C-UPコラム『新人クライマーのひとりごと』 (第6回)

 〜まだエイト環!? 現代確保器事情なのだ!〜

 「ムーアの法則」というのがある。パソコン好きの方はご存知だろうが、これはインテル創設者の一人Gordon Moore博士が1965年に経験則として提唱した「半導体の集積密度は18〜24ヶ月で倍増する」という法則だ。要は、パソコンの処理速度は指数関数的に急激に伸びていくというものである。

 21世紀を迎えた今、現実には半導体の性能の伸びは鈍化したようだが、この法則が当てはまっていると思われる分野が、実はクライミングの世界に存在する・・・、としたら、それは多分、確保器(ビレイディバイス)の分野ではないだろうか。

 「ROCK&SNOW」の2002年春号を参考に、確保技術の変遷を振り返ってみると、まず、肩がらみ、腰がらみなど身体を使ったものから、カラビナを使ったグリップビレー、エイト環へと進化し、その後、イタリアンヒッチ(半マスト)も使われるようになる。そして90年代、ブラックダイヤモンド社がATC(Air Trafic Controller)を発表し、フリークライマーの中で代表的な確保器としての地位を確立。そして、今ではさらにそこから機能の向上を狙ったものが続々と登場してきている。

 さて、そうした中、無名山塾では原則として確保器はエイト環を使うことになっている。これは、エイト環が確保にも下降にも使える万能器具であり、初心者に分かりやすいという配慮からであろう。これはこれで一つの見識であり、山塾の良さ、山塾ならではのこだわりでもある。岩崎さんも「日和田はエイト環に始まり、エイト環に終わる」と言っている。(ような気がする。言ってない?)

 しかし、前述の通り、エイト環を性能で上回るものが多数あるのが現代確保器事情であり、本科2年生ともなればエイト環以外の確保器についても、ある程度は使いこなせなければならない。では、どれがいいのか・・・、といっても、全て万能というわけではなく、それぞれに得意分野があるようだ。ごく簡単にまとめてみると

1.ATC(ブラックダイヤモンド)⇒とりあえず定番。類似品多数あり。
2.ジジ(コング)⇒セカンドの確保専用。セルフロック
3.ルベルソ(ペツル)⇒ATCにジジの機能を付加
4.ファシル(クライミングテクノロジー)⇒エイト環とジジを合体
5.グリグリ(ペツル)⇒オートロック(シングルロープ)
6.シリウス(?)⇒オートロック(ダブルロープ)

 この中で、ジジとシリウスは使ったことがないので何とも言えないが、それ以外の4つの中で考えると、ダブルロープのアルパインクライミングではルベルソが良いと私は思っている。カラビナをひとつ余分に必要とか、ロックすると解除しにくいなどの不満点はあるが、懸垂下降もできるのでエイト環を持つ必要はない。(長い下降がある場合は別)
 また、整備されたフリーのゲレンデや人工壁では、値段は高いがグリグリが安心だと思う。ただし、アルパインのゲレンデやルート(支点にリングボルトやハーケンが使ってある岩場)でのグリグリの使用は避けるべきだ。これは4月の机上講座で新保講師が指摘していたことでもあるが、墜落を急激に止めるため、強い衝撃が中間支点に加わってハーケン等が抜ける可能性があるからだ。
 と、勝手に私の考えを書き連ねてしまいましたが、クライミングは一つ間違えると大事故、全ては自己責任の世界。ルベルソやグリグリは、使い方を完璧にマスターしないとかえって危険です。ですから、言うまでもなく自分自身が一番安心して使えるものを使うべきですね。

 さて、最後に、エイト環にロープを通したり、外したりする際の手順について一言。
 山塾の多くの人が体の横(腰のギアラックのところ)で付けたり外したりしていますが、初心者にとっては、操作しづらく時間のロスが多いので一考の余地がありそうです。
 私は、環付きカラビナとエイト環をセットで、ギアラックから外し、ハーネスのビレイループに取り付けます。そして、ロープを通したり外したりの操作は《体の正面》でやっています。そして、再びギアラックに戻すときは、エイト環と環付きビナをセットで戻します。つまり、環付きビナとエイト環は常に一組のものになっています。ビナの持ち方さえ覚えればエイト環を落とす心配はありません。(エイト環は小指の下側にくるようにしてビナを持ちます)
 体の横での操作に時間が掛かり困っていた方は、一度お試しください。そうそう、エイト環に加え、さらにATC類を持つときは、それ専用の環付きビナを持つことになります。

※2005年1月現在、私はカシンのPIU(ピウ)を使っています。

無名山塾・会報「C-UPワールド」2003年5月号に掲載