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岩小舎 9 |
水無川流域の沢登り |
平成12年5月、6月 |
悉知 藤也 |
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【1】
日 時:平成12年5月13〜同月14日
場 所:表丹沢水無川流域の沢登り
リーダー:悉知(藤)
メンバー:幡鎌、佐々木、長田、高橋、悉知(雅)
予定コース:1日目一新茅ノ沢(遡行)〜烏尾山〜戸沢右俣(下り)〜戸沢
2日目一水無川本谷(遡行)〜塔ノ岳〜大倉尾根〜天神尾根〜戸沢
第1日目 雨時々大雨
朝9:30雨の中、新茅ノ沢を登りだす。メンバーは、いつもの18期秋生5人に強カスケットの幡鎌さんを加えた6名である。装備は、登攀道具と30mザイル2本と2Omザイル1本である。5月とはいえ雨が降っているので肌寒い、沢の水もまだまだ冷たく、濡れたくないなァ〜と思いながらF1に取り付く。このメンバーならばザイルは必要ないと思ったが、今年始めての沢登り、何かあったらと考えザイルを出す。ザイルをフィックスし全員ブルージックで登る。この一年ロッククライミングで岩登りを習ってきただけあって、皆安定している。F2,F3,F4をなんなく越えて行く。新緑の中に紫色の山ツツジや白い小さな花びらをつけている山桜が可憐で美しいコケ類もみずみずしく生を謳歌しているようだ。これだから沢は止められない。
いよいよ、F5の大棚の取り付きに着く。本日一番の滝登りである。去年ここをトップロープで登っている自分がリードすることにした。水が冷たい濡れたくないが、そんなこと言っている余裕はない。必死でガバを探す。手掛かりがどこにも無い。滝の中を探していると手がかじかんで来てしまったまずい手がゆうことを利かない。スリングがなかなかハーケンの穴に入らない。やっとの思いでヌンチャクをかけホッとする。そんなこんなで乗っ越しまで登る。あと一歩、しかし、この壁には手掛かりが全く無いアンダープッシュを試してみるが怖くて左足が離れない。駄目だ進退極まった。このままここに居ても、落ちてしまう。一か八かで、かじかんだ右手に全体重を預ける。もちこたえられなければ落ちる。頼む!落ちたくない!の一心で体を上げた。ヤッター!越えた。下では心配していた仲間達がヤッターヤッターと喜んでいる。落ちなくて良かった。「ビレー解除」皆にエールを送る。早速上流の立木でビレーの用意をする。
立木にスリングを巻き、カラビナを付け。インクノットでザイルをフィックスする。万一のため、末端をエイトノットにしこのカラビナに入れておく。この時、直接エイトノットでザイルをフィックスすると、後で解くのが大変になるためである。フィックスしたザイルを滝の落口まで延ばし、自己確保する。できるだけ下が見える場所で、ボディービレーする。この時、急に大雨になる。雨具を着ていないので、ズブ濡れになりながらビレーをする。セカンドはおたんこナースの幸ちゃん、なんなくクリアー。雨は激しくなるばかり、寒くてしょうがない。続いて、ブルドザー佐々木こと佐々木さん、力まかせにクリアー。登る不動産屋の長田さん、雅美、幡鎌さん全員無事クリアー。大雨の中、皆で健闘をたたえ合った。皆、怖かったけれど、満足そうである。この大棚で時間を掛け過ぎたので、先を急ぐ。小滝とゴーロを次々と越え、快調に高度を上げる。去年チョクストーンがあった大岩は崩れ無くなっていた。水も涸れ、もうすぐ頂上と思わすガラが続く。崩落が激しく、岩がグズグズで落とさないよう神経を使う。登り詰めると、烏尾山に出た。頂上到着13:30、約4時間の遡行であった。雨の中、昼食を取る。 下降は、戸沢の右俣である。戸沢の右俣を登ったことがある幡鎌さんによると、しっかりした踏み跡が有るとのこと。新茅ノ沢と戸沢右俣の間にある尾根道を捜し出し下る。足元は、粘土状でツルツル、回りは笹藪で何も見えない、たまにイバラの木があり無意識にこれを握ってしまい「痛い」と思わず叫んでしまった。後ろでも「痛い!痛い!」の叫び声。笑いながら下っていると足元がズル、思わずつかんだ木がイバラ。「痛!」。目から火が出るほど痛かった。どうしてイバラは、掴まりたいところに意地悪くはえているんだろう。「痛い!」また、後ろで誰かがイバラを掴んだようだ。この地獄の尾根道を200m程下り。沢に降りるため右の藪に入っていくと、今度はガラガラ石の急坂。上から雨のように石が落ちてきて、危なくてしょうがない。石を落とすなと言っても無理。一歩動く度に石が落ちて行く。石でスタンディング・グリセードができる程、ガラガラな坂を下って行く。この危険な坂を300m程下ったところで、戸沢の右俣に降り立つ。全員ホッとする沢の下降は快適で、4回の懸垂で戸沢出合いまで降りてしまった。戸沢到着は、15:30約2時間の下降であった。雨は、相変わらず降っていたが、皆、充実感で満足満足。ここから、10分程林道を下れば駐車場である。頭の中は、もうお風呂のことで一杯だった。皆も「お風呂だ。お風呂だ。」と口々に喚いている。雨の中、全員無事で良かった。明日も皆、ガンバロウ。
