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岩小舎 9 |
シール歩行技術のポイント |
99年1月 |
宮下裕史 |
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シ−ル歩行技術のポイント(疲れずに早く歩く方法)
1.シ−ル歩行の基本
(要点)
・テールを上げないで歩く。スキ−は雪面から離さず、滑らせて進める(摺り足)。
足を持ち上げて歩くと疲労が早い。また、シ−ル剥がれの原因にもなる。足を力で前
に押し出さず、振り子の要領で後足を引き付けその余勢で前方へ滑らす。この場合、
脚の付け根から始動させるのがコツ。(pull and push,not lift)
・脚で歩く。腕(ストック)はバランスを保つ役目が中心。常に三点支持(両足と軸足
反対側のストックの三点)を保つ。
(1)基本3動作
動作1 :踏み出し足の踵を上げる。
・両足のスキ−を揃えて立ち、前進させる足の踵をあげる。(両足均等加重。ビンデ
ィング効果の活用)
動作2 :スキ−を前へ滑らせる。
・踵を上げたまま靴先で板を押さえ、スキ−を雪面から離さず、前進足に体重を移動
しながら摺り足で前方へ滑らせる。(ここでテ−ルがハネ上がり易いので注意)
動作3 :重心移動を完了させる。
・前足(滑らせた足)の踵を下ろして体重を乗せる。(2 の両足均等加重から前足へ
の重心移動が完了する) このとき、後足の踵は自然に上がって動作 1の状態にな
り、 2に続く。
(2)応用動作
・基本動作 2で、滑り出しの歩幅を大きくすれば、より早く歩くことが出来る。この
場合、前足の膝を曲げ、全体重をのせてしっかり腰を落とす。後脚は真っ直ぐ伸び
て踵が上がった姿勢になる。傾斜がきつくなったら歩幅を小さくし、上体の前傾と
軸足の踵荷重を強める。
・基本動作 1から 2へ移行する際の足の動きは振り子のイメ−ジ。振り子の後半で加
力して滑りを支援する。
(3)上体の動きとストックワ−ク
・上体は常に正対(正面を向く)し、ほぼ直立姿勢を保つ。きちんとした腕振りが、
バランスの確保とスピ−ドアップに不可欠。
・踏み出そうとする足(例えば右足)側のストック(右腕)を支えに、スキ−(右)
を前方へ滑らせ、同時に反対側のストック(左腕)を前方に突く。(突く位置は踏
み出した足首あたりが適当。斜面では傾斜がきついほど手前に突く)
・ストック操作
(突き出し側)
グリップは柔らかく握る。腕は力を抜き、肩を支点に、脇を開けずに真っ直ぐ前へ
振り出す。グリップを先行させ、ストックはグリップを支点とする振り子の要領。
石突きが雪面を捕らえる直前にグリップを固めるのがコツ。小さい、ムダの無い腕
振りが疲れないストックワ−クの基本。
(支点側)
支点側の腕は、肩とストックの石突きを支点に、グリップを外側へ反転(グリップ
が上を向く)させ、思い切り腕(肘)を伸ばして後方に振る。(胸をはる感じ。こ
れで上体の正対が保たれ、同時にスキ−の歩幅を伸ばすことが可能となる)
2.直登高(緩斜面向き)
・直登高がシ−ル登高の基本。
フラットに接面してシ−ル効果が高い、最短距離を進める、斜面をカットしない
(雪崩防止)などのメリットがある。クライミングサポ−ト、スキ−アイゼンを活用
して直登高を心掛ける。ただし、多少の技術(踵加重の前傾姿勢、ストックワ−ク
吊り落とし法*など)に加え、脚力、腕力を含めて体力を使うので、先の行程を考
えて無理をせず、斜登高を適宜組み合わせて消耗を避ける。
*(吊り落とし法)
テ−ルを雪面から離さずにスキ−のトップを上げ、叩き付けるように落として雪面
にシ−ルをより密着させる技術。
1 踏み出し側のスキ−を滑らせて前進させながら(体重移動をしないで)腿(もも)
