ブレイブハート メル ギブソン監督 米


ハリウッド映画を観ない、などというカッコつけたポリシー(ポリシーとカタカナ表記すると何だか笑ってしまいます)を持っている訳では無いのだが、ハリウッド映画を映画館で観ることは最近は無くなりつつある。理由は簡単で、あとでビデオで見られるからである。ミニシアターでやっているような映画も最近ではビデオ化される傾向が強いが、全てビデオ化される訳では無い。しかし、話題のハリウッド映画はほぼ絶対ビデオ化される。時間の無い社会人として、「将来ビデオ化される作品を、わざわざ土日の時間を削ってみるのは勿体無い、他にも観たい映画はあるんだ」という事情が第一であるのだが。「ビデオで見るのと映画館で観るのは迫力が違うからダメだ」と言われる向きもあるかと思うが、私のノートパソコンの14.1インチ(しかもワイド画面仕様だとさらに小さくなってしまう)の画面でも、良い映画はまるでその質を損なわずに観ることが出来る。まあ、私の場合ですが。その好例は、このブレイブハートである。実はブレイブハートはかつて劇場で見たことがある。だが、DVDでハナクソのようなパソコン画面で見ても、ブレイブハートの迫力は(私には)強烈に伝わってきた。その、ブレイブハートについて感想文を書こうと思う。

と言っても、長い物語だし色々追って行くと大変なので、私が最も印象深く感じた場面のみについてだけ、ここで述べたいと思う。いつも感想というより研究のようになってしまうこのかんそうヴんのコーナーだが、今日はその際たるものになる予定。

ブレイブハートは95年度のアカデミー賞受賞作品である。スコットランドの反英の英雄、ウィリアム・ウォレスの伝記的物語を、両親がスコットランド系/アイルランド系というケルト系アメリカ人俳優、メルギブソンが監督から主演まで、色々やっている。

で、DVDを買って、4回くらい観たのだが、私が最も印象に残っているシーンは、スターリングにおける英軍との戦いで、メルギブソン扮するウォレスがスピーチをするシーンである。他の感想文系のホームページを見ると、ほぼ全ての人が、最後の「ふりーだぁーーーーむ」とウォレスが叫んで果てるシーンを「もう涙が出て仕方なかった」的に書いている。感動するシーンとしては、私のとってもこの最後のシーンである。だが、印象に残っているのは、スピーチのシーンだった。

ゲリラ戦を指揮・展開してきたウォレスは、遂にエジンバラの西北西70km余、グラスゴーの北東50km余のスターリングで、英軍との本格的な戦闘を指揮する。が、見るだけで吐き気を催すような大群の英軍を前に、スコットランド軍は怯み、何と帰ろうとする兵士まで現れる。そこで、ウォレスの主力軍が到着するのだが、その際にウォレスが士気高揚のためのスピーチを打つのである。

スピーチの内容を、メモ書きした。下記のようになる:
(ウォレス、以下W) Sons of Scotland! I am William Wallace.
(Scotland兵、以下S) William Wallace is seven feet tall.
(W) Yes, I've heard. He kills men by hundred. And if he were here, he'd consume the English with fire balls from his eyes, and lighting form his arse.
(Ss) HA HA HA!(兵士大受け)
(W) I am William Wallace.
And I see
a whole army of my countymen hare in defiance of tyranny.
(一同沈黙)
You've come to fight as free men
and free men you are.
What will you do without freedom?
Will you fight!
(*)
(Ss) (No!の大合唱)
(S) Against that? No.
We will run, and we will live.
(W) Aye. Fight and you may die.
Run, and you'll live.
At lease a while.(**)
(兵士、この言葉にやや沈黙し、ウォレスを注目)
And dying in your beds, many years from now,
would you be wiling to trade all the days from this day to that
for one chence, just one chance!(***)
to come back here and tell our enemies
that they may take our lives but they'll never take
our freedom!
(Ss)呼応の大合唱

