香港の大気汚染事情から考える、環境問題一考察


ニュース雑誌で読んだのだが、最近の香港は大気汚染がひどいらしい。今年の3月には史上最悪の大気汚染指数を記録したらしい。確かに、誌面上の写真の香港(中環付近)は、まるで中国の都市のような曇り様だ(あ、香港も中国の都市か)。昨年来、行政長官の董建華(漢字あってる?)氏は、政策指針に「環境問題への対応」を組み入れているみたいなのだが、まあ目新しい条例やらは殆ど発効されていないらしい。ただ、さすがに最近の大気汚染はひどいという訳で、香港の国会に相当する立法府は5月下旬にも、タクシー業者に総額で2億ドル(210億円くらいか)に及ぶ補助を与え、ディーゼル燃料(軽油)からLPG(液化石油ガス)に転換するのを奨励するという条例を通過させる勢いだそうだ。さらに、行政府は2006年までには全てのタクシーをLPGにシフトさせる予定で、これで香港内のディーゼル車の50%相当がディーゼル排気規制を受けることになるそうだ。まあ、これで少しはマシになると言う腹算用なのだろう。

行政サイドとしては、環境汚染業者に罰金を科したり、また交通問題の根本的な解決策として例に挙がる、車所有の規制なども考えているそうだ。ただ、車だけ規制したところで、中国からの排気が流れてきたり(だから香港は中国だと言うのに)、湾岸に存在する工場からの煤煙(私の会社も香港に石油プラント作ってたり)などからも影響を受けるため、完全な解決策にはならない。だが、ディーゼル排気規制や、車の台数規制を実施すれば、ニューヨークやらロンドンレベルにはマシになると、環境団体の人は言っているそうだ。

どっかで聞いた話だなと思っていたら、石原都知事がディーゼル規制に積極的だと言っていたのを思い出した。積極的どころか、完全に条例化する勢いなんだよな。国より先に動いたみたいだが、他の自治体も追随していくことも予想される。石原知事のこのスタンスには、賛否両論があるのかないのか知らないが、私は賛成である。香港のやり方にも賛成である。私見を述べると、環境問題は政治的な問題である。よって、環境に関しては、もっと議論がなされるべきであるし、実際に強制力を持った法案も発効させるべきだと思う(当然民意は反映させて)。環境問題がクローズアップされて日が浅いので、環境に対する政策の有効性を示すデータは乏しいような気がするが、以下の理由より、私は環境問題に対する政治の介入は有効性があると思う。

研修の一環で、私は会社の研究所を訪れた。ウチの会社が研究所で行っているのは、新技術の実用化であるが、その中には当然のごとく、対環境モノが含まれている。我々新入社員が受けた説明は、ディーゼル燃料精製の段階で以前なら大気中に放出していた硫黄分を、新しい脱硫技術によってかなりの度合いで取り除く技についてである。SOXとして知られている硫黄酸化物は、酸性雨の原因である。ディーゼル車が規制の対象になるのは、硫黄分をガソリンよりも大量に含んだ軽油を燃料としているからである。硫黄を含んだ燃料を燃やして走れば、当然燃焼によって硫黄酸化物が生成される。排気には硫黄酸化物が含まれており、上空まで上がって雨となって地表に酸性雨となって戻ってくる。石原都政がディーゼル車を規制対象にしたのは、納得のいく話である。

研究所で開発された技術によって精製されたディーゼル燃料(つまり軽油)に含まれる硫黄分は、国会や都の基準を大幅に下回る基準であるとのことである。これは素晴らしい技術である。これで精製した軽油は、これからも市場に出回る権利があるのだ。研究所の技術者の方は、他社との差別化に成功したと言っていた。

ただ、私には問題があると思われる。それはコストである。確かに、高い技術によって環境問題に対処することは出来るものの、その分コスト高になってしまう。現在スリム化を進めている石油元売各社に、こんなものが売れるのだろうか。私以外にもそう思っていた奴はいて、新入社員からその点での質問がちょっと飛んだ。私もした。それらの質問に対し、研究所の職員の人は、次のように答えている。

確かにコストは高くなるが、この技術は現在かなり引き合いがあり、海外からもアクセスがある。全ての企業で当てはまるかどうかは断言できないが、行政が決めたことは企業は守らざるを得ない。つまり、上の決定には企業は守るのは当たり前で、そのためにはコストについての努力と妥協をしなければならない。よって、コストが上がったところで、この技術の競争力は、既存の精製設備に比べて高い。何しろ、既存の施設は政府の決めた基準以上の硫黄分を含んだ軽油しか精製できない。つまり、もう政府が認めないも同然なんだから、その軽油を売れないんだし。

政府が決めたことは、企業は守る。これは、どうやら万国共通の現状があり、従って海外からの引き合いも多いと言うのは理解できる。この話を聞いて、環境問題は技術的な問題でもあるが、政治的な性格が色濃いものなんだと実感した。

香港の話に戻る。今まで董長官は年次政策目標として「環境問題」への取り組みを強化することを言ってきたらしい。だが、それには及び腰で、今までなあなあにやってきた。これは紛れも無い事実である。だらだらやっているうちに、香港は青い空を望めない、くぐもった街になってしまった。だが、環境問題は政治問題だ。今回の規制強化で、香港の青空が戻ったら、その政治的インパクトに政治家自身が驚くのではないだろうか。とにかく、うまいこときれいな空の香港が戻ってくることを期待している。