縦走路はローマに向かう
(91年2月)
 無雪期における縦走登山は、日本において独自に発展した、大衆登山の形式であると思う。
 アルプスやヒマラヤにだって縦走があるじゃないか、という反論もあるだろうが、アルプスやヒマラヤにおける縦走と、わが国の山岳における縦走とは、まったくその意味を異にする。
 欧米では縦走のことをトラバースという。エベレスト(チョモランマ、サガルマータ)をチベット側から登って、ネパール側に下ればエベレスト・トラバース(縦走)となる。山から山への縦走、例えばエベレストからローツェへの縦走も理論的には可能だが、実際問題としては難しい。難しいこともさることながら、なにもそこまでやらなくったって、過程快感があり達成快感のある課題はヒマラヤやアルプスにはごまんとあるのだ。
 ところで日本。蒲田川側から槍ヶ岳に登って上高地に下っても、だれも縦走とは呼ばない。ウェストンルートから(南稜のこと)から奥穂高岳に登って涸沢に下っても、縦走とは呼ばない。
 わが国において縦走とは、燕岳から槍ヶ岳までの縦走とか、白馬岳から鹿島槍ヶ岳の縦走というように、山から山へと尾根伝いに歩いて行くことを意味する。山が比較的たおやかなわが国では、そうすることが可能だし、そうすることでスケールアップをはかれるのである。三千メートル級の高山ばかりなく、中級山岳でも可能だし、近郊の低山でも縦走は楽しめる。これがロッククライミングとか沢登りだとかになると、技術の習得が要求されるが、縦走(冒頭にも断わってあるが、無雪期の)なら歩くだけでスケールの大きな登山の醍醐味を味わえるのだ。
 表銀座、裏銀座、後立山、奥秩父主脈、丹沢主脈、丹沢表尾根、六甲全山などなど、縦走登山は日本の登山の重要なジャンルとしてその位置を確立したと思う。
 しかし昨今の中高年登山者の増加と、深田百名山のますますの人気の高まりで、縦走のカゲが薄くなっているように感じるのは、ぼく一人だろうか。もちろんピークハントは楽しいし、一泊や二泊で縦走を楽しむ人は少なくない。
 日本は貧しくてなかなか休暇のとれない国ではあるけれど、一昔前に比べれば、多少は改善されたと思う。四泊とか五泊、六泊の大縦走にチャレンジしてみないか。
 そういった大縦走が学生の特権のように考え、サラリーマンの自分には貴重な時間だからもったいないとロッククライミングや沢登りをやった方がトクだとする考えは誤っていると思う。全ての道はローマに通ずというけれど、一週間を費やす大縦走は、かなり太いローマへの直線道路だろう。
 無名山塾では個人の意思ではあるけれど、東日本山脈リレー縦走がいま着々と進展しているところだ。キミも・・・。
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