美?
 私はいま、アラフォーではない。
 “アラ” じゃなく “ジャスト” なのだ。
 記憶というのは結構いい加減なもので、20年前の自分と今の自分にそ〜んなに変わりが無いように思っていたりしたんだけれど、40を迎えてこちら、驚異的な速さで、自分の変化が見て取れるようになってしまった。
 気づかなかっただけ?かもしれないけれど、よくよく鏡を覗いてみると、今まで無かった(ように見えた)シミだのシワだのが、顔のあちらこちらにある。
 ありゃ?
 こんなんだったか?

 実を言うとこの20年間、私はファンデーションというものを所持していない。ひとつも。一回も。
 短大に入ってすぐに、それまではノーメイクで健康的に高校生活を送っていたのが、突如フルスロットルでメイクをし始め、気がついたときには、顔全体が肌荒れを起こし、スッピンの顔色が土気色で見られたモンじゃなくなっていた。
 そこでいつもお世話になっていた、小学校の同級生のお母さんである皮膚科の先生に診てもらったところ、
「 あなたはねぇ、外から余計な油分を足しちゃダメよ。弱いから。 」
「 とりあえず2週間スッピンでいなさい。そうしたら肌が再生するからね。 」
と、当時の私には悪魔のような診断を下されてしまったのだ。
 次の日から、今まで毎朝30分以上かけていたメイクをいっさいがっさいナシにして、高校生のときのようにスッピンで短大に通うようにした。周りの友人はビックリしていたのだけれど、その2週間で本当に顔色が元に戻り、ヒリヒリしていた肌荒れも治って、スッピンでも特に問題なく過ごせるところまで復活したのだ。
 もちろん、紫外線の問題があるので、スキンケアと日焼け対策はキチンとして、どうしても何かで覆いたけれはフェイスパウダーだけは許可を貰っていたので、遊びに行ったりするときなんかは粉だけをはたき、ポイントメイクだけして過ごすようになった。

 これがすでに20年続いている。

 いやいや、あんた女優でしょ。と言われると痛いのだが、確かに舞台メイクはしなきゃいけないので、ファンデーションよりも内容が劇アツなドーランを使っているが、1週間もしないうちに必ず肌荒れを起こす。先輩女優さんから肌に優しいメイク用品を教えてもらったりしたけれど、みんな結構高いのよね。・・・で、不思議なことに、荒れ始めてからまた1週間も続けていると、肌が慣れてきて元に戻ったりしていたものだから、そのままドーランを使い続けていたのだ。
 舞台が終わってカーテンコールの幕が閉じた途端に洗面所に突進していって、即効で顔の仮面を洗い流し、これでもかと化粧水をつけてから舞台の片付けに参加する毎日を続け、舞台以外ではほぼスッピンを頑なに通していた活動期。
 
 結婚して子供ができてからもスッピン生活は変わらず、パートで接客業をしている今でもファンデーションはつけずになんとかごまかしている。
 意外とこれで20年もの間、ひとからは 「 肌が綺麗だよね 」 と、半分社交辞令、もしくはなんとなくの話題のつながりで褒めていただいていたけれど、40過ぎてみて、やっぱり色々出てきちゃった。 

 超アンチエイジングで、ちょっと前に美魔女っていうのが流行ったけれど ( 流行りになるのも可笑しな話だと思うんだけど )、40過ぎて子供が3人くらいいて、どう見ても20代にしか見えません!て、そういう方が確かにいるにはいる。でもそれはあくまでも、40代の土壌で勝負?したときの話であって、実際の20代にはどうあがいてもなれないし勝てない。だってあちらは本物だもの。
 もしくはマイナス5歳肌。
 確かにこれは理想に近い。
 でも、40歳で35歳にしか見えない、といわれても、あまりピンとこない。自分の中では5歳ってあまり大きく変わらないから。
 
 歳を重ねても綺麗だったり可愛かったりする女性達の多くは、若作りしてるわけじゃなく、人生を楽しんで、今の自分を愛している愛嬌のある女性だったりする。シミもシワも沢山あるけれど、笑顔がとびきり素敵な老婦人なんかを見ると、こちらまで幸せになってきたりする。きっと人生の山も谷も星の数ほどあっただろうけれど、それもこれも全部受け入れて、現在の自分で満足できる人はそれ程多くないのかもしれない。 でもたまに、そんなオーラを持つ女性に会うと、小さなシミやシワは馬鹿みたいに思えてくる。
 あと10年後、私の顔や体がどう変化しているのかは、今、どう過ごすかに係っているのだけれど。

 あぁ、負け惜しみに聞こえる?
 上等上等。 それでもいいよ。
 とにかく私はこのシミとシワをみすぼらしくならないように大事にしながら、歳相応に生きていくんだからね!