C-UPコラム『新人クライマーのひとりごと』 (第9回)

 〜究極の登攀???〜

 ボート競技のことを少し紹介したい。ここでいうボートとは、もちろん競艇でもなければ、公園の池でデートのときなどに乗る手漕ぎボートともチョット違う。使うのは、レース用に作られた細くて長い艇。8人漕ぎのエイトでは約17メートルの長さがある。この艇で、直線距離2000メートルを、脚・腰・腕の筋肉をフルに使って漕ぎぬくという競技人口のそう多くない地味なスポーツだ。(山塾本科にはボート経験者が私を含めナント3人もいる!)

 このボート競技、全日本の大会やオリンピックなどでは、湖などの静かな水面上で行われるのが普通だが、驚くことに、今では水のない陸上でも大会が行われるようになってきている。

 ローイング・エルゴメーター。
 漕ぐ力を測定するマシンのことだ。

 この機械を体育館に何十台も用意して行われる陸上のボート大会では、選手達は2000メートルを何分で漕ぎ終わるかをマシン上で競う。体育館の中は、熱気でムンムン。エネルギーの消耗度は、水上でボートを漕ぐのと全く同じか、それ以上という激しさだ。(※1)

この大会の長所としては、
 (1)荒天でも実施できる。
 (2)一人でも参加できる。
 (3)選手が体ひとつで参加できる。(ボートやオールを用意する必要がない)
 (4)全国各地で同じ規格のマシンを使って大会が行われるため、日本中のボート選手のランキングが作成される。
といった点が挙げられると思う。

 さて、スポーツ・クライミングの世界を考えてみると、なんだか似たような状況だ。いや、多分ボートよりも先へ進んでいるような気がする。つまり・・・
 (5)岩のないところ(室内)でクライミングがごく普通に行われているし、
 (6)荒天でもクライミングができるし、
 (7)一人でも手軽にできるし、
 (8)道具を一切準備しなくても楽しめるし、
 (9)壁の角度とホールドを共通にして、世界中の人が同じ課題に挑戦するという取り組みが行われつつある
からだ。

 どうでしょう?
 でもこれって、上のFとGを満たすということから言えば、ボルダリングに限定されますよね。なんだかこんなことを考えてみると、クライミングと言うのは、究極的にはボルダリングの方向へ収斂していっているのかなぁ、なんて、あまり根拠はないのですが、ちょっと感じたりもしています。
 でもやっぱり山塾イズムとしては、アルパインルートや沢を登って、最終的にはピークで乾杯!ってのが最高ですなぁ。

 今月は、雨で北岳バットレスが中止になり、何もすることがないお盆休みの中、とりとめもなくそんなことを考えてみました。

(※1)水上では、風や波などでボートが左右に傾むことがあり、そんなときは全力で漕ぐことができない。しかし、陸上のローイング・エルゴメーターでは、バランスが崩れないので、常に全力を出すことが可能。

無名山塾・会報「C-UPワールド」2003年8月号に掲載