岩小舎 9
負荷訓練と雪上訓練の感想
佐藤仁志(16期)
●丹沢・大倉尾根 負荷訓練
 丹沢の大倉から塔ヶ岳に至る大倉尾根は、どうやらボッカ訓練の定番コースになっているようであり、その証拠に塔ヶ岳山頂の山荘の別棟の壁には「ああ!涙と汗の歩荷訓練」などと記された布切れが下がっていたし、先日遭難した小西攻継氏の山岳会でも30kgを担いで大倉尾根から丹沢縦走を訓練としてやっていたようである。
 担ぎ上げた荷は12Kg入りの豆炭を二袋と調整用の石と若干の個人装備で、ここまでで約32Kg、飲料水を入れると約34Kgになった。その後は、尾根をひたすら登ったのだが、堀山当たりで、腿の前面の筋肉とふくらはぎがつり始め、花立直下の300段近い階段は、10段上がっては立ち止まり、5段上がっては立ち止まりという状態になっていた。結局、塔ケ岳山頂に着いたときは午後1時を過ぎており、計4時間50分をかけてしまった。(今回のボッカで最も早く上がった人は2時間を切っていたそうで、他にもコースタイムで歩いた人が何人かいたとのこと。うむむである。)
 さて、もっと楽に上がれる工夫はないものか。足のつりは最大酸素摂取量と関係あるので、これを増やすような練習をすることが必要と思われる。負荷自体への慣れもあると思われるので、やはり重いザックでの山歩きをたまにはやっておくべきかも知れない(そう言えば重いザックを担いだのは8月の穂高が最後であった)。それが思うようにならない場合は、自宅でスクワットでもやるしかない。後は気合いの問題で、「何がなんでも3時間半で上がるぞ」とか強力に思いこんで、筋肉疲労を恐れることなく、足を素早く前に出すということかもしれない。(最もこれが裏目に出たら悲惨だが。)
 最後″に、一担ぎ上げる荷を集めたり、鍋を作ったりと準備に当たられた皆様の苦労は並みひととおりではなく思え、大変感謝しています。

●富士山・六合目 雪上訓練
 ザックにピッケルをくくりつけると、格好だけは本格的な山ヤに見えるので、素直に言えば嬉しくないこともない。使い込まれた様子が出れば完璧だが、あいにく新品なのでいきなりそこまではかなわない。見る人が見れば、ポッと出の馬脚は覆い隠すべくもないのだが、それでも新たに1歩踏み出したことには違いない。
 佐藤小屋まで上がってもさほど雪は多くはなかったが、雷上訓練には十分ということでそこから少し回り込んだ斜面で訓練は行われた。
 まずは、斜面の登下降から。歩くという極めて基本的、日常的な動作なので本当は難しくないはずだが、アイゼンをしっかり利かせるためのflat footing,アイゼンのツメをひっかけないための両足の開き加減が注意点となる。特にアイゼンのツメをひっかけないことは大事な点であるが、実際に山に入って例えば疲労時にどれくらい注意できるかが極めて重要であろう。
 斜登降では、山側の足は進行方向に向け、谷側の足は斜面に沿って開き加減にする、これもflat footingをしやすくするためであり、動作としてもごく自然なので分かり易い。むしろ方向転換を一気の動作で行わず一呼吸入れて刻む癖を付けることが、やはり疲れたときにどれだけ丁寧にできるかという意味からも、重要に思えた。
 風姿勢は、もっとも実感しづらいものであった。これは風がほとんどなかったせいである。強い風が来るときは空が鳴るので分かるそうだが、これを聞いて慌てずに姿勢に入ることが大事とのこと。基本は両足をビッケルで正三角形を作るようにしてクラウチング姿勢をとって風をやり過ごすというものである。方向は?これは斜面に向かって作る。頭の方から足に向かって風が抜けていくのがべストだとは思うが、常に風の方向に正体して姿勢を作るのは足場の関係からも無理というものであろう。例えば、下山中に谷側から強い風が吹いたらどうするか?とりあえずは姿勢を低くしてやり過ごす手があるが、どうにも強い場合はやはり耐風姿勢をとることになるだろう。この場合、下を向いて耐風姿勢を取れるのか?やはり上を向くことになるのだろう。
 最も面白いのは滑落停止訓練であった。雪が硬かったためよく滑った。仰向けでピッケルを構え、足を上げて滑り出す。ある程度滑ったところで体を横転させビックを雪面に打ち込む。簡単なようだが、ビックを打ち込むタイミング、足上げ、肘の引きつけなどを完璧にやるためにはそれなりの習熟が必要。もっとも、滑落を直ちに停めることが最大の目的なので、とにかく何でもよいから諦めずに停めることが大事であり、常に一定のフォームで停めるべきというものでもない。その意味では滑り出した直後にアイゼンを利かせながら立ち上がることでも可である。ただし、アイゼンを使うと却ってひっかけて体勢を更に崩す可能性もあるので、標準的な滑落停止方法で常に足を上げるのはこのためである。
 ちようど前日やはり雪上訓練に来ていた人が二名滑落して命を落としていた。7合目まで上がって練習していたとのことで、そのこと自体の適否の問題はあろうが、練習に来たはずが本当の滑落になってしまったのだから本当にお気の毒だったとしか言いようがない。ことほどさように訓練とはいえ自分たちのやつていることも程度の差こそあれ潜在的には危険なわけで、このことは十分肝に銘じる必要がある。
 当然ながら1回の訓練でできる内容は自ずと限定されているので、雪上の歩き方ひとつとっても今後山行を重ねておいおい習熟していくことが必要。講評で金沢さんが指摘されていた「冬山にはゆっくりと取り組むこと」という言葉は、当分の間、金言とさせていだたくつもりである。
 
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