自主の記録
2005/7/16(土)〜18(月)
南ア/鋸岳〜甲斐駒ヶ岳
◆メンバー 黒田記代(L)、福島彰男
◆記録 福島彰男
今回の山行はKさんから声がかかった。以前より鋸岳は興味があったのですぐ応諾した。核心部は鋸岳(第一高点)から第二高点へのルートファインディングと懸垂、そこには脆い岩場のトラバースもあるようだ。限られた時間の中で的確な判断が求められる。装備、ルートなど、事前打ち合わせをKさんと十分に行った。
一日目。伊那北駅7:40分待合せ。Kさんは夜行。自分は夜行がないので伊那で前泊。天気はまあまあ。駅前から予約したタクシーに乗り戸台まで。戸台には一時間位で着く。いよいよ行動開始である。
戸台から戸台川に沿って登るコースは今年二度目、最初は一月の仙丈ケ岳講習のときだ。途中一時間位の所で靴を脱がずに徒渉し左岸沿いに道をとり、さらに一時間歩くと角兵衛沢の標識があった。何とか対岸に渡れそうな所を見つけ、最初は脱いだ靴だけを運び、次にザックを運ぶという二度に分けての徒渉。さすがに長く入っていると冷たさで足が痛くなった。水から出てしばらくすると身体が引き締まり気持ちが良かった。
さて、歩き出すとすぐ角兵衛沢の入口を示すケルンがある。ここからゆっくり登っても午後2時頃には大岩下ノ岩小屋に着けるはずだ。急がず登り始める。角兵衛沢は沢の面影はない。樹林帯での登りである。暑くなく爽やかな陽気である。いたるところに赤テープがあり踏み跡もはっきりしていて全体としてわかり易かった。
高度2000m位になると、木々の間から見えてきた大きな岩稜、あれが大岩かとすぐに分かった。しかし瓦礫の中をどこから近づいたらよいのか。また岩小屋はどのあたりなのかがよくわからない。赤テープを頼りに進むとそれらしいハング部分がある。これが大岩下ノ岩小屋か。確かに岩の基部が屋根のようにせり出し、奥行き3m位幅10m位あるだろう。テントは3張り位張れそうで、焚き火の燃え残りもある。水は岩から2箇所湧き出ていた。岩小屋から見る景色は山並と雲と空だけ。まるで別世界。早速テントを張る。暖められた草の上なので最高。
まずは一杯。伊那北駅前で朝買ったビールは350ml一缶だけ。明日の成功を祈ってKさんと乾杯。湧き水で冷やしておいたので美味しい。もっと買ってくれば良かったと思ったが後の祭りである。あと自宅から持参したウィスキーをチビリチビリと大事に飲む。ミネラルを多く含む冷たい石清水の水割りは格別。食事もうまい。岩小屋は我々が独占した。夕方から遠雷の音が長く続いていた。明日の天気が心配。就寝20時。
二日目、3時半起床、4時50分出発。天気は曇りで良くなさそう。スタートから早速ガレ沢の登りで嫌になるが登るしかない。ずり落ちないようにとするのだが出来ない。それでもしっかりしている石を選びながら進む。途中コースが右側にずれたため修正する。苦しみながら進み角兵衛沢コルに着く。ここから急な尾根の登りとなる。
20分位で鋸岳の最高点である第一高点に到着。目指す第二高点が間近に見える。ここでハーネス、ヘルメット、エイト環、ロープなどを準備。いよいよ核心。気を引き締める。細い尾根を下って行くと、最初の懸垂箇所に。そこには真新しい鎖があったがそれは使わず、自分たちのスリングを足して10mも無いほどの懸垂下降をする。降りた場所は狭い小ギャップの底。そこからまた登り返しとなるが、逆コースから来た人とその登り口ですれ違う。石が落ちてくるので注意をするが避ける場所も狭い。次第に風が強く寒くなったので雨具を着用し急な草付きの壁を登る。途中から鎖があるので補助的に使いながら登り、リッジ部分をまたいでいるとガイドツアーと思われるメンバー4,5人(女性)とすれ違う。そのリッジから降りて甲州側のトラバース道を進むと穴(トンネル)があった。鹿穴と呼ばれている所だ。ここにも新しい鎖が掛かっていた。何人かの人が登って来たので様子を聞くと、浮き石が多く苦労したので下りはもっと大変だろうとのこと。
鎖は細い。その鎖を使って降りる。真っ直ぐでなく屈曲しており足を岩におくと小石が下にガバツと落ちる。多分、下から登ってこないだろうが確認のしようがなく心配。なんとか鎖の終了地点(約50m位下ったあたり)に降りる。ルンゼは更に下に続くが、鎖が終了した場所で次のルートを探すと右斜面に草付きのバンドを発見。そのバンドを水平に辿り対岸のルートを探しながら降りると、進路が分かった。再びルンゼに降り、ガレ場を少し下り、先ほど見つけたトラバース道をしばらく進むと道は二つに分かれていた。ここでザックを降ろし偵察することにした。
