岩小舎 9
確保器の特性と危険性についての私感
9月
◆確保器の特性
 ビレイ用の確保器。色々ある。エイト環は勿論、プレート型やATC等のバケツ型。最近は山塾でもATC等を使う様になってきたが、果たしてそれら確保器の特性や「欠点」をきちんと理解して使っているのか、疑問に思う部分があったので読んで欲しい。
 ここではおそらく山塾内でよく使われているだろう、エイト環とバケツ型(以下ATCに統一)について比べて見る。両方共、落下時のロープの流れを摩擦を利用して止める原理は同じだが、摩擦のかかり方が違う。
 エイト環は、ザイルが8の字の首(くびれた部分)に巻き付く形で摩擦がかかる。一方ATCは、ザイルをかけたカラビナと器具の「ふち」で、ザイルがZ 型に屈曲する事により摩擦がかかる。
 もう一つの特徴として、どちらの器具もザイルを開いた状態、つまり確保側とクライマー側(=入る方と出て行く方)のザイルの角度が180°に近ければ流れは止まり、0°に近づくとザイルは流れる。それはおそらく体験的に理解していると思う。

◆確保器の危険性とは・・・
 そしてここからが本題だが、もし読者がエイト環とATCの両方を持っていたら、確保の形にザイルをセットして見てほしい。
 まずエイト環にセットしたザイルは、前述の様に8の字の首にかかっていて、ザイルを180°に開いても0°に閉じてもそれは変わらない。ではATCはどうだろう。ATCを持っている読者は、ここで一つの事実に気が付くはずだ。そう、ATCにセットしたザイルは、180°に開いた状態では、カラビナと「ふち」でZ 型に屈曲しているが、0°に閉じると、ザイルは「ふち」に当たらず、カラビナだけで折り返した形になる。これはどういう状態かというと、「確保器が無いのと同じ」なのである。
 この状態で突然クライマーが墜落したら、果たしてビレイヤーはそれを止められるのだろうか。ベテランならばグリップビレイができるだろうが、山塾の生徒は一瞬のその判断ができるだろうか・・。

◆「知らなかった」では済まされない事もある。
 なぜこの様な文を書いたかというと、実は以前から、こうした確保器の特性を理解できているとは思えないビレイをよく目にしていたからだ。
 例えば日和田・男岩の下。リードでもトップロープでも木にセルフビレイを取って確保している。ボディビレイかダイレクト(支点)ビレイかは状況などにより判断されるが、特にダイレクトビレイでATCを使っている人に注意。最初は木にもたれているが、だんだん前に出て行き、ATCより前になってしまう。なぜかというと、やってみれば判るが
、確保器の前にいる方がザイルの操作が楽だからである。
 男岩の上のテラスでもしかり。支点に流動分散でセルフビレイを取る。ここまでは正解。しかし流動分散の中心にATCをセットし、ダイレクトビレイで確保しようとすると、なぜかほとんどの人がATCより前でビレイしている。はなはだしい例では、ATCをセットした支点から3mも前に出て、テラスから覗きながらザイル操作している。 
        ではもしここでクライマーが墜落したら・・・。
 ATCの前に出ていると、ザイルはほとんど0°前後から開かない。前述の様に、ATCの「ふち」に当たっていない状態になっている。だがこれでは突然の墜落に対して、効果的な確保ができない。ただでさえATCは、ザイルをきちんと180°に開かないとザイルの流れを確実に止める事はできないのに、この状態でザイルを180°に開いて確保するには、後ろに飛びのかなければならないのである。これははっきり言って、確保器の特性を理解していない「間違ったビレイ」と言える。
 エイト環を使ったビレイでも、上記と同じパターンでは、やはり間違ったビレイではあるが、ザイルが8の字の首にかかっている分、まだ摩擦が生じるだけマシと言える。しかし、エイト環を使ったビレイは(特にダブルロープの場合)ザイル操作が重く、その為ATCを使う人も多い。しかし、ザイル操作が軽いという事は、油断していると墜落した時、予想以上にザイルが流れてしまう危険性をはらんでいると言える。

◆ビレイは誰の為に
 日和田でもつづらでも、誰かをビレイしている人に言いたい。確保器より前に出てビレイしたり、ザイル操作の軽さ故にATCを使う事は、本人にとっては快適だが、その快適さは諸刃の剣になる場合もありうる、という事を認識してビレイして欲しい。ビレイは自分の大切なザイルパートナーの「安全」の為にしている事なのだと。
 
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