらしい。山から戻ったときは、ムシに喰われて身体のあちこちがかゆくなっていることがよくあるのだ。山では何ともなかったのに、家に帰ったあとで症状が出てくることも多い。先日、小川山のクライミング講習から帰ってきた日は、その夜中に足の数箇所から猛烈なかゆみが発生して目を醒ました。

 こうしたかゆみは、多分、ブヨ(ブト、ブユともいう)に刺されたものだろう。私は、ムシの専門家ではないが、ブヨのかゆみは、刺された直後ではなく、しばらくたってから出るらしい。

 山をやっていれば、多くの人はこの辛さを一度や二度は経験されたことがあると思う。ブヨに一箇所でも刺されたら激しいかゆみに一週間以上も悩まされ続け、掻けば掻くほど症状が悪化し、刺された部分の皮膚が固くなってしまう。しかも、市販のかゆみ止めの薬は、ほとんど効果がないときている。

 しかし、このブヨ刺されには、あまり知られてはいないが、効果抜群の特効薬があったのだ。この方法は雑誌「カヌーライフ」の藤原尚雄編集長が2002年の春号で紹介していたもので、ニュージーランドで川下り中にサンドフライ(Sandfly:ブヨ)に刺され、そのとき現地のガイドから教わったらしい。

 その方法はとっても簡単。熱いお風呂に入るだけ。ニュージーランドではあちこちに温泉が沸いているらしく、藤原氏は川原に沸く温泉につかり、アッという間にかゆみが引いたと書いている。

 私もこの方法を知ってから、かゆみに悩まされることは、ほとんどなくなってしまった。お湯の温度については、藤原氏は50度と書いているが、それだとヤケドしかねないので、私の場合はシャワーの設定温度を43〜44度ぐらいにして、刺された場所に1分間ほど集中的にかけている。これだけで、掻きむしりたくなるようなかゆみがすっと消えてしまうから不思議なものだ。(蛋白系の毒成分が一定の温度で変性するのが理由とのこと)

 ただひとつ難点といえば、山では風呂がないので長期縦走の途中で刺されたときには処置ができないという点だろう。下山するまでひたすらかゆみを我慢するしかない・・・。

 やっぱり製薬会社さんには、一刻も早く、ブヨにも効くクスリを作ってもらいたいと思うきょうこの頃だ。

※この方法を試す場合は、ヤケドにご注意下さい

無名山塾・会報「C-UPワールド」2003年9月号に掲載