岩小舎 9
槍〜奥穂〜西穂高岳縦走
平成12年9月15日(金)〜9月17日(日)
長田佳浩
山行山域  北アルプス:槍ヶ岳〜奥穂高岳〜西穂高岳 テント泊縦走
参加メンバー 長田佳浩 高橋幸子

平成12年9月15日(金)天気:晴れ
「随分明るい道だなぁ。」フロントガラス越しに見上げると、光り輝く青い月。安房トンネルを抜けて前夜、新穂高温泉へ入る。
 村営の無料駐車場は3連休をひかえて、ほぼ満車状態。ようやくスペースを見つけて車を止める。しばし仮眠。
 起床5時30分。コンビニで仕入れたお弁当をそそくさと平らげ、準備にかかる。空も明るく天気も上々。新穂高温泉口のバスターミナルにてトイレと給水。指導所に登山届を出して、さぁ出発。時間は6時30分。
 ロープウェイの下をくぐって、蒲田川沿いの林道へ。何組かの登山者を追い越して快調な滑り出し。指導標に従い、樹林の中の近道をとおって穂高平へ。避難小屋あたりでひと休みをしている登山者を横目に、ひたすら歩く。このあたりは放牧場になっているらしく、牛の親子がのんびりと草をはんでいる。秋とは思えぬ強い陽射しに目を細めながら、急坂を登り、しばし行くと白出小屋。ここでも休憩をせずに白出沢の河原に出る。いくつかの谷を渡って滝谷出合へ。滝谷の岩壁が姿を現す。「あれがドームの岩峰。」と意外に明るい谷の奥先に、しばし我を忘れて見入ってしまった。ここでようやく休憩とする。時間は8時35分。
 「あった、あった。」藤木九三氏のレリーフを発見。そういえば谷川岳に計画中の吉尾弘氏のレリーフ設置問題はどうなったのかな?そのうち山は登山家のレリーフだらけになるのかも。なんて思いを巡らせながら先を急ぐ。
 開けたところが槍平。9時20分到着。キャンプ場の水場でのどを潤す。見渡せば、色づきかけた木々の黄葉。秋の気配を感じる。中ノ沢、大喰沢を越え、大きく視界の開けた飛騨沢へ。
 左手に中崎尾根、後方には抜戸岳、どっしり構える笠ケ岳。しかし、槍の穂先はまだ見えぬ。ガレの急登をあえぎ、あえぎ、登りつつ、まだか、まだかでやっと乗越。時間12時ちょうど。
 眼前に広がるアルプスの山々。前穂の北尾根もくっきりと見える。そして大槍の巨大な姿。槍をバックに写真をとって「さぁ、あと少し。」と槍ヶ岳山荘へ。
 テント場を整地してテントを張る。今晩からは天気が崩れるとの予報に備えて、大きな石に張り綱をしっかりと巻きつける。(余談:この時点では、テント場は空いているところのほうが多かったのだが、15時頃には場所が足りなくなってしまい、ゴミ焼却場の裏手にまでテントを張ってるパーティーがあった。なんと、5,6人で同じグループなのに、全員ひとりひとりのテント、で個々人で食事。歩くときだけ一緒というパーティーが何組かいた。しかも、単独行の人も意外と多いようで、ひとつのテント場に1人でテントという状態。だからテント場が足りなくなってしまったのだ。「うーん、これも最近の人間関係の難しさを反映しているのかもしれないなぁ。」と、ひとり納得。)
 とりあえず、時間も早いことだし、と空身で槍ヶ岳へ。山荘から見る槍の穂先は威圧的でさえあったが、しっかり整備されている鎖場、梯子を登ってなんなく頂上へ。13時30分。記念撮影に余念のない、おばちゃん、おじちゃんをしり目に「ちょっとごめんなさいよ。」とばかり北鎌尾根を遠望偵察。来年はなんとかこっちから、と立ち上がると、彼方に剣岳がかすんで見えた。
 夕食はジフィーズのお気に入り「中華丼」とフカヒレスープ。それにナスの乾燥漬物。軽量化に気を使って、今回の食事はすべてジフィーズ。味は期待してなかったけれど、山で食べる食事は何でもうまい!十分満足。
 ラジオで天気予報を確認。期待むなしく天気は悪化するとのこと。そういえばテントを叩く風が強くなってきた。心配しても始まらない。とにかく明日の状況をみて判断することに。就寝21時頃。