第2日目 快晴のち曇り
昨日の雨はすっかり上がった。空には雲一つ無い快晴。今日は絶好の沢登りデイ。朝7:30水無川本谷に向け戸沢を後にする。メンバーは、昨日と同じ。皆、意気揚々としている。まず、本谷山荘を目指す。山荘の右側の川は、源治郎沢。この沢を越えた次の川が本谷である。堰堤を2カ所越え入渓する。本谷には下流よりセドの沢、沖ノ源治郎沢、木ノ又大日沢、金冷シ沢の4本が合流している。また、滝にはF1〜F8まで全て看板が付いているいたれりつくせりの沢である。F1は左に鎖が付いているのでこれを利用する。F1を越えると右からセドの沢が合流している。看板があるので間違いようがない。F2をなんなく越え、F3に向かう。F3は左に鎖が付いているが、せっかくだから直登する。ここは、登る不動産屋の長田さんがリードする。
乗越の岩の上に枯葉が積もっていて滑り易そうだ。無事登る。ザイルをフィックスしブルージックで登る。おたんこナースの幸ちゃんが登りだした。快調に登って行く、すぐ後を追う。さあ、最後の乗越し、突然、幸ちゃんの姿が消える。「落ちた!」の怒鳴り声。それに続く「キャー」の悲鳴。下を見ると幸ちゃんがブラ下がっていた。「大丈夫か?」と声をかけると、笑いながら「滑っちゃったー」の回答。皆、ホッとする。どこも打付けていないようだ。良かった。「幸ちゃん、こんな所で落ちないでヨ。」沢登りでは、これがあるから、万一のことを考えておくことが大切である。ともあれ立ち直りの早い幸ちゃんは、ニコニコしながらF3を越える。これをがきっかけになったのか。プッツンきたらしい幸ちゃんは、この後の滝は全て水線通し。頭から水をかぶりながら登って行く。冷たそう〜。見ているこっちの方が寒くなってしまった。F5では、幡鎌さんが鎖の登り方を披露。スリングを2本、掛け替えながら登って行く。これならば、必ず1本が鎖に掛かっているので、落ちても安心である。皆、掛け替えしながらF5を登る。F5の先は、視界が開け。パーッとした感じである。
そこを書策新道が横切り右岸より沖ノ源治郎が流れ込んでいる。ここから10分程登ったところで沢が二股になった。自分は、これが沖ノ源治郎だと思い込んでいたので、自信たっぷり「右が本谷だ!」と主張した。この時、幡鎌さんの「方角はどっち」の問いに対しても、地図を出そうともしなかった。頭から左の沢は沖ノ源治郎と決めてかかっていたので、地図を出すまでも無いと考えていた。これが大いなる失敗。かくして、我々は木ノ又大日沢を本谷と思い込み、遡行することとなった。バカなリーダーのメンバーは大変であることの証明である。さてさて、我々一同は遡行を開始する。登れども登れどもF6が現われて来ない。皆、「崩落で埋ってしまったのかナ〜」
などと話しながら遡行を続ける。そのうち沢は、涸沢になる。ひどいガレを滑りながら登って行くと笹藪となった。藪漕ぎしながら鹿道を登って行くと大倉尾根に出た。ガレと藪と鹿のフンから解放された我々は、ここでホッと一息、互いの健闘を称え合う。11:40塔ノ岳到着。ガチャ類を外し、昼食を取る。12:10大倉尾根を下る。下りは、天神尾根である。花立を500m下った左側に天神尾根の看板があり、これに従う。天神尾根は、急坂で滑り易いので慎重に下った。終点は、戸沢の本谷山荘の前である。
13:40到着。皆、初めて水無川本谷が遡行できて嬉しそうである。実は、我々が登ったのは、木ノ又大日沢であったことなど、思いもよらずに。この二日間、何と充実していたことか。何も可も忘れ、自然の中にどっぷり漬かっていられたことは、無上の喜びであった。この喜びを分かち合えたメンバーの皆ありがとう。そして、ごめんなさい。今度は、間違わないから、又行こう。
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【2】
