自主の記録
2005/8/8(月)
Cフェース 剣稜会ルート〜八ツ峰上半部縦走
◆メンバー 横川秀樹(L)、山野美香
◆記録 山野美香
テントを叩く雨の音で目が覚めた。今日の起床予定は2時、起きる時間が迫ってくるが雨は止まない。少し様子を見ることにしてシュラフに入り直すが眠れるわけもなく、とりとめのないことが頭の中を廻る。昨日Dフェースを無事終了して気持ち的に少し楽になった。今日一日も楽しく行きたいと思うものの雨ではそれも叶わないし、去年の停滞の楽しさを思うとこのままゆっくりと停滞というのもいいかもしれない…。そんなことを考えているうちに雨音が聞こえなくなった。
予定より少し遅れて3時15分に出発するが、講習組はまだ夢の中のようだ。ここからY峰フェース群までは昨日も歩いているが、またあの長次郎雪渓の長い急登を行くかと思うとちょっと気が重くなる。進むに連れパートナーとの距離が開いていくのも悩みの種だ。もうちょっと早く歩けないものかと自分でも思ってはいるのだが…。
Cフェース取り付きへは雪渓から乗り移ったところから少しザレていて歩きにくい部分もあるが、あとは明瞭な踏み跡に導かれる。人気の高いルートということで他のパーティがいるかと思ったが幸い取り付きには誰もいなく、身支度を終えるころ大学山岳部の二人パーティが到着した。
天気も体調も上々、いよいよスタートだ。全体として登攀自体さほど難しいところはなく、いつも振り返れば長次郎の雪渓が大きく広がり最高のロケーション。そしてそこにいるちっぽけな自分とザイルで繋がっているパートナーの存在。なんとも不思議な世界に身を置いているような気がした。そして、順番でいくと恐れていた4P目は私のリードだ。どうもいまだに高いところが苦手で、トポに「高度感満点の切り立ったナイフリッジ」と書いてあるのを読んだだけで腰が引けていたのに…。案の定、リッジのトラバースでは怖いもの見たさに反対側を覗くとなんとも薄っぺらい岩で向こう側へポキッと折れそうだ。しかもそのリッジの終わるところがビレイ点で、こっち側と向こう側にまたいでのビレイとなってしまい、終始オシリのあたりがムズムズしていた。
快適な登攀は無事終了して一安心だが、今日はここから八ツ峰上半を縦走して本峰を目指すのでまだまだ先は長い。Dフェースの頭の先、VI峰ピークから脆い岩場を下り三ノ窓谷側からVII峰へはやや傾斜のあるII級程度の登り。そして懸垂ののち[峰へと向かう。
大きな岩と岩の間に体を入れてクライミングシューズを脱いでいるとパラパラと雨が落ちてきた。まだ先は長い。レインウェアを用意しながら、ここから長次郎谷へ下降する案がパートナーから出るが、例によってレインウェアを羽織るとまもなく雨は止んだ。予定通り本峰へ向けて前進となるが、ここはビレイをしてパートナーが一旦岩を下って登り返す。すると、「岩をまたぐところがちょっと離れているから、思い切って来て」とやや緊張を伴った声がした。その様子から、難しいことがうかがえる。登山靴に履き替えたことを後悔しつつもなんとかクリアしたが今日一番緊張した場面だった。
八ツ峰の頭から池ノ谷ガリーへ懸垂下降しそこからはやや脆い岩場を落石に注意しながら登る。そろそろ岩稜の登降に飽きてきたころようやく本峰が近くなってきた。すると聞き覚えのある声が…。山頂で源次郎尾根からの講習組と行き会うことができた。
今回、技術・体力・精神力とあらゆる点において大きな差のあるパートナーとの山行で、歯がゆい場面や妥協や諦めなど苦痛を強いたであろうことは容易に想像がつく。この場を借りて心から感謝していることを伝えたい。この山行は私にとって大きな大きな財産となった。
【行程】 BC(3:15)〜長次郎谷出合(4:35) 〜V・VIのコル下(6:45)〜Cフェース取り付き(7:30)〜登攀開始(8:10)〜Cフェースの頭(10:00)〜八ツ峰の頭(12:15)〜本峰(13:45)〜BC(16:45)