平成12年9月16日(土)天気:雨ときどき暴風雨たまに曇り
 雨、風ともに強く、よく寝られないままに起床4時。とにかく明るくなってからと、朝食の準備ををしながら今日の行動について思案。
 「ともかく、いけるとこまで行ってみるべ!」と出発7時30分(遅い!でも雨が降ってたんだもん。)大喰岳から中岳を経由して南岳へ。緩やかな丘陵を降りると南岳小屋。時間は9時。トイレ休憩をして、いざ大キレットへ。急なガラ場を降り、長い梯子を伝いキレットの底部へ。ガスで視界がきかない。長谷川ピーク。登り返しの地点でなんと草野講師のパーティーと遭遇。一行は遠足倶楽部のインストラクター5人を含め6人の編成。来年に計画している講習会の偵察山行とのこと。小屋泊まりながらも我が隊と同行程にて、互いの健闘と安全をエールしあい、先行させてもらう。 馬の背からA沢のコルへ。とにかく、雨風に耐えることで精一杯。やせたもろい岩稜帯も、ただ「一刻も早く穂高岳山荘へ!」との思いに恐怖感もへったくれも無し。“飛騨泣き”なんてどこにあったの?と北穂小屋に到着は11時45分。小屋の中にて暖かいコーヒーを飲みながら、ゆっくり休憩。
 草野隊の到着を見計らって出発。松濤岩のコルへ降りて南峰の頂稜へ。この雨の中、ドームの垂壁にへばりつく人影がチラホラ見える。C沢源頭にて滝谷クライマーと挨拶を交わし、涸沢のコルへ。連続する鎖場、梯子に助けられながらも難所と呼ばれるにはあまりにもあっけなく、穂高岳山荘に着いたのは13時40分。
 そういえばこの小屋、春に来たときは、まだ半分雪に埋まってたっけ。と感慨少々。テントを張り終え、濡れた衣服を小屋のストーブで乾かしながら、草野隊の到着を待つ。
 1時間ほどして草野隊到着。行動予定を確認するも、草野隊は「是が非でも西穂を目指す!」とのこと。天気予報では、明日後半から天気は回復。「よし、我々も行くべ!」と決断。明日に備えて早々に就寝、20時30分頃。

平成12年9月17日(日)天気:雨ときどき暴風雨のち曇り、遅くに晴れ
 本日も雨と風。なかなかシェラフから出られない。昨日の話では草野隊は5時出発とのこと。気がつくとなんと6時前。意を決して準備にかかる。テントをたたんで出発したのは6時50分。
 奥穂山頂を経由して馬の背へ。風が強くて、さすがにビビル。ガスで切れ落ちた先がよく見えないのが、せめてもの救い。風、雨時折強く、めがねが全くたたない。めがねを外して、0.1を下回る裸眼にて行動。「矢印が見えない!」手探りの状態で、“ロバの耳、ジャンダルム、コブ尾根の頭”。登路が不明瞭で少し迷いながらも、コンパスと感を頼りに南下する。とにかく抜けたい一心で、いっきに登る、かけ下る。
 “天狗のコル”到着9時20分。少し休憩。天狗の頭を登り切り、今回の行程で一番怖かった“褐色の逆層スラブ”。50mの鎖を頼りに“間天のコル”まで降りるのだが、雨でつるつるのスタンスに、濡れて滑る長〜い鎖。「ザイルを出して懸垂下降すれば、別にどってことなかったのに。」とは後日談。そうそう、間ノ岳の登りの途中、先行する2人組のパーティーに、20インチのテレビぐらいある岩を落とされた。無意識に岩を抱え、うっちゃりをかわして難を逃れる。しかし、「しまった、下には高橋がいる。」「らーくっ」の叫び声も間に合わないか?と思ったら、のんびり岩角を登って来る姿が。離れすぎていたのが幸いして、高橋も無事。間ノ岳山頂にてしきりにあやまるパーティーに「大丈夫です。お互い気をつけましょう。」と挨拶を交わし、これ幸いと先行させてもらう。
 先のピークに見慣れた蛍光色。草野隊を発見。手を振り合って無事を確認。いくつかのピークを越え、西穂高岳ひとつ手前のピークにて追いつく。ここでも先行させてもらい西穂の山頂へ。到着11時50分。草野隊の到着を待って記念撮影。しかし、雨風止まず。辺りはガスに包まれて、ちゃんと写っているかどうか少々心配。 ここまでくれば、あとは楽勝とばかり、一気にかけ下る。2年前はあれほど凄いと思った独標も、いまでは単なる通過点。
 西穂山荘に着いたのは13時10分。完走を祝い、ビールで乾杯。しばし休憩した後、ロープウエイの西穂口へ。到着14時30分。大勢の観光客と一緒にロープウエイに乗って下山。途中ようやく雨が止み、晴れ間がのぞきだす。
 新穂高温泉口到着。井上靖氏の小説「氷壁」にも出てくる、対岸の中崎山荘にて3日間の汗を流す。入浴料500円。
 自分たち以外誰もいない貸し切り状態。白濁した硫黄泉、檜の内風呂、大岩の露天風呂。冷えたトマトを囓り、(流れる冷水にいくつも浸してあって、ただで食べられる。)蒲田川のせせらぎを聞きながら、今回の山行を思い返す。雨と風と落石の記憶のみが大きく、「槍、西穂を完走した!」という感動はあまりない。ただひたすらの我慢大会だった。「天気のいいときにもう一度挑戦したい。」そう誓う私であった。
 
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