岩小舎 9
北ア・朝日岳スキー登山
平成12年4月15日(土)前夜発〜17日(月)
宮下裕史
日 程 平成12年4月15日(土)前夜発〜17日(月)
参加者 宮下裕史(L)、岩本一郎(天気、ルート)、幡鎌亮一(装備)、金澤和則(Ad.)
行 程 第1日(4/15) 白馬駅(5:35〜6:30)栂池高原スキー場(6:45〜8:
    15)ゴンドラ終点 (9:27〜9:58)天狗原(11:13〜11:25)蓮華温泉(13:00)泊  
    第2日(4/16) 蓮華温泉 (6:00)瀬戸川(渡渉地点)(7:50〜8:00)
    2,100m地点(12:40〜12:45)瀬戸川(渡渉地点)(14.30〜14:50)蓮華温泉(16:15) 泊
    第3日(4/17) 蓮華温泉(7:30) 角小屋峠(9:30) 木地屋(11:40)
装 備 (個人)ビーコン、ツエルト、ロープ(5mm×5M)、行動食、コッフェル
     (ボンベ、バーナー)ほか一般スキー登山装備
    (共同)スコップ、トランシーバ2、ケイタイ、ロープ(9mm×30M)、救急用品、補修用具

(第1日)白馬駅からタクシーで栂池高原スキー場へ。「3月の大雪でまだ3.5メートルもある」(蓮華温泉・田原氏)と聞いていたが、4月半ばなのに沿道は雪に埋まっている。「先月20日から降ってない」という運転手の言葉が救いだが、駅前で温度計は10度を示していた。雪崩注意報こそ出ていないが、天気は下り坂、雨が心配。この山行は雪崩とルーファンがポイント、雨や大雪がないことを祈る。
 栂池高原スキー場のゴンドラ乗り場は早朝で閑散としていた。昨年は駐車場だった空地に温泉会館が建っている。白馬大池回りの山塾・蓮華温泉隊と再会、急に賑やかになる。
 ゴンドラから見下ろすスキー場に人影は無いが、最下部まで雪に覆われ、絶好の滑降コンデションに見える。「ここを滑っている方がいいのかなあ」どんよりと重苦しい空模様に、明日の強行軍を思うと気勢も上がらず、冗談とも本音ともつかない言葉が飛び出す。20分ほどで標高1,575mの頂上駅着。林道まで歩くという蓮華隊と別れて最後のリフトに乗る。頂上リフトは2本あり、尾根の風下側(南側)の1本は大抵動いている。終点から北(350°方位)に向かって滑り、ゲレンデを突っ切ると林道入り口に着く。ここでシールをつける。今日は蓮華温泉までという気楽さで準備もゆっくり。後続のパーティを見送り、高度計を1,670mに合わせて出発。
 成城小屋までは標高差100mほどのなだらかな登り。のんびり行くと、前方に林道を目指して斜面を登るスノーシュー隊(竹中、松本、久保)の姿が見える。成城小屋で少憩。視界がひらけ、正面に天狗原直下のカール状大斜面が広がっている。上部は30度近い斜面で雪崩の危険地帯。スノーシュー隊に入り込まないように言い残して出発。本日一番のきつい斜面を登りきると標高2,100mで傾斜の緩い広い雪原にでる。雪で視界も悪く迷いやすい。ここで340°にコンパスを合わせて直進すれば迷わずに天狗原の石祠の前に着く。先行パーティーは西方(280°)へ直進していたから未だだ。スローペースできたが、ここで先頭になった。メンバーが揃うとリーダーは楽ということ。天狗原にしては風が弱く、シール外しの作業もスムースにいく。
 天狗原は広い平坦地で迷いやすい。祠から340°方向に進み、400mほど先で15°方向へ回りこむと登り返さずに振子沢の頭に立つ。先行跡がなく何びとの侵入をも拒むかのような静かな斜面が広がる。意を決して飛び込むと20cmほどの厚さで表層雪が剥がれた。しかし、足許だけで周囲に及ばない。ここの弱層は変態が進み、引っ張り応力が強まっている。その下層も長時間を経た締り雪。この状態なら雪崩の心配はない。下りきって一休みする。後続のスノーシュー隊が来ない。風吹大池ルートに迷い込んだ?心配して待つこと30分、ようやく姿を見せた。スキー隊が遅れたようだ。それにしてもスノーシューでは振子沢やウド沢の片斜面歩行で難儀すると心配したが、簡単に踏破した3人は誠に立派。今年は雪が多く沢床を歩ける幸運があったとしても「実力あってこそ」である。標高1,680m地点で中ノ沢へトラバース、最後に乗鞍沢を渡れば蓮華温泉ロッジだ。15時20分着。

