全講師は授業準備に心血注げっての


初年度における中3を送り出した3月、山崎校長から新たな指令を受けたのは中3の中位クラスでした。中位と言うと、本当に中くらいのレベルの生徒を考えてしまうでしょうが、実際はレベルはもうちょっと高く、目指すは学区トップの都立高や、進学実績の安定している私立進学校、さらには比較的有名な大学の付属高などになります。このようなクラスの生徒なので、基本的には学校の成績もよく、勉強に対しても最小限の真面目さを持っています。ただ、昨年の経験があったので、「最初は厳しそうな先生を装い、徐々に面白さを出していく」というものは実行しました。また、レベル的に全く問題なく授業運営をしていった1年かと言うとそうでもなく、特に1学期後半くらいから2学期にかけて、下位クラスから上がってきた生徒の対応などで苦慮したこともありました。加えて、女子生徒は特に数学が苦手で、この女子生徒の対応にも少し苦戦しました。ただ、最終的には苦手な生徒が偏差値60近くまで上昇したことで、少しは数学に対して嫌悪感を取り除いてくれたかなとは自負しています。

2年目の改善点

1年目の私の教務力における問題点としては、以下の5点があったことは既述の通りです。

  1. 授業のリズムが掴めていない
  2. 板書が上手く書けない
  3. 自分でも何を喋っているかがよく分かっていない
  4. 生徒がどうして分からないのか、その思考回路が分からない
  5. 実は、意外と中学校の数学のポイントを忘れてしまっている

4.や5.の問題というのは、前年度の経験から結構な割合で解消されました。1.、2.、3.については、2年目のカリキュラム初頭でかなり解消されました。特に大きかったのが、板書の技術向上です。板書技術の向上によって、授業のリズム感(1.に相当)は良くなりましたし、体系的な板書案によって3.に相当する問題もかなり良くなったと思います。様々なタイプの授業があると思いますが、板書は授業の中でも生命線ではないでしょうか。私自身の経験から言っても、板書の上手い先生の授業は、小学校から大学、さらには大学院の授業にかけても、集中できるし理解がしやすいものでした。私以外の友人に聞いても、やはり板書をしっかりしてくれる先生の授業がよいと言います。したがって、板書をしっかりすると心がけることは、授業運営に関して非常に重要な要素だと思います。

では、どのような過程を経て、私の板書はなされていくのか。これをここで書きたいと思います。

板書案作成および授業中での板書作成の流れ

1. 授業準備

まず第一に行うのは授業準備です。これは、1年目と2年目では完全に手法を変えました。1年目も授業準備はしていましたが、あまり体系だったものではありませんでした。これを大幅に見直し、「板書ノート」を作成することにしました。「板書ノート」とは、授業で書く板書内容を、A4のルーズリーフに書き下ろすノートです。基本的には、授業で私が書いた板書と、この「板書ノート」とはほぼ同一のものです。色使いも基本的には同じです。要点だけを書く先生もいますが、私はほぼ同一のものを書き上げることを基本としました。

板書ノートは、授業中の板書と同一のものですから、問題演習の解説などもそこに含めます。したがって、生徒のノートと私のノートは同じようになるはずです。これにより、生徒のノートのレイアウトも考えることが出来ます。生徒が家に帰って宿題なりをするとき、ノートを見返して何が書いてあるかわかるノートになっているように配慮することが可能となるのです。家に帰ってノートを見てみたら、何が何だかさっぱり分からん、なんて経験は私もしてきました。特に苦手な生徒が多い数学、これは何としてでも避けたいと私は考えたのです。したがって、板書ノート作りは、どんなに疲れていても手は抜きませんでした。

さて、では何も無いまっさらな状態から、私が板書ノートを作成できたかと言うと、そんなことはありません。何しろまだ2年目なので、すらすら書けるほどの知識はありません。第一、そんな能力が備わっているならば、板書ノートなど作成しません。したがって、何か叩き台となるような見本ノートを探しました。幸い、私のいた塾には授業ノートの見本のようなものがありました。このノートは上位クラス向けの見本であったので、それをそのまま中位クラスに適応することは出来ません。ただ、これを中位クラスレベルにアレンジしていけば、十分使える板書ノートが出来上がります。作業としては、ハイレベルな内容はカットして、さらに中位クラス生にも分かる説明を私が加える。つまり、余分な肉を落として、必要な肉をつけるという行為によって、板書ノートを作り上げると言う作業をしました。したがって、最初の見本授業ノートと私の授業ノートは、外見だけは全く違うものに仕上がりました。ただ、骨格は全く同じです。

以上より、板書ノートは作成できました。これで十分夜遅くなっているのですが、ここではまだ寝ません。これから、授業内でこの板書を使って喋る内容をちょっと考えました。全ては考えませんが、特に生徒がつまづくと予想できることを、どう説明するかを考えるのです。なんだかんだでこれが一番時間がかかりましたが、前年度の下位クラス指導経験がここで生き、私の頭の中の「どう説明すれば分かってくれるか」データベースからデータを総動員し、比較的効果的な説明の仕方が浮かんだものです。

以上で授業準備は終了です。ようやく眠れます。

2. 授業前

研究室から塾に出向くのは、遅くとも授業開始の1時間前です。ここで、プリントの作成などをします。プリントの作成は案外時間がかかり、また単純作業とも言えるため結構ダルいです。授業前の80%くらいを消費してしまいます。ただ、授業前に私が最も大事にしている時間は、残りの20%です。この時間に何をやっているかと言うと、昨夜書いた板書案の見直しです。同時に、授業の流れを再確認します。で、実際にイメージトレーニングと言うか、ちょっと頭の中で整理しながら、授業展開を考えます。たった10〜15分程度の時間ですが、これをやるのとやらないのとでは、その日の授業の充実度が全く変わってきます。