日 時:平成12年6月10〜同月11日
場 所:表丹沢水無川流域の沢登り
リーダー:悉知(藤)
メンバー:幡鎌、松本、長田、高橋、悉知(雅)
予定コース:1日目一セドノ沢右俣(遡行)〜書策新道(下り)〜戸沢
2日目−セドノ沢左俣(遡行)〜表尾根〜戸沢左俣(下り)〜戸沢
第1日目 曇り
朝9:00戸沢のキャンプ場を出発する。装備は、登禦道具と45mザイル2本と3Omザイル2本である。セドノ沢右俣は、中級で2段35mの大滝が有名である。今回この大滝を直登することが目的である。
私達一行は、前回登った水無川本谷を目指す。本谷のF1を左から鎖を使って登る。登りきった左岸(上流に向かって右側)から流れ込んできている沢がセドノ沢である。看板があるので、間違えることは無い。F1は右側から登る。取り付きまで滝壺の縁を膝上まで濡れながら渡る。滝は、コケが付いていて滑り易すそうだが、快適に登ることができる。沢は広く明るいので気持ちが良い。F2をなんなく越え登っていくと二俣になる。上流に向かって右の沢が右俣である。ここにも看板があるので、間違えることは無い。しばらく進み、F5(3級)ではザイルを出しフィックスで直登する。
このメンバーにとってこのクラスの登りは安心だ。全員なんなくクリアーする。しばらく、ゴーロを快適に登って行くと、またまた1:1の二俣になる。遡行図では、左がF6の大滝になっているが、どうも変である。皆と相談した結果、右の沢を偵察することにした。5分ほど登って行くと、奥に大きな滝が見えた。「あれだ!大滝だ」。
皆に右が正解であることを知らせる。地図に頼っていたら、また、間違えるところだった。危ない危ない。また、皆を名も無き支流に連れ込むところだった。ホットしながら全員大滝の取り付きに到着する。さすがにでかい。
ここは、二人ずつ3チームに分けて登ることにした。まず、自分が左側のフェイスをリードする。けっこうガバがあり簡単にテラスまで登る。ここから、上のフェィスは右側が傾斜がきつく左側が緩い。左側は、ちょっと易しそうなので右側を登ることにした。2mの所でヌンチャクを掛け、次のハーケンを捜すが、かなり遠い。新しい沢グツだし大丈夫だろうと思って登って行く。テラスより5m程、上がった辺りで手掛かりが無くなった。不安定な態勢で右左のホールドになりそうな岩やクラックを探したが全く手掛かりが無い。そんなこんなしているうちに、左足がズルッと来た。その瞬間、岩から手が離れ、まるでスロ−モーションを見ているようにーコマーコマ岩から体が離れて行く。「落ちる〜]次の瞬間、お尻に激痛が走った。ア〜痛い。やっちゃったョ!落ちた場所がテラスの上だったので、それで済んだ。下では皆が心配している。「痛いけど平気だョ〜」と皆に答え、左側の傾斜の緩いフェースを登る。やはり、気が動揺していたためか、支点の取り方が目茶苦茶になり、なかなかザイルが上がってこない。立ち木近くのフェィスでは、体がザイルに引っ張られるので緊張した。腰でザイルを引っ張りながら、やっとの思いで立ち木まで登った。ここまで、使ったヌンチャクは14本、使い過ぎである。4級のグレードだったが、落ちたことで必要の無い所でも支点を取ってしまったためである。このルートにはハーケンが随所にあるので冷静であれば、こんなにヌンチャクを使う必要はない。支点を取り過ぎるとザイルがなかなか上がらず、非常に危険になることが体験できた。この立ち木で、長田さんをビレーする。ザイルが重いので閉口した。
その後、松本&高橋チームが登ってくる。我々は、滝の落ち口に行く踏み跡を探すがどこにも無い。しっかりした巻き道はあるが、それを行っては直登にならない。ビレ−に使った立木の一段上のテラスから滝に向かってトラバースすることにした。下では、幡鎌さんが雅美をビレーしているので、石を落さないようにトラバースする。出だしは、岩が飛び出ているので、なかなか難しい。誰も歩いた様子も無く、先がどうなっているのかも全く解らないが、ここしか行きようがなかった。雑木林を進んで行くと、落ち口の上に出た。ここをテンションで降り、落ち口に立つ。目の前にはF7の10mの滝がある。ジメジメしていて、あまり気持ちの良い場所ではない。このトラバースは、あまりお勧めできない。直登にこだわらなければ立ち本より巻いたほうが良いと思う。
F7は、右から登れるが、ヌルヌルしているので注意する。F7から上は単純な沢となり30分ぐらいで沢が無くなった。また、支流に入ってしまったようだ。20分程ヤブを掻き分け、ズルズルのガレを登りつめると書策小屋より20m下の表尾根に出た。
