自主の記録
2004/12/30(木)〜2005/1/1(土)
南アルプス・尾無尾根から間ノ岳(〜北岳〜池山吊尾根/撤退)
◆メンバー 松本善行(L)、宮下卓宏
◆記録 松本善行
【ポイント】
間ノ岳弘法小屋尾根に比べ、その南側に位置する尾無尾根の記録を綴った資料は少ない。アプローチが長く積雪量にもよるが、ルートファインディング及び数回に亘る渡渉ありと、尾根取付きまでは一日がかりとなる。先ずはエアリアマップ中記載の「熊の平」の平坦地へ辿り着くことを目的とする。名の通り尾無尾根末端は深く切れ落ち、ゴルジュからの直登は危険である。廊下状となる手前で右の尾根に取付く。
【本 文】
鷲ノ住山からの下降を終え、吊橋を渡り奈良田から広河原への林道に這い上がる。地図上ではこの林道と、下降前の夜叉神峠から広河原へ通じる南アルプス林道とは近接し真横を走っているように見えるが、実際は標高差400m前後もあり、立体感を覚える。
広河原とは逆手に進み、荒川出合で奈良田への林道と別れる。ここからトレースが消えるが、ラッセルという程のものではない。渡渉が幾度もあり多少難儀する。それと川原に積もった新雪がゴーロを隠し、下ろした足が予想した接地面の形状と不一致であること少なからず、非常に歩きづらい。
途中、吊橋を渡るのを横着し、水流をジャンプ一発、渡渉失敗!プラブーツを半ば濡らす。今晩まじめに乾かさないと、翌日は容易に凍傷になることだろう。暫くは地図で確認しながら次第に目的の尾根基部に近づく。なにしろ資料がない。行ける所まで遡行してみようと思った。ゴルジュ帯へ入ってから直ぐに直登不可能な滝が現れ、氷壁登攀となる様相を呈している。「バックだ!」宮下君に告げて戻るのだか、どこから目的の尾根へ取付くのかわからない。地図から緩そうな傾斜を読みつつ、再び開けた川原の一点を決めて斜面に近づくと目印のピンク布があった。そこから適当に登り始めると、踏み跡,トラロープまで出てきた。どうやら正規ルートに入ったようだ。それにしても林道終点から幾たびも電気コードが延びていて、それを見失ったり発見したりを繰り返してきたのだが、どうも我々の目的とする尾無尾根へと向っている。最終的には尾根上1,800m付近まで延びていた。果たして作業用の目印であったのか、或いは登山者のためでもあったのかは不明である。
「熊の平」はとても開けていて、テン場としては申し分ない。仮に人気ルートであったらテント村もできるぐらいの適地と言える。一日目はここで切る。
翌日は暗雲の中を出発。直ぐに細沢に架かる吊橋に当たる。なるほど吊橋の傍らに水量警報ランプ(?)と人工施設があり、実際何のためのものなのかは確認していないが、今までのピンク布,電気コードはここへ至るための目印なのかも知れない。
いきなり痩せ尾根の急登が始まる。各所脆い箇所があり注意は必要だ。徐々に高度を稼ぐが、次第に天候が悪化しだして昼前には吹雪となる。当初地図上では2,700m付近に緩斜面が認められるので、二日目の幕営地として予定はしていたが、テントがまともに張れるという保証はない。ここは早目に行動を打ち切り、2,500m付近の適地で落ち着くこととした。その晩テントで明日の行動予定について検討した。明日の天候次第では撤退もやむを得ないだろう。ラジオで天気予報を散々聴くがよくはなさそうだ。無理はしない。最終的には撤退と判断した。
下山は登りよりも緊張感がある。慎重に下る。尾根全体を通して痩せているが、慣れたパーティーならロープは不要である。吊橋への下降手前にある落盤防止用(?)ワイヤーネットにアイゼンを引っ掛けないよう注意し、熊の平帰着。
さて、下山と決めた場合の、下界でのみ実行可能な数々の煩悩、そのイメージからくるエネルギーは我ながら凄まじい。二日がかりの行程を本日中にこなす予定である。前日より更に新雪が積もって川原も歩きづらいが、既に知れた道であるから、荒川出合まではえらく短く感じた。ただやはり鷲ノ住山への登り返しはきつい。昨年の矢田氏との北岳山行を思い出す。更に夜叉神峠までの林道もこれまた長い。しかしあれが待っていると思えばどうということはない。
最後の問題、そう、タクシーが日の暮れた夕刻に来てくれるかである。最悪、この夜叉神峠でテント泊となるがそれは御免である。何のために今日中に戻ったのかわからないではないか!いく社か携帯で連絡をとるものの、アイスバーンの状態を今時間登るのは無理という回答ばかり。確かにその通りだ。しかも元日で人手は足りないから決して文句は言えない。それでも気の毒に思って下さるのだろう、他のタクシー会社を紹介される。しかしそこでも断られ、徐々に絶望感漂ってくる。そしてもう最後にしようとした一社、相手側の「1時間以上かかりますが、いいですか?」の問いに、「構いません!!!」の応答。やった!来てくれる。既に指がかじかんで身体もぎこちない。宮下君の出してくれたコンロで暖をとりながら、本当に来てくれるのかと疑っている。
電話をしてから50分ぐらい経っただろうか、明らかに車のそれとわかるヘッドライトが見えた。タクシーであった。その後は記すまでもないことだろう。
【行程】
12月30日 夜叉神峠(8:10)→荒川出合(11:00)→熊の平(15:30)
12月31日 熊の平(7:30)→細沢吊橋(7:40)→尾無尾根上2,500m付近(15:00)
1月1日 尾無尾根上2,500m付近(7:00)→荒川出合(13:30)→夜叉神峠(17:30)