自主の記録

2003年4月11日(金)夜発〜13(日)
タカマタギ、荒沢山


◆メンバー 田口浩昭・山野昭人・山野美香・横川秀樹
◆記録 横川秀樹


♪4月になれば彼女は
 きっと来るだろう
 雨で小川の水かさが増す頃は♪
       (サイモン&ガーファンクル)

4月12日、土曜日、朝5時半。
男三人と一人の女は、駅を出て目的の山へと向かった。予報が外れたのか幸い雨は降っていない。きょうはラッキーだ、と誰もが思った。

4月になればきっと登れる。
土樽駅前の魚野川が雪融け水で水かさを増す頃には・・・・。

目指すは、TとYにとっては、三度目のチャレンジとなるタカマタギだ。A人とM香にとっても二度目の挑戦である。しかし、これまで誰も登頂していない。言わば鬼門の山だ。二ヶ月前には、4人は直前のピーク・棒立山まで行ったが、時間の関係で引き返さざるを得なかった。あの残念無念ああ無情的敗退の思いを払拭すべく、きょうこそは登らねばならない。そしてさらに奥の日白山まで行かねばならない。そしてそして、美味い酒を飲まねばならぬ・・・。山は哲、そして、山は酒なのだ。ピークの向こうにあるビールを目指して、大滑沢の北側にある尾根から、まずは棒立山を目指した。

このルートからの入山は4人にとって初めてだったため、雪庇が気になるヤセ尾根などでは、念には念を入れ積極的にザイルを出す。標高990mの稜線に出てようやく一息ついた。ここまでは予想以上に悪いところが続いていた。これから先は南西へ伸びるゆるやかな尾根を通り、この尾根が途中で北西へと進路を変え、傾斜は再び厳しくなっていく。そして、1270mの高さに達したとき、4人は息を飲んだ。目の前のヤセた尾根とその両脇の急斜面に、幾つもの亀裂が入った雪の層が張り付いている。気が付くと回りは、ひび割れた厚さ2mほどの雪に取り囲まれていた。どうやらブロック雪崩がいつ起きてもおかしくない危険地域に踏み込んだようだ。雪山経験の浅さから雪崩発生の確率はなんとも分からないが、ここをまっすぐに突っ切る以外に登頂への道はないことだけは分かった。

意を決し、Yは雪に衝撃を与えないようにそっと目の前の雪壁を登っていった。3m進み、ピッケルの石突きを刺したそのとき、鈍い音とともに足元の雪面に縦に一本長い亀裂が走った。その瞬間、亀裂の右側の雪塊がドスッと落ちた。

新米アルピニストの気力を萎えさせるのに、十分な一撃だった。長さと幅が10m、厚さが2mはあろうかという巨大な雪の塊が、スピッツェの一突きで真っ二つに割れたのは衝撃だ。実際に、足元から雪崩が起きたわけではなく、僅か数センチずり落ちただけだったが、4人は撤退を決意した。TとYにとっては3度目の、A人とM香にとっては2度目の敗退となった・・・。




翌13日朝。
土樽駅の屋根を雨が叩いていた。

Rainy days and mondays always get me down....

同期のヤナギなら、間違いなくカーペンターズを口ずさんだことだろう。
予報では、天気は回復にむかうはずなので、5時半出発の予定を少し遅らせる。時計の針は6時を過ぎ、6時半を過ぎ、ついに7時まで待ったが雨は上がらない。仕方なく憂鬱な気分のまま出発することにした。

土樽駅前の橋を渡り、魚野川右岸を下流に進む。3つ目の沢を越えたところが、荒沢尾根の取り付きだ。雪はかなり融けていて、斜面は所々地面が見えている。雪のないところは今にも滑りそうで危ない。木の枝などをつかんで慎重に進み、20分ほどで尾根上に出た。ここからは傾斜は緩やかになり雪も消えているが、そのかわり藪がひどい。4人の進路を阻むように、これでもかというぐらい藪が生えている。途中、YとTは、「うーん、マイッタ。藪よ〜、そんなに俺達をイジメナイでくれ〜」とか「金沢さ〜ん、俺が悪かった。もう雪山自主をやりたいなんて二度と言いませんから勘弁して〜!」と支離滅裂に叫び、七転八倒阿鼻叫喚、もだえ苦しむ雪山中毒者地獄の藪漕ぎの図となった。

と、ところが、ひとりA人だけは、どうも様子がおかしいではないか。顔がニコニコしているのだ。まさか藪を楽しんでいるのでは・・・、と思ったそのとき「あ〜、オレ、藪の極意がわかっちゃったんだなぁ〜」というツブヤキが聞こえてきて、TとYは呆然、しかし、M香はそんなA人を頼もしそうにウットリと見つめていたのだった。

さて、目指す荒沢山は標高1303m。1000mを越えたあたりから、尾根上にも雪が出てきた。ところどころ崩れそうな雪庇や、急な雪壁があったが、何とか乗り越え山頂についた。時々晴れ間も見えるほどに回復した天候のもと、4人はガッチリと握手。帰りはカドナミ尾根を下る。途中、足拍子岳への稜線を振り返り、V字に切れ落ちたキレットを見て、来年は藪がウルサクなる前にあそこをやろうと心に決めつつ、土樽へと戻った。


【行程】
4/11 夜21時半、東所沢駅集合。車で土樽駅へ。駅泊。
4/12 土樽〜棒立山〜タカマタギ〜日白山〜土樽
4/13 土樽〜荒沢山〜土樽