(第二日)前夜に用意して貰った握り飯の朝食を済ませ、6時出発。曇りで雪もチラホラ。田原さんは「今日は回復傾向」といってくれたが、岩本さんの天気図では、きのう天気を崩した低気圧は北に抜けるものの、別に小さい低気圧が日本海にあり、これが気がかりだ。昨日からの新雪でトレースが消えている。1,450m高度ラインを辿る。急な右下がり斜面をトラバースするラッセルに先頭を行く岩本、幡鎌両氏が苦戦する。兵馬の平に続く尾根上に出るだけでかなり消耗する。この尾根は例年は滑りすぎる斜面なのに、潜ってスキー操作に苦労する。兵馬の平から最低鞍部を乗っ越して、長い急斜面を滑降する。瀬戸川渡渉点着7:50分、計算より30分程度遅れた。
 今年は瀬戸川にしっかりしたスノーブリッジが残り問題なく渉れた。一本立てて弱層テスト。15cmほどに顕著なぬれザラメ層があった。しかし、その下層はいくら掘っても純白の締り雪で弱層は出てこない。「雪崩れるならこの部分。巻きこまれても深くは埋没しない」ことを金澤さんと確認。ここから朝日岳までは高度差約1,300mのシール登高になる。正面の尾根を右に回りこんで越え白高地沢に出る。右岸沿いに、五輪尾根の壁を右に見ながらスキーを進める。上部はガスで全く展望はない。出来るだけ安全に尾根に近くしかもアップダウンを少なく…雪崩を警戒しながらのルートどりに神経を使う。標高1,400m辺りで雪が強まる。1,900mを越えるとガスが濃くなり樹林、露岩などがすべて消えた。コンパスに頼って進むが、完全なホワイトアウトで方向がずれる。帰路の滑降を考えるとこれ以上進むのは危険と全員の意見が一致し、2,100m地点で終了とした。来年また目指せばいい。それにしてもメンバーの足並みが揃っていたからこそ、ここまで来られた。感謝。ホワイトアウトの中、立ってるか転んでるか分からない山酔い状態で必死に滑り降りる。1,500mで漸くガスが切れはじめ脳神経も正常に戻る。開けた視界に五輪尾根の壁に残る何箇所もの雪崩跡が飛び込んできて緊張する。しかし、予想した通りの薄い表層雪崩だった。納得し安心する。トップで滑走中、突然2〜3メートルのギャップに落ち込む。自身ではよくあることだが、一瞬視界から消えて、後続のメンバー諸氏を驚かせた。
 瀬戸川渡渉点からは高度差400mの登り返し。前半頑張ってくれた岩本、幡鎌氏に疲れがみえるが気力を振り絞って最後の体力勝負に挑んでいる。朝日岳ルートは実にタフであった。ロッジ着16:15分。

(第三日)3日目でやっと快晴。新雪がまた15cmほど積み上がった。ヤッホー平に滑りこみ、シールを着けて林道合流点を目指す。左に、まぶしいほど鮮やかな雪倉、朝日の峰々が連なり、岩塊や樹林の1つ1つが識別できる。「昨日はあそこまで登ったんだ…」厳しかった行動を思い返しながらゆっくりとシャッタータイムをとった。今年は終始深雪に悩まされた。今日もスタートから汗だくのラッセル。しかし通いなれたルートに「快晴」が加われば、身体はきつくても気持ちは穏やか、満足の山になった。それもメンバーに恵まれてのこと、お世辞でなく仲間の皆んなに感謝している。
 木地屋に着くと「リーダー」を放棄、岩本さんに温泉送迎車の手配を任せて恒例のふきのとう刈り。多雪のおかげで今年は蕾状の、状態のいいものがたっぷり採れた。幸せ。貸切の姫川温泉白葉荘で汗を流し、たらふくビール、これまた幸せ。終わり良ければ全て良しでこの山行は終わった。
 
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