岩小舎 9
芝倉沢雪上訓練の記録
98.4.13
佐藤仁志
●今年の3月から4月にかけての週末は、あまり良い天気に恵まれなかったのだが、久しぶりに好天の週末となった。こと更天気にこだわるわけでもないのだが、やはり天気の良い方が万事につけ楽チンである。

●土合駅前で集合した後、芝倉沢へ向かう。土合橋を渡ったところから右手に湯檜曽川沿いの道に入る。雪解け水を運ぶ湯檜曽川の流れはどことなく上高地を思わせないでもないが、天神平ロープウェイの駐車場の裏手の斜面に捨てられた雪とともにゴミが散乱していたのは残念だった。あれは本格的な雪解け後に片づけられるのだろうか。

●マチガ沢、一の倉沢を過ぎた辺りで、川沿いに進むことが難しくなり、いったん左側に上がる。早くもキックステップの練習となる。幽の沢が見えてしばらくで、成蹊大学の虹芝寮に着く。芝倉沢はここからすぐである。すっきりと晴れ渡った青空に谷川の岩壁がよく映えていたのは言うまでもない。何か終日雪上訓練というのがひどくもったいない気分になる。

●例年に比べ雪が少なく、芝倉沢にもデブリがあったため、少し手前の斜面を利用して雪上訓練を行う。まず、春の湿雪上でのアイゼンの効き具合を確認するため、フラットフッティングでの登下降を繰り返す。ざらめ状になった雪はアイゼンの歯も流れがちだが、表面より少し下の雪は多少締まっているので強目に足を置くように意識。

●次にアイゼンを外して、キックステップでの登下降を試してみるが、ざらめ状の雪は蹴り込みも非常に楽で登りやすい

●ピッケルによる滑落停止については、雪がゆるいために非常に難しくなっていることが改めて確認された。基本は滑落したらすぐに停めるということに尽きる。スピードがつくとなかなかピックで停められそうにないようだ。むしろ、雪が柔らかい分、手足を雪に埋め込むようにした方が効果的かもしれないが、それもスピードがあまりつかないうちしか出来そうもない。これは後述するようにスタンディングアックスビレイに失敗して滑落したときに碓認できたような気がする。

●さて、スタンディングアックスビレイに入る前に、雪上における人工的な下降用支点の作り方であるが、次の二つの方法が示された。ひとつは、ヘッドにスリングをかけたビプケルを雪面に深く打ち込むという単純なものである。もうひとつは、雪面を少し掘り下げてピッケルを横に置き、シャフトの中間からスリングを出すとういうものである。これは掘り下げた部分の雪壁を支点とするものである。ピッケルの代わりにロープバッグに雪を詰めたものを使う工夫も紹介していただいた。このような支点は、実際に使う場面はごく限られる。立木などがあればこちらを使う方が確実だからである。どうしても適当な支点がなければとのことであった。

●スタンディングアックスビレイは、登下降の支点として使えるが、いわゆる肩がらみによるボディビレイで、確保者はセルフビレイをとることはない(確保者がセルフビレイを取れるのであれば、そのビレイポイントを使って確保すればよいので、わざわざボディビレイにする必要はない。)。

●これは、ヘッドにタイオフしたスリングにカラビナをかけ、滑落予定者のザイルをこのカラビナに通して脇の下から逆の肩にザイルを回して肩がらみでビレイしようとするものである。滑落予定者に近い方のザイルを持つ手を誘導手、遠い方のザイルを持つ手を確保手と呼ぶ。カラビナをかけたスリングは十分足で踏んで雪面からあまり遠くならないようにする。

●肩がらみによる確保なので、滑落予定者と確保者の間に大きな体重差があるとビレイは難しくなる。コツは一気に止めようとせず、多少ザイルを流しながら徐々に制動をかけていくことにつきる。特に滑落予定者の体重が重かったり、滑落距離が長くスピードがついている場合などは、これをやらないとほぼ必ず失敗するだろう。失敗するとどうなるか。一度失敗した経験によれば、強い衝撃によって体勢が崩れ、スリングを踏んでいた足が動いてしまう。雪の状態にもよると思うが、今回はそれでピッケルが勢い良くすっぽ抜け確保者も滑落した。こういう滑落の仕方をするとなかなか停まるものではない。今回は斜面が段々緩くなっていく揚所なのでもがいているうちに次第に停まったが、実際にこれで谷などに落ちれば命を落とす可能性は極めて高い。滑落し始めてから停まるまでがまるでスローモーションのように感じられ、自分の態勢や動作のひとつひとつが分かったから、実際の滑落は死に方としては実に嫌な部類に属するものであろうと想像する。

●この他、コンティニュアスによる確保の実際も見せて貰つた。これは、ザイルで繋がった二人がそれぞれザイルをループにして持ち、どちらかが滑落をはじめたらループにピッケルを通して雪面に打ち込むというものである。失敗する可能性の高い確保なので、これもあまり積極的に使う技術ではないとのことであった。
 
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