字面だけで追うと、よく分からない。しかし、私は今上記のモノを書いていて、途中からやはり興奮してきた。そのシーンを思い出したからである。

最初(*)の所、ここは聴衆である兵士と、スピーカーであるウォレスの気持ちが通っていない。つまり、ウォレスの呼びかけは全く兵士達に届いていない。スピーカーであるウォレスの気持ちが先走っていて、ついていけない兵士が拒絶反応を示しているのだ。Will you fight!と言った際、兵士たちからブーイングとも取れるNoの大合唱が起こったからまだ良かったものの、このWill you fight!を聞いた時点で、帰ろうとする兵士が出てきてもおかしくない、それほどスピーカーと聴衆の場の共有は出来ていなかった。このような時、スピーカーは聴衆に歩み寄らねばならない。

このスピーチの次の山は、(**)である。兵士が「逃げれば生き長らえる」と言った際、ウォレスが肯定しつつ、ややposeを置いてAt least a whileと言う。それで、兵士たちの態度が、若干変わるのである。その後、ウォレスは平定なデリバリーで、しかし力強く、and dying in your beds, many years from nowと一気にスピーチする。そして次のsentenceの最初の語wouldから徐々に力が入り、all the days from this day to thatとこれも一気にスピーチする。(**)の瞬間、

そして(***)である。このスピーチ最大の山場は最後のour freedom!であるが、この(***)でスピーチの勢いが断然上向く。つまり、アドレナリン分泌の度合いが一気に上昇し、そして兵士たちの士気もグッと上がっている。ここへ来て、兵士の気持ちは完全にウォレスに追いつき、to come back hereからthey'll never takeまで一気にデリバリー、そして最後のour freedom!で兵士たちとウォレスの心は最高潮に達し、戦いへの準備が完了する。映画を見ている私にしても、いよいよ戦闘シーンに行く準備が出来た。つまり、ウォレス、兵士、そして私が三位一体となった瞬間、それがここである。

スピーカーであるウォレスのスピーチ中における感情を、グラフにしてみよう。

@登場のシーン (威勢がいい)
Afree menがどうのと、自説を展開 (聴衆ついて来ず)
Bwill you fight!と呼びかけるが、拒絶反応によって低下
Cat least a whileで、ややカーブが上向く
Djust one chance! 兵士がついてきた
E戦闘準備完了

私が最も鳥肌が立つシーン、それは上図のDである。テンションが最高潮に達するEにはまだ時間があるが、兵士の心を掌握するシーン、これがDである。完全に勢いを付いているものを最後まで持っていくのは、比較的容易である。難しいのは、今まで止まっていたものを動かすときである。この、今まで止まっていたものを動かすドライブ点、これがDである。兵士はCのat least a whileのシーンで、静の状態から浮かび上がる気配を出す。それを動かすシーン、それは繰り返すが、Dである。C、Dを経れば、Eに持っていくことはもう難しくない。

このスピーチを終え、ウォレスの同志であるアイルランド人のスティーブンのところに戻ったとき、スティーブンは「fine speech」と言って迎える。このときのスティーブンの顔は非常にリアルである。上手く説明できないが、凄いスピーチをした人間に対する顔である。このシーン、私の勝手な印象なのだが、スピーチの偉大さを物語っている。それが、このスティーブンの顔であると思うのだ。

スピーチは双方向のコミュニケーションである。確かに話しているのはスピーカーだけのときが殆どだ。だが、このようなシーンにおいて見れば分かるように、スピーカーと聴衆は完全に場を共有している。以心伝心までは行かないものの、このような成功しているスピーチは、相手である聴衆が共感を得ている、共感を得るスピーチをしているスピーカーは、聴衆の求めるものを理解している、と言う点で、コミュニケーションに成功していると言えるのだ。

結局、スコットランドはこのスターリングの戦で英軍に大勝する。実際の歴史では間に川があって、橋を渡るのにもたついていた英軍をウォレス率いるスコットランド軍が急襲して勝利を収めると言うものらしいが、この際史実はどうでも良い。問題は物語に興奮できるかである。

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