書策小屋で昼食を取る。書策小屋到着は、14:30。5時間半の遡行だった。下りは、書策新道を1時間で戸沢まで降りる。戸沢に16:00に到着、早速テントを張り、大倉のドングリ山荘の風呂に行く。お尻は痛いが、なかなかの沢だったので満足満足。
第2日目 雨
朝から雨が降っている。雨が降るから沢に来ているのだから雨で普通なのだが、できれば晴れて欲しかった。贅沢か。本日、遡行するセドノ沢左俣はF5の大滝13mが核心である。下りには戸沢の左俣を下る、旨く沢に降りれるかルートファィンディング次第、ちょっと心配だ。幡鎌さんと長田さんが調子が悪く、キャンセルしたため、残り4名で遡行することにした。道具は、登葉用具と30m及び20mのザイル各1本である。朝8:00戸沢を出発する。昨日と同じルートで左俣の分岐まで登る。F3の6m.F4の5mの滝を難なく登る。この沢は、右俣よりも幅が広く天井が高く美しい。雨のためか、水量も多く、滝壺の透明度も高い。飛び込んでみたくなるような滝壺が随所にある。ザィルを出すような所も無く、F5の大滝の取り付きに着く。ここでザイルを出す。大滝は水線通りに直登し途中からクラックを使って登る。クラックのところは、滑るのでヒヤッとした。リードで落ちるのは、もうご勘弁。それでなくてもお尻が痛いのに。大滝を全員軽快にこなし、上を目指す。20分ぐらいで三俣になる。幅は、3本とも同じ大きさである。セドノ沢左俣は、真中の沢である。しばらく登るとF7の8mの滝が現われる。皆唖然。ピンが一本も無い。「どこから登るの!」皆で捜したが、どこからも登れない。松本さんが、右側に登れそうな草付きの壁を発見する。ここからなら登れそうなので、松本さんがリードで登る。5mぐらい登った所で支点を発見、このルートで間違いなかったと、皆、ホットする。このルートは、ホールドも多く岩もしっかりしているので、快適なクライミングができる。その後、簡単な滝を幾つか越えて行くと、書策新道とクロスする。左側に白糸の滝があるが、取り立てて美しい滝では無い。こんな滝に「白糸の滝」などと看板を付けた人の気が知れない。見る価値無し。ここから上は、水量が少なくなる。同じ幅の支流が何本も出てくるので、地図を広げ、皆で検討しながら進む。そのうち涸沢になる。10m前後の涸滝が何本も現われるが、コケが無くホールドもしっかりしているので、安心して快適なクライミングが楽しめた。稜線も間近なのに、セドノ沢右俣のようなガレや藪がほとんど無く、アレ〜って感じで表尾根に出た。ここは、新大日小屋より200mほど上になる。新大日小屋に11:40到着。3時間30分の遡行であった。ここで、昼食を取る。
下りは、戸沢の左俣に入るため、政治郎尾根を下る。地図では、標高1,100mから1,000mの間で左側に降りると入渓できるようである。幸ちゃんの高度計を頼りに尾根を下って行き、1,030mの地点より左側の急な松林を降りる。転びながら笹藪の急坂を抜けると、戸沢支流に出た。ルートファイディングが見事に当たった。一番良い所に出た。皆、お尻真っ黒、泥だらけ。思ったより早く沢に出られたのでホットする。傾斜の緩い支流を下っていくと、段々沢らしくなって来た。2本のザイルで懸垂下降を繰り返す。沢が広く水も綺麗なので気持ちが良い。20分程下り、戸沢の左俣本流に出た。ちょうど大棚の下10mの所だった。この大棚は、たぶん水無川水域で最も美しく難しい滝だと思う。高さは、約25m逆層のハングでピンが1本も無い。水量も多く、人工登攀でも無理かもしれない。「我こそは!」と思う人は挑戦して欲しい。ここで、お尻の泥を洗い流し下って行く。この沢はセドノ左俣よりも綺麗である。岩もしっかりしているし、滝壺も結構深く、落ちても安全な沢である。雨のせいか水量も多く、言うこと無しの沢である。しばらく下って行くと、伏流水になり200m下からまた水が出ている。右俣と合流し14:00戸沢に到着。キャンプ場のすぐ上なのでここで靴や靴下を洗う。雨ではあったが、沢が綺麗で面白かったので皆、満足満足。私は、ルートを間違えなかったことと、ルートファインディングが旨くいったことで満足。今回参加できなかった、幡鎌さんや長田さんは、残念だった。この2本の沢は、価値ある沢だから、ぜひ、皆には登って欲しい。
以 上
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