3. 授業中

さて、いよいよ授業に入ります。授業では、板書案とほぼ同じように(若干違うものになる)書きます。色使い、レイアウト、図や表の大きさ、これらも当然考慮に入れます。また、塾のホワイトボード(WB)には罫線が引いてあるため、これは最大限に活用します。どんな先生もやっていることですが、立ち位置、書く姿勢も、生徒に見えやすくすることが第一です。

さらに、私が板書を一旦終えたら、生徒に板書写しを止めさせるのも技術の一つです。生徒がノートを取っていて、私の説明を聞いていなかったというのは、非常に非効率的です。したがって、全員が写しを終えるまで、説明は始めない。これはそれほど徹底できたことではないのですが、極力そうするようにしました。また、数学という科目の特性上、式をどんどんかきながら、解法を追う形で説明する方が効果的であることが多いです。こういうとき、生徒がノートを取りながら聞いているのを見逃すことが多かったです。ただ、「説明が終わるまでは、ノート取るな」は、比較的定着したような気がします。生徒も、よくこれを守ってくれたと思います。

さて、板書が終わったら問題演習を生徒にやらせます。このとき、私は暇になります。ここで行うのは、以下の2点です。

(1)机間巡視
生徒の問題演習状況を覗くヤツです。私が重視したのは、問題演習の進み具合と、板書取りの質です。主目的は問題演習の進み具合を見ることで、適宜フォローも入れていきます。ただ、板書写しがちょっと分かりにくいと、そこは注意します。書き直しをさせることも、たまにはありました。

(2)板書チェック
机間巡視はこの時間の最重要業務なのですが、その前に一旦教室の一番後ろまで歩いて行き、WBを眺めます。板書のレイアウトをチェックするのです。字は適当な大きさか、図は見やすいか、色は見やすく効果的に使われているか、などを、生徒には分からないように指差し確認(恥)していきます。特に、板書案に無い、アドリブで付け足したところは字が雑になり、見えにくくなるものです。これは私が確認するよりも、生徒に確認するのが一番と考え、一番後ろに座っている生徒に「板書分かる?」とこまめに確認します。これによって反省点を見出し、次の板書にフィードバックしていくのです。何だか、エラく細かいことやったもんだなと、自分でも変な感じがします。

4. フォロー

中学生なので、部活もあり、欠席や遅刻も1学期は特に多いです。よって、授業内容のフォローが必要になってきます。ここで、板書ノートが違う真価を発揮します。板書ノートをコピーして渡せば、フォローが楽なのです。生徒にとっても、授業ノートの空白がなくなるので、非常に良いことです。ただ、授業は授業を聞きながら、ノートに書いていくという作業を通すことで、理解が進むものです。特に数学は、計算過程を目と手と頭で追っていくことが重要です。よって、ただコピーを渡されただけではちょっと厳しいのですが、何も無いよりはマシでしょう。当然、少しは補習しますが、補習も短時間で済みます。また、新入塾生や、クラス替えによって新しく入ってきた生徒にも、このノートは有用です。授業ノートをきちんと作成している背景には、フォローのことも考えたということがありました。

--

以上より、授業は順調に進んでいきました。そんな中で、自分なりに自信がついたのは、夏前です。夏期講習会前だったかに、他の先生の授業見学をするというイベントがありました。これは、夏期講習を前に、お互いに弱点などを指摘しあって、授業技術を改善することを目的としていました。ここで、私は小林先生と言う、当時中3上位クラスを持っている先生に授業を見てもらいました。この先生は当時の校舎の中で数学の教務力は最高で、前年度には凄い実績も出しています。この先生に、私の授業が評価されました。これは自信につながりました。さらに、山崎校長にも授業ノートを誉めてもらいました。そんなこんなで、私もようやく自分なりのスタイルが出来たと思うようになりました。

受験指導

さて、この年にもう一つ取り入れたのが、受験用プリント作りです。10月中旬くらいに、中学数学の単元は全て終了するのですが、この後のカリキュラムは曖昧でした。一応、塾の本部からのお達しはあったのですが、何だかよく分からないものだったので、これは自分なりにアレンジすることにしたのです。具体的にやったのは、生徒が受験する高校の過去問を洗い出し、その中から5つ(6つか?)の単元(因数分解とか関数、図形など)について編集し、プリントを作成したのです。これは、この校舎の、この年度の生徒のためだけに作ったものなので、他に流用するのはあまり効果的でないと思ったのですが、まあどうせ使うのは私だけなんで、その点は考慮しませんでした。

ただ、いきなり自分の志望校レベルの問題を、この時期にこなすのは困難です。特に、ずいぶん前にやったことは少し忘れてしまっています。そこで、前の授業で小テストを行い、それで不合格だった生徒は強制補習を別の日にしました。ちょっとキツい仕打ちですが、生徒たちは全く不平を言わずに、しっかりと補習に参加してくれました。私自身にも、当然給料は出ません。しかし、これは大正解で、授業で入試レベルの問題をやっても、かなりの生徒がついてこれました。この時の私は頑張りましたが、生徒は私の数倍よく頑張りました。講師と生徒の努力の相乗効果が出て、良い結果に結びつきます。

総評

結果的に生徒たちは、20人中18人が第一志望校に合格していきます。数学だけで受かったかと言うと、もちろんそんなことはありません。どの教科も、最終的にいいレベルまで行きました。ただ、年間を通じて数学は他教科を引っ張ったと思います。偉そうなことはいえないのですが、それなりに頑張れて、かつ成長できた1年ではなかったかと思います。