ていねいな対応
(山塾通信 91年1月号)
 雪山でテントを張る。雪山のテント生活で大切なことに、「モノを濡らさない」がある。モノを濡らさないための大原則は、雪をテントの中に入れないことだ。
 タワシ、これは雪山テント生活に欠かすことのできない重要な小道具であることは、雪山をめざす君ならだれでも知っている。タワシは衣服やザックや靴に付着した雪を払い落とすに抜群の働きをする。ていねいに素早く、雪という雪を払い落としてテントに入る。風雪下で完全を期すのは難しいことだが、テントに入る最初は、ほとんどの人が合格の状態であるのは事実だ。しかし、それでもテントの中は濡れて来る。ナゼダ。第一は雪を溶かして水を作る。その過程で雪を入れてしまうことが多い。雪はたいていの場合、大きめのビニール袋に詰められて、テント内に持ち込まれるか、出入り口のすぐそば外側に置かれる。
 コンロに火がつけられ、コッヘルがのせられる。ビニール袋からカップで水をすくい、コッヘルへと移すのだが、ここで雪がテント内にこぼれる。コッヘルに満たされた雪は少しでも早く水になってほしいよと、スプーンでしゃかしゃか掻き回すのが常だが、ここでも汁粉状になった雪がはね飛ぶということがよくあるそしてコッヘル周囲の結露、これも床にたれて落ちテント内を濡らす。
 水作りは雪山生活技術の最たるものであるが、ていねいに対応するのといい加減にやるのとでは、テント内を濡らす程度に大きな開きが生じるものだ。
 雪をすくったコップには、必ず受け皿を当てがって雪が床の上に落ちるのを防ぐ。しゃかしゃかは、ごくていねいに。結露はすぐ雑巾で拭きとる。それだけのこと。そうそうそれから、コッヘルをひっくり返すことのないよう、必ず一人は支えるべきを忘れてはならない。
 クライミング技術にどんなに秀でていても、きょうの水作りが満足にできないようでは、あいしたのアタックの成功はさして望めないであろう。
 テントに入って一段落した後、大小の用事で出入りすることも、雪をテント内に入れる要因となる。また最近雪山でテントシューズを使用する人が多いが、防水素材でもないのに、保温に優れているため、そのまま外に出る。本人の足は冷たくないのだが、足裏はりっぱに濡れているのに、意に介することもなくテント内に戻って来る。そのままシュラフに入れば、シュラフも濡らすことになる。防水布袋かビニール袋を履いて外に出るようにすれば、テントシューズを濡らすことはないのに・・・。
 すべからく、ていねいに対応すること。雪山にかぎらず、山にあって、ていねいに対応することは、安全に登り続けるための最も基本的なスタンスなのである。
 
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