講習山行の記録
2005/2/11(金)〜2/12(土)
八ヶ岳・硫黄岳
◆メンバー 松本善行(講師)、田中治男、尾久一朗、松永己幸、遠足1名
◆記録 尾久一朗
テント2泊で硫黄岳、赤岳の登頂を目指す今回の講習。私の目標はひとつ、「笑顔でピークに登り切る」ということだった。
何を力んでいるのかと失笑を買いそうだが、これにはワケがある。1月の仙丈ヶ岳で不覚にもバテてしまい、パーティの足を引っ張ってしまった申し訳なさと、雪山を甘く見ていたことへの自己嫌悪でずっと落ち込んでいたからだ。「こんどは余裕で登り切るぞ」というわけだ。
出発前夜、慎重に吟味してパッキングした荷物を体重計に乗せる。15キロ。「おおーっ」と思わず声を上げた。仙丈のときよりも8キロ近くも軽い。「登山は知的なスポーツだ」と誰かが言っていたような気がするが、前回、いかに過剰装備だったか…。
初日、三連休の始まりということで、美濃戸口は夏山と間違うばかりの登山者が詰めかけていた。混んでいる場所は本来好きでないが、今日はこのにぎわいが心強い。天気も申し分なく、前日までの緊張が少しとけてきた。
10時45分、美濃戸口を出発。赤岳鉱泉を目指す。道は終始緩やかで、凍結箇所もほとんどなかったが、慎重に足を運んだ。仙丈のとき、傾斜のきつい八丁坂で、何度もバランスを崩したり、足を滑らせたりして、テント場までのアプローチで不必要に体力を消耗してしまったからだ。
赤岳鉱泉には、予定より早く14時に到着した。青空に八ヶ岳の峰々が美しい。テント場もアイスキャンディもものすごいにぎわいで、ワクワクしてくる。奥まった場所を新たに整地してテントを設営。まだ時間に余裕があったので、中山乗越まで登り、夕刻までキックステップやアイゼンワークの練習をした。
夜半には少し雲がかかったが、翌朝は快晴。硫黄岳のアタックに絶好の日和となった。「今日はハイキングみたいなものですから」と講師の松本さんが言うが、「そう言われて、バテたら恥ずかしいな…」と気持ちを引き締めた。
7時30分出発。予定では山頂までの往復、約6時間の行程だ。人気ルートだけあってトレースは完璧。雪の状態もよく歩きやすい。最初、2番手で歩いた私は、「一歩たりと遅れまい」とトップの松本さんの足跡を意地になって踏みつけた。
序盤は問題ない緩斜面、稜線が近づくにつれ少しずつ傾斜がきつくなってきた。実は、仙丈で、スリップしたり、ゆるい雪を踏み抜いたりと歩き方の下手さを痛感したので、その後、家や駅や会社など階段という階段で、静加重静移動の練習をしてみた。その成果が問われるときだ。
「踏み出した足の真ん中に重心を移動して、静かに立ち上がる」、「つま先より膝を先行させて、鉛直に立ち上がる」
呪文のように唱えながら進んだ…。まったく苦しくない。景色を眺める余裕がある。われわれが先行パーティを次々と抜いていく。前回とは全く逆だ。
1ピッチで一気に稜線まで登り、赤石の頭で休憩。9時20分、山頂に到着した。
稜線の雪庇や岩にはりついた「エビのしっぽ」などが、普段はこのあたりの風が強いことを物語っているが、今日はほとんど風がなく、雲ひとつない。赤岳へと続く稜線がわれわれを呼んでいるようで「このまま縦走したい」との声もあがるが、「それは次回にお預け」と松本さんがやんわり却下。下山となる。
雪の状態がいいので、稜線より下の緩斜面では、アイゼンを外し「スタンディング・グリセード」で降りてみることに。ときどき誰かが尻もちをつくが、大きな危険はない状態なので、みんなで笑いながら降りてきた。
ほぼ下りきった時点で、まだ10時30分。早い!「時間があまり過ぎた」ということで、ジョウゴ沢のF1でアイゼントレーニング、F2でアイスクライミングを見学。さらに、大同心稜を登り、急傾斜でのアイゼンとピッケルワークを練習。
赤岳鉱泉には13時10分に帰着した。予定の行動時間内に、登頂だけでなく、ふたつの別メニューを加えた充実した講習となった。
「まだまだ体力が余って物足りない」という元気いっぱいのメンバーもいたが、個人的には、翌日の赤岳アタックへ十分余力を残しておくことも大切だと思った。(翌日の赤岳も含めて)「笑顔でピークに登り切る」という目標が達成でき、とてもうれしい。
今回の教訓…『静加重静移動』は偉大だ。
【行程】
2月11日 茅野駅(10:00)〜美濃戸口(10:30/10:45)〜赤岳鉱泉・幕営(14:00/15:30)〜中山乗越(16:20/16:30)〜テント場(16:45)
2月12日 テント場(7:30)〜硫黄岳(9:20/9:30)〜ジョウゴ沢F1・F2(10:30/11:40)〜大同心稜中腹(12:50/13:00)〜テント場(13:20)