恋の門 松尾スズキ監督 日04年
久し振りに映画館で邦画を見たが、今回の「恋の門」は、私にとっては「Party 7」以来となる、訳の分からない路線の、中々面白い映画だった。この一見不条理なB級映画に見える本作品主役は松田龍平・酒井若菜と言う若手俳優と監督・脚本を兼務する松尾スズキであるが、脇を固めるのが大竹しのぶ・小島聖・忌野清志郎・大竹まことなど錚々たるメンバーで、チョイ役で片桐はいり・田辺誠一・市川染五郎なども出てくる、非常に豪華な顔ぶれである。映画監督の塚本晋也をはじめとして、その他の映画監督や漫画家も出演している。このような豪華キャストを擁する本作品、映画館で私が見た回の鑑賞者が僅か5名程度(キャパは100人を超えていると思われる映画館)だった。これはちょっと寂し過ぎる観客数である。もう少し人が入ってもよさそうな映画だとは思うが。
映画の主舞台はいわゆる「コミケ」と言う奴か。マンガに命までは懸けていないが、かなりのめり込んでいる世界にいる人々を描いている。主人公の松田龍平は石でマンガを描くという自称「漫画芸術家」であるが、この作品というのが石の上に筆で字を書いて箱の中に並べるという呪われた代物のようなモノで、全然マンガに見えない、と言うより何を以ってマンガと言うのかがさっぱり分からない。もう一人の主人公の酒井若菜は素人漫画家でコスプレマニアと言うこの映画の主舞台で生きる。松尾スズキは元売れっ子漫画家で今は漫画バー(?)のマスターである。この三極を中心に、先述の豪華なメンバーが絡んでくる。
本作品における注目点はいくつかあると思われるが、基本的にはストーリーより役者に目が行った気がする。何しろストーリーは最後に石で身を覆った松田龍平が、住宅街の坂道を転げ落ちてプロパンガスに激突して爆発して酒井若菜とハッピーエンドなのである。感想もクソも無い。というわけで、以下箇条書きで人物ごとに感想を述べる:
その一 松田龍平
松田優作・松田美由紀夫妻の落とし胤であるサラブレッド俳優の松田龍平は、まだ21歳らしい。本作で初めて役者をやっているのを見たが、今回の演技を第一印象に設定していいのか本人に確認を取りたいくらい、何をやっても上手く行かない三枚目の若者を演じていた。しかし、不器用なぎこちなさをよく表現していて、結構感心してしまった。実際何でも出来る俳優なのでは無いか?
その二 酒井若菜
酒井若菜は24歳。グラビアアイドルと言うイメージしかなかったが、中々体当たりな演技振りだった。演技そのものはひょっとしたらそれ程評価できるものではないかも知れない。しかし、こんな子がこんな汚い役もカメラの前で出来るのかと言う奮闘振りから、幅広い可能性を感じざるを得ないところもあった。小池栄子とか深田恭子とかにこの役が果たして務まるだろうか?酒井若菜も感動作品や情事モノ、果ては支離滅裂モノまで何でも出来そうだ。
その三 大竹しのぶ
今回圧巻だったのは大竹しのぶだと思う。酒井若菜の母親役で、コスプレ歴は20年を越えると言う役回りだ。何しろ最後の方ではメーテルのコスプレで登場し、家業が傾いたため寿司屋でバイトを始めたと言いながら、メーテルの黒くて長い毛むくじゃらの帽子の中に太巻きを6本くらい入れているという不条理さを見事に演じ切っている。酒井若菜が果たして20年後に大竹しのぶレベルの何でも出来る女優になっているか…さすがにこのレベルは無理だろうか。
その四 忌野清志郎
松田龍平が住むアパートの住人。怪しさ抜群なアパート住人の筆頭を行くような役回りだが、口調は意外と平静で、そのギャップに薄く笑えるようなキャラクターである。これが間の取り方といい意外と素晴らしくて、脳裏に残った演技だった。
何はともあれ、何事も積極的に楽しむ姿勢のある人にはある程度オススメできる作品のような気がする。