を水平まで持ち上げて、スキ−のトップを吊り上げ、テ−ルは雪面から離さない。
雪面とスキ−板の間にテ−ル支点の横V字ができる。
2 吊り上がったトップを雪面に叩き付けるように落下させ、体重をのせて踏み込む。
3.斜登高(急斜面向き)
・斜登高は体力の消耗が少ないが、直登高のメリットがデメリットになる。ソ−ルが
フラットになりにくく固雪ではエッヂが立って滑りやすく、歩行距離も長くなる。
特に、斜面をカットするために雪崩誘発の危険もあることを常に意識して行動する
必要がある。
・ポイントはエッヂを立てずにシ−ル全面でフラットに雪をとらえることだが、斜面
では両足をフラットフィットさせるのは難しい。せめて、谷足を確実にフラットフィ
ットさせることを心掛ける。
(応用動作)
・余力があり、かつ速く登りたいとき…(階段斜登高)
山足を正面でなく斜め上前方へ階段登高要領で踏み出す(谷足との平行を保つ)。
山足へ体重移動をしながら谷足を引き寄せ、着地と同時に山足に沿って前へ滑らす
(基本3動作2の動作)。前進と登高を同時に行う方法であり、体力消耗は激しい
が早く登高できる。
4.方向転換
・登りは踏み変えタ−ン、下りはキックタ−ンが有効。
(踏み換えタ−ン)
傾斜が緩ければ小巾に何回かで踏み換えることができるが通常はワンステップで踏
み換える。
1 谷足に重心を置き、山側スキ−を逆ハの字型に踏み出す。出来るだけ最大傾斜線に
直角に置くと安定する。テ−ルは谷側スキ−の靴の踵あたりの位置。
2 山側スキ−に体重を移動してしっかり加重する。
3 谷側スキ−を回し込んで山側スキ−に揃える。
この方法は2 の体重移動が難しい。1 で山側スキ−を.谷側スキ−のテ−ルの下に
置く(一歩下がる)と楽に体重移動ができる。(「踏み下がり踏み換えタ−ン」)
(キックターン)
急斜面や重荷の滑降時はキックターンがベター。
1 スキ−を最大傾斜線に対して直角にして平行に揃え、足場を固める。
2 両ストックを山側に突いて加重しさらに山側スキ−にも加重して三点支持をとる。
3 谷側スキ−を前へ引き上げ、テ−ルを底にしてスキ−を立てる。
4 立てた谷側スキ−をテ−ルを支点にして回し、山側スキ−と反対向きに平行に揃え
る。(ここでバランスを崩しやすいので注意)
5 谷側スキ−に加重し、両スキ−とで三点加重する。
6 山側スキ−を回して谷側スキ−に平行に揃えて方向転換する。(ここではストック
操作がカギ)
…これが「谷側キックタ−ン」。谷足を軸にして山側スキ−を回せば山側キックタ−
ンになる。また、深雪ではテ−ルを後方に引き上げて方向転換する「後回しキック
タ−ン」も有効。
5.ラッセル
(要点)
・ラッセルの難易度はル−ト取りの良否に左右される。(尾根筋と谷筋、無立木帯と樹
林帯、西面と東面、強風帯と無風帯など。また、木の周りは落とし穴状のケ−スが多
いので避けて通る)
・適当な斜度をとる。
シ−ル歩行では後続者ほどシ−ルの効きが甘くなる。馬力に頼る急登高をせず、適度
の傾斜でル−トを拓く。
・技術的には
1 軸足を踏み固めたうえで踏み出し足を垂直に吊り上げる(前方へ踏み出さない)。
2 雪の抵抗がない高さまで吊り上げてからスキ−のトップを上げ、体ごと前へ落とし
込んでいく要領。(lift and drop)
・ラッセルは最適ル−トがとれたとしても体力を消耗する厳しい行動に変わりはない。
雪山では体力消耗が命取り、無理をして頑張らないこと。結果的にパーティーの足を
引っ張ることのないよう、若手やベテランに任せていい。
(宮下 裕史)
(ECクラブで山スキー入門者用テキストとして配布したものです)
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