<春の雪山>

 陽光の山。4月半ばから5月ともなると北アルプスの山々もそんな雰囲気に包まれる。
 厳冬期では様々なフットワークのよさが必要となるが、残雪期の山となると少しだけ扉を開いてくれるので遊べる範囲が広がってくる。

 岩と雪稜ミックスのバリエーションもいいし、夏なら藪で難儀するようなコースをつなげた縦走や山スキーを駆使した計画など、実り多い山を楽しめる。そして、山を下れば暖かい春の様相となれば山行の印象もさらに深まる。
 でもご用心。時として冬模様に逆戻りの日々も。そうかと思えば雨模様と目まぐるしく変化するのも特徴だ。となるとウェア関係が悩むところ。厚手の冬山用ヤッケ類はかさ張るし、雨ではもったいない。「じゃ雨具がいいか」となるけど、口元くらいをカバーできる大きな風帽がついていないと、吹雪かれたときにつらい。それがないなら目出帽なりで吹雪かれたときの対応策は考えておくことだ。

 わたしはチョットだけ風帽もしっかりした雨具でこの時期は対応する。このときの雨具は春先や冬始めの期間限定使用いや仕様か。雪または雨かも・・・って両方考えられる時期だけにしか登場しない。だって夏の雨まで使うと消耗が激しくもったいない! 夏はもう使い古しの元ゴア雨具だ(笑)。 
 そしてインサイドはレイヤードで対応。半袖と長袖の組み合わせ。暑さと寒さの変化に対応できる。それから足元だが、スパッツはできるだけシッカリとまともなゴア仕様を使うとよい。この時期、雪は水分が豊富。昼間、歩くときスパッツ上で融解した雪からの水が入り込む。防水のしっかりした靴を履いていてもスパッツがやわいと、せっかくのいい靴でも機能が半減する。
 もうひとつ気を使う大切なことは歩き方。アイゼンワークだろう。朝方と昼間と夕刻、雪の表情が大きくかわる。凍った雪面、ところどころは氷状に、それも昼間の形のままなので凸凹していることも。そうかと思えばぐしゃぐしゃの軟雪、腐れ雪、足元すくわれ滑ったりなんて。とういことで臨機に対応できるフットワーク、膝の動き、重心移動が必要となる。このためにも4月の始め芝倉での春山ピッケル・アイゼンワーク講習会は大切だ(チョット宣伝・笑)。

 さあ、それから出かけよう。この時期ならではの雪山スペクタクルが結構あるものだ。

 そうそうGWの餓鬼岳から北燕への縦走での話。入るひとは少ないがここは夏でも登山道があるところだ。登山口の白沢から尾根に出たあたりから雪が多くなってきた。ここからずっと雪の上となる。
 1日目は晴れ、2日目は耐風姿勢をとらないと飛ばされそうな風と降雪。ほとんど厳冬モード。3日目は快晴。他のパーティーは前後に入っている様子もなく、ときどきラッセルやら凍った雪面やら変化のある縦走を楽しみ、あとは北燕から燕岳そして下山へとこぎつけた。そう燕岳まで後どうみても20分ほどと思える距離だ。ここから雪山スペクタクルが始まる(大袈裟か)。
 北燕の東側に夏道が通っている。ところがそちら側には大きな急雪壁が山肌から剥がれそうで剥がれない微妙な位置で連なっている。それも完全に壁になっていればいいのだが少しずつ分断され、大きな雪柱が乱立しているようだ。大きさは下まで100メートルはあるだろうか。ひとつひとつをクリアしていかないと前には進めない。おまけに雪は腐って崩れそうだ。西側を探れば、ここも結構スッキリ下まで見渡せる急斜雪面。でも締まっているし、切れていない、「しゃあないな」帰るにはここ突破しかないと、弱点を狙い雪を被った花崗岩スラブをトラバース。ところどころラッセルも交え先に進んだ。もう少しでクリアかと思えばノッペリ岩塔が遮る。しょうがないので東側の雪柱にトライ。いやらしげなのでロープが欲しい。
 そのときは舐めていたわけではないがコース全体は夏の登山道があるところでそれほどの必要はないだろうと準備の段階では考えていなかった。それでも出発直前に何気なく7ミリ20メートルを持っていこうとザックに放り込む。おかげで安心を与えてくれた。計画より大幅に時間はかかったが下山予定のその日に無事帰ることができた。

 悪場となったところは夏なら登山道を数分もしないで抜けてしまうところだろう。雪があることで演出された舞台だ。時期が少しでもずれるとステージ状態は違ってくる。状況に応じて問題解決をはかっていく楽しさが残雪期の山にもある。そろそろ残雪期の山計画を考えてみるのもいいのでは。楽しいですよ。