講習山行の記録

12月27日〜29日
八ケ岳 アイスクライミング

◆メンバー 新保司(講師)、 伊藤幸雄・横川秀樹(12/27〜28)、日浅尚子・小林幸恵(12/28〜29)
◆記録 全員


27日・裏同心ルンゼ報告  横川

 夜中の3時半頃、世田谷の自宅を出たとき、東京は雪。中央道も八王子〜大月間が雪で視界が利かず、どうなることかと思ったが、何とか朝6時頃に美濃戸口に着くことができた。ここで、新保講師、伊藤さんと合流。タイヤにチェーンを付けて、美濃戸口へと向かう。
 美濃戸口着は7時半すぎ。ここから赤岳鉱泉へ、トコトコと向かうが、新保講師から「一人ずつ交替で私の前を歩いてみなさい」とのお言葉。なんと、歩きから既に講習が始まっている。これが新保さん講習の面白いところでもある。後ろ足で蹴っていないか(静過重静移動ができているかどうか)、足を引きずるようにしていないかなど、逐一細かくチェックを受ける。新保さん曰く「歩き方というのは、雪山の中でも、とても難しい技術のひとつ」
 さて、そうした特別講習を交えて歩いたので、赤岳鉱泉到着は10時半とやや遅くなってしまった。準備や腹ごしらえをして11時半に小屋を出発。硫黄岳への登山道を進み、2本目の沢(大同心沢とジョウゴ沢の間)へ入る。きょうの講習は、ここ裏同心ルンゼだ。
 まずF1で、ピオレトラクション(ダブルアックス)による登り方の確認。
  ・バイルの振り方
  ・打ち込んだら、体重をかけ、効いているか確認
  ・ツイストロック(腰をひねる)し、次を打ち込み
  ・バイルの抜き方
  ・バイルが抜けないときの対処方法
 これらを、トップロープで一度やってみていよいよ本番スタート。といっても、新保さんがリードする後を二人がついていく。我々にとって適度なレベルの滝で快適な登攀が続く。しかし、出発時間が遅かったことに加えトレースがないこともあって、大同心の基部に着いた頃には既に17時。夕闇につつまれる寸前だった。ヘッドランプを出して凍った草つきを斜上し、暗闇の中、大同心稜を下る。小屋到着は18時半。この夜は、食事後も部屋で机上講座が続くという濃密なアイス漬けの1日であった。


28日・南沢大滝小滝報告  伊藤

 赤岳鉱泉を8時半ごろ出発し行者小屋を経由して、南沢大滝に10時ごろ到着。
 大滝にはすでに一組のパーテイーが取り付いていた。氷瀑の状態は雑誌等で見たものとくらべると約2/3程度のように感じられたが、それでも高さは約40mある。上部後半には氷柱が約8mできていた。
 講習はトップロープでやることになり、新保講師がリードで登りコースを設定したが、バイルを打つたびに落ちてくる氷片の勢いに最初圧倒された。その内に落氷にも慣れ、器用に避けられるようになったが、ビレーをする上でのよい教訓となった。
 クライミングは各人2度づつトライしたが、トップロープと言えども氷柱を登る時はやはりスリリングで、氷に刺さるバイルの感触を何度も確かめようとして、かえって腕が疲れてしまうほどだった。
 小滝は大滝より下がったところにあり、高さは10mぐらいで幅は8m程度、そこで日浅、小林チームと合流。三角バランスによる垂直登攀の練習をトップロープで実施。フリークライミングのムーブを活用しながらちょっとは楽な登り方をやってみたが、なかなかうまくいかず練習するしかないなーと感ずる。
 午後4時終了。新保、日浅、小林グループと分かれ下山した。


29日・裏同心ルンゼ報告1  日浅

 日浅・小林組は、28日に南沢小滝で初めてアイスクライミングを体験(午後からだったので3本登って終了。それでもけっこう腕にきました)。翌29日はジョーゴ沢で練習と思っていたら、朝、いきなり「裏同心ルンゼ」となった。ルートの予備知識ゼロ。
7時10分に赤岳鉱泉を出発、8時過ぎに登り始めて、大同心稜をしばらく下ったところで12時だった。小屋戻りは1時15分。
終わってからトポなどを見て「F2は40メートルだったのか」「F5は最後の斜度がきつかったけれど、やはり80度近くあったんだ」と納得。振り返って、よくやったものだと思う。
この場を借りて、初めてのアイスイクライミングで学んだことをいくつか報告する。

