<一枚の布>

 都心から八王子への帰り車中にて。
 沈みゆく太陽。
 中央高速道も調布を過ぎると、星も瞬く深く青い上空は宇宙空間を感じさせ、地平線には太陽のシルエットで連なる黒い山並とオレンジ色のスポットライト。大室山など丹沢方面と少し背伸びした山、富士山がくっきりとした輪郭で見えている。富士山の山頂付近はわずかに白い。いまの季節、こんなときに思わず実感、雪の季節が近づいていることを。視覚的空気感から季節を実感できるこの瞬間がいいんだよね。
 暖かいリビング、なべ、日本酒でヌクヌクぽーがいいじゃない。雪の山なんて、な?んて思ったことはないけど(本当か)。よく行くよな雪の山。寒いのに。
 これから山を楽しんでみたいというとき、スタートが雪の季節でまったく何もないところから、となると結構気合いがいる。夏スタートとの違いは、必要な道具の多さというより、道具の重さと価格かも。夏だと多少のものなら、日常のもので代替えできるが、その幅が冬は狭くなる。ウェアにはそれ系が必要だろうし、アイゼンやピッケル。さらにいろいろな情報を仕入れると、さらに特化したものが欲しくなる。しかも、これらの多くは日常では使い難いものが多い。簡単に言うと「使えね?っ」。それでも道具を揃えるこのパワーはやっぱり偉大だ!
 岩を始めた頃はマイザイル(ロープ)を持つとうれしい気持ちになる(ならない?)。ピッケル・アイゼンもそれに似ているだろう。テントはどうか?それほどでもないか。いやマイテントも山ノボラーになった、いっぱし気分は同じかな。山も広がる。
 「でも考えちゃうよな、実際に使うのは毎週1泊するとして月4回(行き過ぎ?)、雪のシーズン12月から5月と見ると6ヶ月。で、24泊。普通の人(誰が?)はそんなにいかないんじゃない?」「でも夏にも使えるよ」「それならいいか」
 いまの山岳用テント生地はリップストップタイプの布地が多いと思う。細かく格子が入ったように織られているもの。軽量で、かぎ裂きから傷が広がらない特徴がある。さらに最近のウェア素材のように、外が寒いときは体温だけの遠赤外線効果を生み出し暖かさを逃がさず、暑いときは熱放出でクールに、な?んてことはないだろうが、ゴアを使ったものとか耐久性があるものなど、形状を含め工夫されている。
 雨風をしのぐフライは風に煽られないように形が工夫され、夏から冬まで可能なものや、より堅固に冬を楽しむために外張りとして冬用のオプションがあるものなど、いろいろある。そんな中、防水性や透湿性がよくなり居住性も上がった反面、雪の季節、テント内が濡れないように配慮する気持ちが薄れている気がする(自分もだが)。たとえば、食事は中で作ることも多い冬、鍋からでる湯気に気を使うことはあまりない。かつて綿素材をベースのテントを(いつの時代だ?)使っていたときは(クラブで代々使用)、いかに鍋の蓋を開ける回数を減らし、開けるときも瞬時かつ最小限の開閉、そんなことに気を遣っていた。体育会系ならできないときには厳しい躾が・・・。なぜって、湯気がテントに氷として付着しバリバリになり重くなる。長期山行になると外側にも雪が付着、テントが太巻き状態に。倍くらいになることも。話は昔の年代の人に聞いた話(本当か?実践してたんじゃないの?)。
 ファスナーも多く使われている最近のテント。かなり寒くなったり、長期になると不具合を生じることも・・・。
 そうそう火に弱いんだよね。ガスランタンは山岳テント内持ち込み禁止。明るくて暖かいけれど、余計な荷物になるし被害にあうと悲惨なことに。テントに触れただけで溶けてしまう。冬・北アルプスで、フライまで貫通の大穴を開けて雪が吹き込み後が大変だったと・・・そんな話。あ、これも人から聞いた話ね。
 テントって中はそれほど寒くないんだよね。テントの薄いあの布一枚で。いつだったか北アルプスで4人用テントに3人と空間に余裕があったとき。外気温が-8度ほど。風速は樹木揺れる、7〜8mほど。でもテント内部は数度(あ、なにも火は使ってないとき)温かい(そう思える)。外なら風でさらに体感温度は下がるのだから、それからみれば、たかが布一枚といえない。大切に。