上の道は、途中まで行くと踏み跡が不明瞭となるが、良く見るとかすかに踏まれていて、さらに進むと行き止まりとなっている。そこから懸垂で大ギャップに降りられるように潅木にスリングが掛けられていたが、そこは危険な気がした。一旦戻る。もう一方の道は途中で道(バンド)がなくなり先が分からない。下は垂直に近い形で落ち込んでいる。もう一度良く見ると岩壁にかすかな踏み跡があった。そこをトラバースすると大ギャップに降りられることが確認できたのでザックを置いた所へ戻る。
これで大ギャップへは問題なしとなったが、次に対岸から第二高点へ行く道がはっきりしない。しばし思案。登れるとしたらあそこだろうとKさんと見当をつける。一応インターネットで調べた資料にも目を通し、間違いないと確認できたので進むことにした。大ギャップのガレ沢を渡り左岸から進むと、今まで無かった赤テープが樹林帯の入り口の木に付けられていた。さらに少し行くと踏み跡もあった。あとはひたすら登るのみ。
30分位で第二高点に到着。核心部分の通過が終わり安堵する。ルート確認のために時間は使ったが、風が収まったこともあって順調だった。第二高点の頂上には鉄剣が突き刺さっていた。ここから見る鋸岳の頂上は実に特徴のある形をしていた。
下りは岩とハイマツの稜線を降り、その後こんなところを行けるのかと思うような急なガレ沢を延々と降りると中ノ川乗越に着く。ここは熊穴沢の詰めに当たる部分。二度と降りたくない所だ。
途中、三ツ頭の北側を巻いて尾根筋を降りるルートのはずが尾根筋に入る手前で通行止めと思われる箇所があった(木で塞がれていた)。気になり、廻りを見回すとその場所から頂上へのルートがあったので一応頂上まで登り、頂上から尾根に抜けられることを確認して通過することが出来た。恐らくそのまま進入禁止と思われる箇所を入ったら相当時間のロスをしたと思われる。(帰宅後調べたらその箇所は廃道であった)
15時15分。6合目の石室に到着。大きな石が折り重なっている場所の中に実にうまく作られていて、外観はなかなか立派である。もう廃墟寸前と聞いてきたので心配だったが何とか今日一日は使えそうだ。中に入ると今の所我々だけ。テントは3張りくらい大丈夫である。
水場へは往復40分。今日の水も美味しい。もう他の人は来ないだろうと思っていたら後からもう一組(二人)が到着。その人達は北沢峠から来て鋸に行く予定だったが一人が靴底(両足)を剥がし鋸は断念との事。お気の毒である。早い夕食を済ませ、暖かな日差しを受けながら四人での語らいの一時を過ごした。
結局この日鋸岳ルートで出会ったのは小ギャップと鹿穴の僅かの間(10分位)に4グループだけ。連休なのにやはりこのルートに来るのは限られた人だけのようだ。
鋸岳に落ちる真っ赤に染まった夕日を見ながら一日が安全に終わり本当に良かったと感じた。就寝7時半。
三日目。3時半起床。昨日と同じ4時50分出発。風もなくなんと素晴らしい天気だろうか。甲斐駒ヶ岳まで約2時間。これを登れば後は下りだけ。成し遂げた鋸岳。足取りは軽い。後ろには昨日登って来た鋸岳と第二高点のピークがくっきり朝日に照らされて、行く手には甲斐駒ヶ岳の雄姿が眼前に迫る。
6時50分、甲斐駒ヶ岳の頂上に立つ。山の眺望は朝。最高の展望。近くは仙丈ヶ岳、北岳、富士山、八ヶ岳、遠くには北アルプスが一望である。ゆっくり休息をとる。これから長い黒戸尾根を下るのだが、あと7時間位だ。頑張ろう。
鋸岳を登り、帰りは黒戸尾根をというKさんの計画は凄い。長かった縦走も終わった。尾白渓谷駐車場に無事下山、14:00であった。
【行程】
7月16日 戸台(8:40)〜角兵衛沢出合(11:10/11:20)〜大岩下ノ岩小屋(14:15)
7月17日 大岩下ノ岩小屋(4:50)〜角兵衛コル(7:20/7:35)〜鋸岳(7:50/8:10)〜大ギャップ通過(10:10/10:20)〜第2高点(10:45/11:00)〜三ツ頭(13:45/14:00)〜六合目石室(15:15)
7月18日 六合目石室(4:50)〜甲斐駒ケ岳(6:50/7:15)〜七条小屋(9:00/9:10)〜5合目(10:10/10:20)〜刃利天狗(10:50/11:00)〜尾白渓谷駐車場(14:00)