(1)【手袋】毛糸の5本指が暖かいが、ジャスト・フィットでは窮屈。1から2サイズ大きめを。アックスを持った両手をずっと上に挙げているため、ただでも血の巡りが悪くなるのに、ちょうどよい位の大きさの手袋では、指が締め付けられてしまって、血行不良となる。血がまわらなくなった手指は紫色になり、感覚が無くなり、力も入らない。さらに、血が戻る時の痛さといったら・・・。私も小林さんも悶絶状態だった。

(2)【全身運動】氷登りは、アックスをいかに効率よく氷に刺すかがポイント。腕の力、手首のしなやかさ、そしてしっかりしたグリップ力。さらにアイゼンのフロントポイントで立ち込むため、ふくらはぎがピーンとはってくる。岩登り、山登りではあまり意識しない筋肉がビリビリしてくる。

(3)【総合力】裏同心ルンゼのようなルートを登ると、傾斜のある氷柱の登りだけでなく、滝と滝の間の凍ったナメ床やゴーロも出てくる。これが、あなどれない。特に裏同心ルンゼはF5を抜けたあと、草付きとガレの一部が氷化している所を通過する(ここが大同心基部。あの大同心を下から見上げることができる)。足場は非常に悪い。コンティニュアスで登ったが、緊張した。下山路の大同心稜も、所々急斜面や狭い道で気を抜けない。雪山のさまざまな状況を体験できた。

「バーチカルなアイスクライミングはやらない」とおっしゃる岩崎主宰。アイスクライミングは、冬山の楽しみ方の一つだと思う。夏に沢登りをやるように、冬にはアイスをやりたい。仰ぎ見ていた大同心基部を裏同心ルンゼから詰め上げることができ、八ヶ岳の多彩な魅力の一つを発見できた。無雪期にはバリエーションルートで、有雪期はアイスのルートで八ヶ岳を味わい尽くす。素敵なことだと思うのですが。


29日・裏同心ルンゼ報告2  小林

 重たそうなアイスアックス2本を振り上げ、更にアイゼンをつけて、まるであの弁慶のように、硬い氷に立ち向かう姿は、どう見ても荒々しく男性的で、怖いスポーツのイメージしかありませんでした。が、一方で、ホールドが自由に作れることから、意外にも、むしろ背の低い女性に向いているとも聞いて、また、自分の年齢からして、もう最後のチャンスだし、と、チャレンジしてみました。
 結果、ヤミツキになりそう。

【理由その(1)】確かにホールドが、好きなところに取れるので、岩と違って身長のせいで、手が届かないってことは全くありませんでした。その点では、確かに女性向き。私でもやれそう(かな?)。

【理由その(2)】裏同心ルンゼのF5あたりの、白色と、アクアマリン色のストライプになっている氷。これが、実にきれいでした。この日は晴天でしたから、八ヶ岳の空の色が氷に映っていたのでしょう。それに加えて、不思議な白糸のような雪の流れ。それは風に押されて、砂時計の砂のようにサラサラと、細く、頼りなげに岩の間から氷上へと、流れ落ちていました。あー、これって、どちらも、私の見たことのない現象、まさにメルヘンの世界じゃありませんか。凍りついた小滝は、まさに氷のおしゃれな小宮殿です。雪の女王さまでも出て来そう。(それも怖い話だけど。)こんな世界、予想だにしなかったー。

 それから、帰宅してから想いました。あの八ヶ岳西壁の氷雪達は、オレンジ色の夕陽の中では、どんな色に変るのでしょうか。いつの日か見てみたいものです。 出来のいい氷と、それに講師、仲間、天気に恵まれていたからこそ、覗けたのメルヘンの世界。感謝、感謝です。また行けるといいな。


【行程】
27日、29日 裏同心ルンゼ
28日 南沢大滝、南沢小滝