講習山行の記録

2004/12/17(土)〜18(日)
富士山・雪上訓練

◆メンバー 工藤寿人(講師)、田口浩昭、山野昭人、福田洋子、山野美香、斉藤典子、阿出川忍、田中治男、尾久一朗
◆記録 尾久一朗


 夜10時半ごろ、吉田口馬返しに着いた私たちテント泊組一同は、予想以上の暖かさに拍子抜けした。気温は0℃そこそこ、ほとんど無風で防寒着を脱いでも寒くない。「明日は雪訓」という雰囲気がいまひとつ盛り上がってこなかった。

 美しい冬の星空を堪能しつつ、手早くテントを設営し就寝。冬の富士山をなめてはいけないと、今回は−10℃対応のシュラフをもってきた。暖かいのを見越して薄着でもぐり込んだのだが、朝起きてびっくり。まるで子供のように全身から大汗をかいていた。シュラフは汗が結露してびしょびしょ。冬山の本番でやったらまずいなと思うほどだった。それほど暖かかったのだ。

 午前3時、起床。相変わらず無風、快晴。各自手早く朝食を済ませ、テントを撤収。テント泊組以外のメンバーとも合流し、4時45分、馬返しを出発。ヘッドライトをたよりに5合目佐藤小屋を目指す。

 今回が山塾の講習デビューの私は、最初から経験不足に突き当たった。些細なことだがネックになったのが、子供から借りた登山ザック。予想外の暖かさで、防寒着の多くをザックにしまっておきたかったのだが、容量が小さくて入らず、着込むしかなかった。汗をかきすぎて、体温調整が滅茶苦茶になってしまった…。おまけに、この子供ザックにはピッケルがうまく固定できず、手に持つしかなかった。闇にまぎれていたからいいものの、暖かな山道を暑苦しいいでたちで、ピッケルを片手に登る姿は、見てくれもよくなかったに違いない。

 よりによって「子供用」をもってきたのは、参加要項の持ち物に「サブザック」と書いてあったからだった。本当は20〜30L程度の自分のザックをもってきたかったのだが、「これじゃ『サブ』でなくて、『メイン』だよな」などと変な気兼ねが生まれ、無理にサイズダウンしたのだった。来年以降の要項からは「サブ」という文字は消して、例えば「シュラフなど、登山口でしか使わない装備はテントに置いていくから、ザックとは別にもってきてもよい」などと、初参加の人にもイメージがつかみやすいようにして欲しいと思った。

 日が昇り、明るくなった頃、休憩をとりながら自己紹介。研究生など数名は、中腹にテントを張り、明日、登頂を目指すという。かっこいい。

 ここで、工藤講師より、歩き方の基本となる「静加重・静移動」を教わる。ポイントは、@踏み出す足をフラットに着地させる、A後ろの足を強く蹴らず、そっと持ち上げる、B歩幅を小さくして重心を滑らかに移動させていく、など。アイゼン歩行の基礎にもなるから、階段の登り降りなど日常生活でも練習するようにとのこと。以降、「静加重・静移動」の練習をしながら登っていく。どの程度できていたかは分からないが、地面に氷が張っていると思い、滑らないように足の真ん中に慎重に重心を移動していくイメージで練習してみた。

 8時、佐藤小屋に着き、眺望が開ける。それまで、どこにも残雪がなかったので予期していたが、雪ははるか上、7〜8合目まで行かないとないようだった。「これだけないのは山塾始まって以来だ」と言う。そんな年に雪訓デビューとはついていない…。

 1時間弱、休憩して佐藤小屋を出発。結局、どこかに小さな雪渓が現れるのを期待して、上を目指すことになった。

 途中で「耐風姿勢」の練習。風の弱い日だったが、時おり強い風が吹いてくるので、早速、試してみた。さらに、砂礫の急斜面を雪に見立てて「キックステップ」の練習。しかし雪と違い、足を蹴りこんでも足場がぼろぼろと崩れていくので、ピッケルで2点確保しても、バランスをとるのが難しい。指導する工藤講師も何度かバランスを崩し、「雪より難しい」と苦笑いしていた。

 11時、まだ雪は現れない。これ以上登るとトレーニングの時間がなくなるとの判断で、6合目付近の砂礫の斜面でアイゼンを履き、トレーニングを開始した。新品のアイゼンにはかわいそうだったが、練習しないよりはましだ。

 まずはピッケルの使い方。「持ち方には様々な流儀があるが、山塾流はブレードを前に右手でもつ。万一滑落した場合にすぐに停止姿勢に入れるから」との説明に納得した。

 続いて、アイゼン。基本は「静加重・静移動」で、雪面に靴底をフラットに置き、爪を垂直に打ち込むこと。あと、転倒しないための重要な注意がいくつか。@後ろの足を雪面から向くときは引きずらず、真上にぬく、A爪を反対側の脚のスパッツなどにひっかけないように、2本のレールをイメージして足を動かしていく、B斜登降などで方向転換するときは、絶対に足を交差させない、など。

 残念ながら滑落停止訓練はできず、工藤講師が石の上に寝そべり、「下半身から回転させて、胸の前で打ち込む」などとデモをするにとどまった。コツは分かったが、どこかで実践しておかなくてはと思った。

 50分ほど練習をして、この日の講習は終わった。

 暖冬のあおりで雪を踏むことはできなかったが、「悪条件でも臨機応変に考えれば様々なトレーニングができる」ということが印象に残った。(でも、来年はもっと雪ふってくれ〜)


【行程】 富士吉田駅(22:00)→馬返し(22:30/翌4:45)〜5合目佐藤小屋(8:00/8:50)〜6合目付近にてトレーニング(11:00/11:50)〜馬返し(15:05)