がんばっていきまっしょい 磯村一路監督 日


あれは年の瀬も迫った大学院修士1年の時であるが、新大久保駅の近くにあった写真屋に、この世のものとは思えない程の美しさを持った人のチラシが貼ってあるのを見た。富士フィルムの田中麗奈ポスターだった。

というわけで、私にとってこの映画は、どう考えても田中麗奈である。

と言いたい所だが、見ていて色々思い出した。

この映画の舞台は1976年の愛媛県。主な舞台は松山である。県下一の進学校である伊予東高校(モデルは松山東高校)の女子ボート部の話である。

松山と言って私が思い出す映画は、「ダウンタウンヒーローズ」という暑苦しい青春映画だ。旧制松山高校(か?)が舞台で、その中で未だに真意が図りかねる「バンカラ」を前面(全面)に押し出した映画である。暑苦しさが大好きな人は、一見の価値あり。私は結構好きだ。

で、この「がんばっていきまっしょい」は青春映画ではあるのだが、間違いなくバンカラではない。運動部という厳しさもあまり感じられない。ボートをやってみたくて女子ボート部を作って、部員を掻き集めてチームを編成した田中麗奈だが、表面で熱さは出ていない。というわけで、終始暑苦しさを感ずる事は無かった。指導する先輩も体育会めいておらず、返事する時の女子部員の「はーい」という返事の気合の無さは、それだけで本来なら説教が入るレベルである。加えて中嶋朋子の演ずるコーチが、おいおい大袈裟すぎるだろ、と言うほどのやる気のなさ。

最初、田中麗奈演ずる悦子は、取り敢えず県下随一の進学校に受かってしまったものの、高校に入る前のウキウキ加減は完膚なきまで皆無。果たして高校に入って何をするのかも分からない状態である。同じ高校を出て京大に通う優秀なお姉ちゃんは、高校は勉強する所だから、部活は程々に、恋愛はダメと、あんまり厳しくなく言う。高校に入っても何だか身が入らず、数学の時間にも立たされてばかり。無気力高校生だ。

私の場合。都内の大学付属高校に入学した訳であるが、7割くらいは外の大学に行く、中堅半進学校という、最も中途半端な高校だった。毎朝校門で服装チェックがなされるなど、現代ではレアな高校で、女の子の髪型は「おかっぱ/お下げ/三つ編みの三種を認めるが、原則三つ編み」という校則だった。場所は青山だったけど、規則は北朝鮮のような学校だった(意味不明)。学校自体に活気が無く、付属だからやっぱり先生も活気がない人が多く、私自身、部活から引退した2年の秋以降は1・2時間目をサボって3時間目から来たり、そのまま学校サボって映画見に行ったりの無気力高校生だった。欠時数は学年3位。今考えると何を考えていたのか分からんな。明らかに大学時代よりダレていた。というか、ココまでの人生で、一番目的意識に欠如し、とにかく緩んでいたのが高校の後半部だった。だから、高校時代の思い出というのは、ハッキリ言ってあまり無い。隣の都立高校が楽しそうで羨ましい、という感じだった。隣の芝が青く見える奴は、自分の境遇を受け入れられないダメな奴で、一生自分を好きになれないダメな奴で、そんな奴は大嫌いだと思うのが私なのだが、何せ私自身がそうだった。まあ、ロジカルには繋がっているな。自分を好きになれない=そんな奴は大嫌い=あ、俺の事大嫌いじゃん。自分の選んだ道と言うか、自分が迷い込んでしまった道と言うか、そういうのに対して積極的に順応する、楽しむと言う姿勢がついたのは、高校卒業後である。もう与えられると言うことが無くなったから、仕方なく自分も変わっていったと言う面もあると思うが、お陰で今は隣の芝が青いとも思わないし、大学も戻れるなら同じ大学が良いと思う。ただ、高校時代はそうじゃなかった。

悦子はボート部を創部して、ボートに情熱を傾けていく。途中でセリフでも出ていたが、私にはボートしかないんですとは、明らかに劇中の悦子の本音だろう。まあ相変わらず暑苦しさは無いのだが、一生懸命練習している姿を見て、最初「あー、俺の高校生活には無かった一幕だなあ」と思いながら見ていた。ボート部は腰を痛めやすいというのは、私もよく聞いたことがある。悦子は腰を痛めるが、医者を振り切って黙って練習を続ける。おいおい、そんなことしたら余計悪くなるだろうが、と思うが、「私にはボートしかないんです」というのを聞くと、無理は納得できる。

そんなのを見ているうちに、何だか色々思い出した。

私は水泳部に所属していた。学校にプールが無かったので、外のプールを借りて練習する。弱小水泳部であったが、1年生とか2年生の夏は、水泳以外に何をやっていたのかあまり覚えていない。特に合宿。1日12km泳ぐのだが、泳ぎながら常に考えていたのは、「俺は何のためにこんなに泳いでいるんだろう」というものである。最初は色々「フォームはどう」とか考えているのだが、7000メートルくらいを超えた辺りから、この考えに支配される。25mプールをグルグル往復して、「次は絶対休もう」「次は絶対休もう」を頭の中で繰り返すのだが、先生に「よーい、go」と言われると、ダラダラスタートしてしまう自分。で「俺は何のためにこんなに泳いでいるんだろう」を繰り返す訳である。練習が終わった後、それはもう無の世界である。部屋に帰って布団のうえで、全員死んだように横たわっている。飯は喉を通らないし、風呂に行くのも面倒くさい。何しろ、部屋で横たわっているのも辛いのだ。

とかを思い出し、そうすると、無駄に元気だった高校時代を思い出し、何となくこの映画に移入していくのが分かった。

数々の賞を受賞したこの「がんばっていきまっしょい」。面白いかと人に問われたら、私は恐らく「お前にとって面白いかどうかは分からん」と答えるだろう。で、相手によっては「お前は見て『つまらん』と言うだろうから、頼むから見ないでくれ」とも言うかもしれない。

人によっては、張り合いの無い映画だと思う。

つまり、あんまり人に積極的に勧めない映画であると思う。でも、私個人はDVDを買おうかな、と思う作品でもある。

最後に、田中麗奈はやはり可愛かった。

追記;何か田中麗奈より俺の事ばかりだな。まあ、ここは田中麗奈ファンサイトでは無くてだなぁ…