講習山行の記録

2005/7/24(日)
丹沢/小川谷廊下

◆メンバー 工藤寿人(講師)、伊藤幸雄、伊藤栄子、福田洋子、本多美貴子、小室郁子、尾久一朗、みどる1名
◆記録    尾久一朗


 「丹沢一」そう言われるだけあって美しい。木々の緑と花崗岩の白、それと透き通った水のエメラルド色がすばらしいコントラストだ。雨まじりの天気だったが、これで陽が差し込めば、桃源郷のようだろう(ほめすぎか)。

 私にとっては3回目の沢講習。今回の課題は「思いっ切り水に入り、思いっ切り登る」だった。前回の倉沢谷本谷の講習で不覚にも防水対策を忘れ、携帯電話などをぬらしてはいけないと、泳いだりできなかったからだ。
 入渓点の穴ノ平橋に車を置き、複数の堰堤をはしご伝いに降りていくと、20分ほどで小川谷に出る。ここから遡行開始。すぐにゴルジュ帯が始まり、へつりながら進む。スタンスやホールドはあまり多くないが、花崗岩には思ったよりもフリクションが効く感じがした。また、水につからないようにおっかなびっくりへつるよりは、水に入ってしまい、浮力を利用した方が良いように思えた。流れさえ強くなければ、最悪でも水に浮くだけだ。
 今回は防水対策をばっちりしてきたので、滝の直登に何度もトライした。先に登った工藤さんたちが、お助けスリングを出してくれるが、極力頼らず登ってみる。
 最初のチョックストーンを超え、高さ3mほどの小滝で、少し難しいシャワークライミング。左手で水中のホールドをつかみ、右足が水中のスタンスをとらえる。左足にはスタンスがなくスメアリング。右手の先20センチくらいのところに見えるガバに、必死に手を伸ばす。激しい水流との押し合いで体が上下するたびに、落下を期待するギャラリーからヤジがとぶ。1分ほどの格闘の末、右手がガバをとらえた。ギャラリーからは「あ〜あ」と落胆の声。私はすっかり安心して、右手と右足で体をもちあげた。その時だ。支持が弱くなった体の左半分が水流にはがされ、滝壺へ真っ逆さま。
 水中に響く泡の音。人々のさわがしい声。口に入ってくる水の味。小さいころ、おぼれそうになりながら、泳ぎの練習をさせられた記憶が、何十年かぶりによみがえってきた。
 遡行開始から1時間ほどたっただろうか、パーティの調子が上がり始めたころ、アクシデントが起きた。何度か小落下した本多さんが、右足首に不調を訴えた。痛くはないというが、念のため工藤さんがテーピングをして、リスタートする。私は少し心配だったので、本多さんの後ろにまわりサポートした。見ていると、右足の踏ん張りがあまり効かない様子。右足が着地するたびに足首から下が左右に大きく傾いている。そのうち、滝を高巻く局面など、自力では登れない状態になってしまった。伊藤幸雄さんがスリングで引き上げるなどして、なんとか凌ぐ局面が続いた。
 工藤さんから途中でエスケープする案も出されたが、遡行終盤でもあったので、そのまま終了点に向かう方が安全だろうということになった。遡行を終え、穴ノ平橋の駐車スペースに戻ったときは、すでに日没直前だった。

 数日後、本多さんはアキレス腱を切っていたということを知った。泣き言ひとつ言わず登っていたのも驚きだが、もしCUの皆さんがいなかったら…という思いも頭をかすめた。実は、講習数日前までは工藤さん、本多さん、私の3人パーティの予定だった。その状況ならば、それなりに精一杯がんばるだろうが、今の自分にどこまで出来ただろうか。
 「自立した登山者になる」ということの大切さを痛感した。

PS.本多さん、けがをしっかり治して、また一緒に山に行きましょう。


【行程】  新松田駅(8:15)〜穴ノ平橋(9:00/9:20)〜遡行終了点(17:00/17:20)〜穴ノ平橋(18:50)